旭硝子研究報告 67(2017)

電子デバイスパッケージングプロセスにおける熱応力発生を低減させる新規ガラス基板の開発

Novel Glass Substrate for Minimizing Thermal Stress Development During Electronic Device Packaging Process

野村周平*・澤村茂樹*・塙優*・酒井佑典**・林和孝*
Shuhei Nomura, Shigeki Sawamura, Yu Hanawa, Yusuke Sakai, and Kazutaka Hayashi

*旭硝子株式会社 技術本部 商品開発研究所
**旭硝子株式会社 技術本部 先端技術研究所

 ガラスはその優れた機械的特性と光学的特性から、大面積の半導体パッケージングプロセスにおけるキャリア基板として有用である。しかし、シリコン基板や樹脂との熱膨張係数(coefficient of thermal expansion, CTE)差による熱応力に起因する基板の反りが問題となっている。

 この熱応力の問題を解決する為、我々は熱膨張特性を精密に制御する手法を確立し、種々のパッケージングプロセスに適合した熱膨張特性を有する複数のガラス基板を作製した。本稿では、CTEが3.3~12.0 ppm/℃の範囲でsub-ppmオーダーで制御されたガラス基板と、特にシリコンに完璧に熱膨張係数が一致するように設計されたガラス基板について報告する。ガラスのCTEが熱応力発生に与える影響を評価する為、ガラス基板と接着した後のシリコンウェハの反り挙動について、実験と数値計算による調査を行った。結果として、熱処理工程では僅かなCTE差でも大きな反りを発生させる原因となることが分かり、大面積パッケージングプロセスでの熱反りの課題を解決する為には、sub-ppmオーダーでのガラスのCTE制御が必須なことが明らかとなった。

 シリコンにCTEが一致したガラス基板は、シリコンのバックグラインディングプロセスやThorough glass via (TGV)など、シリコンとガラスが直接接合されるようなプロセスで有用となる。またCTEが高い範囲で、特定の値に精密に制御されたガラスは、Fan-Outウェハレベルパッケージングプロセスなど、樹脂の使用率が高いプロセスにおいて有用となる。

Glass can be utilized as a support or carrier substrate for large-size semiconductor packaging processes owing to its excellent mechanical and optical properties. However, the thermal stress caused by a mismatch between the coefficients of thermal expansion (CTEs) of the glass and Si causes an unacceptable level of warpage during

thermal processes.


To overcome this thermal stress issue, we have developed novel glass material with a controllable CTE that can be finely tuned to suit a particular packaging process. In this study, we report a series of glass substrates whose CTEs are controlled on the sub-ppm scale in the range of 3.3–12.0 ppm/°C. In particular, a glass substrate with a CTE that is perfectly matched with that of Si is developed.

To evaluate the effect of the CTE of glass on thermal stress, the warpage behavior of a Si wafer bonded to a glass wafer was investigated both by numerical simulations and experiments. The results of both approaches indicate that even a small CTE mismatch can cause an unacceptable level of warpage during thermal processes. Thus, control of the CTE of glass on a sub-ppm scale is essential to address the problem of warpage due to thermal stress in large-size packaging processes.

The series of glass substrates whose CTEs can be precisely controlled over a high range are useful when the packaging process utilizes a large amount of resins, such as the Fan-Out wafer-level packaging process. The glass substrate with a Si-matched CTE is suitable for processes in which the glass is in direct contact with Si. For example, this material can be applied in Si back-grinding processes or through-glass-via formation technologies.

1. 緒言

 近年、特にハイエンド向けの半導体製造工程において、ウェハレベルパッケージング(wafer level packaging, WLP)やパネルレベルパッケージング(panel level packaging, PLP)といった大面積パッケージングプロセスの技術革新が目覚ましい。これらのプロセスでは、300 mmφのウェハや450 mm× 600 mmのパネルといった大面積で行われるため、樹脂パッケージや薄化したシリコンウェハのたわみを低減させるためにサポート基板が用いられることが多い。Fig. 1に、WLPのプロセス概略図の一例を示す。最終的な素子厚みを小さくする為に、ウェハ/パネルサイズのシリコン基板を薄化(バックグラインディング)する工程では、シリコン基板は100 μm前後まで薄化される。薄化されたシリコン基板は容易にたわんでしまい搬送不能になってしまう為、剛性のあるサポート基板が用いられる。また、最近大きく注目を集めているパッケージング技術であるFan-Out WLP(FO-WLP)では、シリコンチップや再配線層を配置する為のキャリア基板が必要となる[1]。Fig. 2にFO-WLPのプロセス概略図を示す。Fan-outプロセスの採用により、端子数の増大や複数の機能を有するチップを同一のパッケージ内に収納するなどの高機能化が可能となる。

Fig.1 Schematic illustration of a typical WLP. Backgrinded Si wafer needs support substrate.
Fig.2 Schematic illustration of a typical FOWLP process (RDL-first).“RDL”stands for redistribution layer.

