旭硝子の研究開発部門で産声をあげた新商品は、初めは試験設備でつくられたサンプルにすぎない。 これを実際の製品として市場に送り出すためには、商品仕様や生産性、コスト面をクリアした生産プロセスを確立し、量産設備を担うエンジニアリング部門へと迅速にバトンタッチする必要がある。 また、旭硝子のモノづくりを深化させるためには常に革新的な生産技術を生み出していくことが欠かせない。 このような役割を担うのが生産技術開発部門であり、2010年に始動した生産技術センターが、その拠点である。
旭硝子の生産技術開発は、コーポレートの開発組織である生産技術センターと、各カンパニーなどの生産技術グループが行っている。そのうち、生産技術センターは、中央研究所のプロセス部隊と、エンジニアリングセンターの設備系開発部隊を1カ所に集約し、スタートしたコーポレート組織である。一方、各カンパニーなどの生産技術グループは、各工場の製造現場に密着した技術開発を担当している。 生産技術センターには、新商品が誕生した時、製品化に際して出てくるさまざまな課題を解決して生産プロセスを確立し、実機生産につなげるという重要な責務がある。さらに、生産技術センターは、新規のガラス製造プロセス、省エネプロセスなど革新的な生産技術を生み出すことで、旭硝子製品の圧倒的差別化を実現させる役割も担っている。生産プロセス開発と設備開発を同時並行で進めることで開発スピードを上げ、実現することこそ、旭硝子が生産技術センターを立ちあげた狙いなのである。 さらに、生産技術センターでは、コーポレートの立場から行う開発だけではなく、各カンパニーなどが製造現場で抱える生産性向上、環境負荷低減などの課題についても、取り組んでいく。生産技術センターのミッションは、生産技術開発に関するコーポレート研究開発と、各カンパニーなどの委託による生産技術開発の2つであり、生産技術のプロフェッショナルとして、長期的課題から短期的課題まで多岐にわたる課題を解決することが求められている。
生産技術センターの業務の特徴は、ある課題を解決するための新たな生産プロセスを開発し、新たな生産設備としてつくりあげ、製造現場に導入するまで、一貫して責任を持つ点である。理論面から実際面までトータルに扱うスペシャリスト集団である。生産技術センター内の部署の垣根を越え、テーマごとに多様なメンバーが集まり仕事を進めることも、もうひとつの特徴である。各カンパニー、中央研究所、エンジニアリングセンターなどのメンバーと一緒にプロジェクトチームを編成することもある。柔軟に、機動的に、さまざまな組織・部門とコラボレーションしながら仕事を経験することが、広い視野と高い視点を持つ技術者を育てるのだ。 また、生産技術センターは、ガラス開発設備である中型溶解炉を専用に持っており、新商品のプロトタイプをユーザーに評価いただくためのサンプルづくりや、新たな生産プロセスに関する試験などを行っている。実量産設備並みの設備であり、これだけのも開発専用に持つガラスメーカーは多くない。旭硝子の生産技術部門の大きなアドバンテージである。
これまで数多くの画期的な成果を生み出してきた、旭硝子の生産技術力。たとえば、他社とは異なる製造方法をあえて選択し、世界で初めてフロート法による液晶ディスプレイ用