 Table 1では、大面積パッケージングプロセスにおけるサポート、キャリア基板に求められる物性を、ガラス、樹脂、金属基板について比較している。ガラス基板は樹脂や金属と比較して、高剛性、高強度、熱的安定性、熱膨張係数の制御性、高化学的耐久性、高光透過性といった特性を兼ね備えており、基板材料として有用であると言える。また、加工精度も高く、平坦性の高い基板を提供できることは、樹脂モールディング時や基板吸着時の安定性につがなる。一方で、パッケージングプロセスに基板を用いる際の課題として、基板を高温で接合した後の冷却工程において熱応力が生じ、基板反りが発生することが挙げられる。この原因は、互いに接合されたガラス基板と、シリコンやモールド樹脂、配線金属といった異種材料の CTE差であり、WLPやPLPなどの大面積パッケージングプロセスにおいて特に顕著な問題となる。この課題を解決する為には、各プロセスあるいは材料に適したCTEを持つガラス基板を用いることが重要となる。

Table 1. Several properties that have impacts for packaging process.

 ガラスのCTEは、組成と仮想温度(溶融したガラスを冷却する過程で、分子構造が凍結され、結合の組み替えが起こらなくなる温度)により決定される[2]。仮想温度はガラスの製造プロセスによって影響を受ける為、たとえガラスの組成が同じであっても、CTEはある範囲で変化する。我々はCTEを精密にコントロールする為、これら組成や仮想温度がCTEの温度依存性に与える影響について、詳細に調査を行い、CTEが精密に制御されたガラス基板の設計手法を確立した。本稿では、CTEが3.3~12.0 ppm/℃の範囲でsub-ppmオーダーで制御されたガラス基板と、特にシリコンに完璧に熱膨張係数が一致するように設計されたガラス基板について報告する。また、ガラスのCTEが熱応力発生に与える影響を評価する為、ガラス基板と接着した後のシリコンウェハの反り挙動について、実験と数値計算による測定結果についても報告する。

2. 半導体パッケージング向けガラス基板の諸物性

2.1 Fan-Out WLP向けガラス基板

 FO-WLPプロセスでは複数の材料を用いて再構成ウェハを形成する為、各材料の物性やプロセス条件が複雑に影響してプロセス途中や最終的なウェハの反りが決定される。ウェハ反りに影響を与える代表的な因子としては、各材料のCTEやヤング率の他、シリコン/モールド比やシリコンチップの数と配列間隔、また各層の厚みなどがあげられる。その為、各パッケージングメーカーのプロセス条件や設計思想に応じて、適切なCTEを持つガラス基板をキャリア基板として用いることが主流となっている。この様な要求に対応する為、我々はガラスの組成や仮想温度を精密にコントロールし、CTEが3.3~12.0 ppm/℃の範囲でsub-ppmオーダーで制御されたガラス基板を開発することに成功した。

 Table 2には、今回開発したFO-WLP向けガラス基板のCTEを示している。ここで、図中のCTEは30℃から220℃までの平均値である。なお当然ではあるが、測定温度範囲が異なる場合は同じガラス基板でもCTEの絶対値は変わってくる為、異なる出典のCTE値を比較する場合にはこの温度範囲に注意が必要となる。

Table 2. Glass carrier CTE line up for Fan-Out WLP (Some of the glasses are under development).

 我々はガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有有無により、ガラス基板を大きく2種類にグルーピングしている。即ち、無アルカリガラス基板と、アルカリ含有ガラス基板である。なお、AGCにおける本用途の一群 のガラスにおいて、無アルカリとは、ガラス中に含まれるNa+やK+といったアルカリ金属イオンの含有量が、Na2OやK2Oといった酸化物換算で1000 wtppm以下であると定義している。ガラス中に含まれるアルカリイオンは移動度が高く、200℃といった一般的なプロセス温度でも容易にガラス中を拡散する。アルカリ含有ガラスがシリコンチップと接触している場合には、チップへのアルカリコンタミ源となり、半導体デバイスの信頼性劣化を引き起こすことが知られており、汚染が懸念されるプロセスを含む場合には、無アルカリガラス基板を用いることが望ましい[3]。我々は、無アルカリガラス基板では、3.3 ppm/℃から8.1 ppm/℃までのCTEを持つガラス基板を開発している。一方でアルカリ含有ガラス基板では、CTEが12.0 ppm/℃までの高い領域での開発に成功している。モールド樹脂の典型的なCTEは数10 ppm/℃以上であり、ガラスよりもかなり高いCTEを有している。その為、プロセス設計指針により樹脂の使用率を下げられない場合や、フィラー添加による樹脂のCTE低下などが十分に図れない場合は、12 ppm/℃といった高いCTEのガラス基板をキャリア基板として用いることが望ましい。この様に、プロセス条件によって最適なCTEのガラス基板を使用することで、プロセス中でのウェハ反りや、チップシフト(モールド樹脂の硬化・冷却に伴うシリコンチップの位置ずれ)といった問題を解決することが可能となる。

2.2 Si-CTEマッチング無アルカリガラス基板

 Fig. 1の様なシリコンのバックグラインディング(BG)プロセスや、細孔の空いたガラス基板を介して複数のチップを3次元的に接続するThrough Glass Via(TGV)[4]などの様に、シリコンウェハとガラス基板が直接貼合されるようなプロセスで反りを無くす為には、ガラス基板のCTEは広い温度範囲でシリコンと同一であることが望ましい。また、前項で述べたように、ガラス基板は無アルカリである必要がある。これまでにもシリコンとCTEが近いとされる無アルカリガラス基板はいくつか製品化されていたものの、CTEの温度依存性という観点でみると、従来のガラス基板の特性はシリコンとは大きく異なるというのが実際であった。近年のWLPでは300 mmφといった大型でのパッケージングを行う為、わずかなCTEの差でも大きな反りを発生させる原因となってしまう。我々はこの課題を解決する為、シリコンとCTEの温度依存性まで完璧に一致させたガラス基板の開発を行った。

 Fig. 3(a)には、2種類のガラス基板Glass A, Bと、今回開発したガラス基板であるSWAN310のCTEの温度依存性を示してある。これらのガラスは全てアルカリ金属酸化物を意図的に含有していない、アルミノボロシリケートガラス(SiO2-Al2O3-B2O3-RO, ROはアルカリ土類金属酸化物)である。Fig. 3(b)には、それぞれのガラスにおいて、シリコンとのCTEの差分(ΔCTE)をプロットしたグラフを載せている。Fig. 3(a),(b)からわかるように、CTEをより精密に評価した場合、Glass AやGlass BといったガラスはCTEの温度依存性においてシリコンとの差が生じている。即ちGlass Aは0.3〜0.4 ppm/℃程度シリコンよりもCTEが高い。またGlass Bに関しては、240℃よりも低い温度域ではシリコンよりもCTEが高く、240℃よりも高い温度域ではシリコンよりもCTEが低くなっている。この為Glass Bは、例えば“室温から400℃までの熱膨張量”といった値はシリコンと同じ値をとるが、それ以外の温度範囲、例えば“室温から250℃までの熱膨張量”、といった場合にはシリコンとの間に差が生じることになる。パッケージングプロセスにおける典型的な熱処理温度は、樹脂のキュア時は200℃前後、はんだリフロー時は250℃前後である為、この温度域において特にガラスとシリコンの熱膨張挙動が一致していることが望ましい。

Fig.3 Comparison of CTE between Si and typical non-alkali glasses(Glass A and B)and newly developed glass (SWAN310).
(a)CTEs of Si and glasses.
(b)CTE differences of glasses from Si substrate.

 今回新たに開発したガラス基板であるSWAN310は、組成成分や仮想温度といったパラメータを精密にコントロールすることで、より高い精度でシリコンとのCTEマッチングを達成している。即ち、室温から300℃までの温度範囲において、ΔCTEが±0.02 ppm/℃以内となっている。この為、ボンディングプロセスにおける熱処理温度によらず、シリコンとガラスの界面に発生する熱応力を最小限に抑えることが可能となる。ガラスのCTEがシリコン基板と積層した際の反り挙動に与える影響については、次章においてより詳しく分析を行っている。

 Table 3には、SWAN310の機械的物性や光学的物性を記載した。SWAN310は85GPaという高い弾性率を有しており、プロセス中で基板内に応力がかかってしまう際にも、基板の反り量は小さくなる様なガラス基板となっている。また、「ガラス基板自体の自重によるたわみ」に影響する数値である比弾性率(ヤング率を密度で割った値)も高い為、WLPやPLPといった大サイズで搬送する工程により適したガラス基板となっている。

Table 3. Mechanical and optical properties of SWAN310.

3. ガラス基板と積層したシリコン基板の反り評価

 ガラス基板のCTEがシリコン基板と積層した際の反り挙動に与える影響を評価する為、数値解析と実験によりその評価を行った。

3.1 解析条件

 Abaqusソフトウェア(Dassault Systemes社製)を用いて有限要素法により数値解析を行った。計算条件はTable 4に、使用材料の物性はTable 5に記載してある。ボンディング温度においてシリコンとガラスが接着したと仮定し、その状態で室温まで降温させた際の熱反り量を数値計算により求めた。

Table 4. Parameters used in this study.
Table 5. Materials property used in this study.

3.2 実験条件

 シミュレーションと同様の基板構成において、接着温度が200℃の際の熱反り量を測定した。接着樹脂には東京応化工業製の熱硬化性樹脂[5]を用い、昇温、降温速度は10℃/min、熱処理時間は1時間にて試験を行った。ガラス基板のCTEは横型熱膨張計(NETSZ CH社製 DIL-402C)を用いて測定した。またリファレンスとして、2枚のシリコン基板を接着し、熱処理した際の反り量の変化も測定を行った。

3.3 結果と考察

 数値解析により求めた、ガラス基板と積層した際のシリコン基板の反り量のコンター図をFig. 4(a),(b),(c)に示す。コンター図において、赤色はガラス基板方向への変位量が大きく、青色は変位量が少ないことを示している。紙面の都合上接着温度が200℃の場合のみの図を記載しているが、その他の接着温度でも反りの量が違うのみで、ガラス基板による反り量の差は同様の傾向であった。また、数値解析結果から、各接着温度における反りの最大値をまとめたものをFig. 5に記載している。図中で正の値は、ガラス方向に反っている、即ちガラス基板が下側の場合には凸方向に反っていることを意味している。Fig. 4,5から、積層基板の反り量は熱処理温度域におけるΔCTEの積分値、即ち基板の収縮量に影響を受けていることが分かった。Glass A, Bは室温から接着温度までのCTEがシリコンよりも高い為、接着後の冷却過程でシリコンよりも収縮量が多く、凸反りが生じる結果となっている。対照的に、SWAN310と積層したシリコン基板はほとんど反りが発生しておらず、材料のCTEマッチングの効果が表れていることがわかる。更に、SWAN310とシリコン基板を接着した場合は、接着温度が変わった場合でも反り量がほとんど変化していない。ここから、SWAN310をガラス基板として用いる場合には、樹脂の種類の変更などにより熱処理条件が変わるような場合でも、反り挙動は影響を受けないことが示唆される。

Fig.4 Simulated deformation patterns of Si wafers bonded with Glass A,B and SWAN310. The bonding tempera- ture was 200°C .
TFig.5 Simulated maximum warpage of Si/glass laminated wafer.
Fig.6 Experimental results of maximum warpage change of Si/glass laminated wafer.

 Fig. 6は、実験により求めた熱処理前後での最大反り量の変化量を示している。実際の基板は板厚偏差やたわみ、初期反りを有しているが、本試験では熱反りの影響のみの評価を目的としていた為、熱処理後の最大反り量ではなく、熱処理前後での変化量とした。実験結果は数値解析結果と良好な一致を示している。即ち、Glass A, Bとシリコン基板を接着した場合には凸反りが発生し、シリコン基板やSWAN310と接着した場合にはほとんど反り量の変化は見られなかった。シリコン基板またはSWAN310と接着した場合共に若干の凹反りが見られたが、これは熱処理の際の温度不均一によるものと考えられる。

4. まとめ

 熱膨張特性を精密に制御する手法を確立し、種々のパッケージングプロセスに適合した熱膨張特性を有する、複数のガラス基板を開発した。また、シミュレーションと実測により、ガラス基板とシリコン基板を接着し、熱処理をした際の熱膨張係数差による反り量を測定した。結果として、ガラス基板とシリコン基板の膨張係数差が0.1 ppm/℃程度であっても、300 mmφといった大面積基板では熱反りが発生することがわかった。一方で、新たに開発したSWAN310は、シリコン基板との熱膨張係数差が、室温から300℃の間で0.02 ppm/℃以下と非常に小さく、熱反りも十分小さいことが確認された。

5. 謝辞

 本試験の実施に際し、東京応化工業株式会社に接着樹脂の提供、基板の貼合を実施頂きました。ここに謝意を示します。

6. 参考文献

  1. J.Compos et al., “Temporary wafer carrier solutions for thin FOWLP and eWLB-based PoP”, Chip Scale Review Jan.-Feb. 2016, 13
  2. 山根ほか, ガラス工学ハンドブック, 112 (1999)
  3. 旭硝子株式会社, “ガラス基板、積層基板、およびガラス基板の製造方法”, WO2016/125787/A1
  4. 佐藤ほか, 表面技術, Vol. 66 (2015) No. 2 p. 33-37
  5. A. Kubo et al., “Development of New Concept Thermoplastic Temporary Adhesive for 3D-IC Integration”, Proc. IEEE Electronic Components & Technol. Conf. (ECTC), Orland, FL, May, 2014, 899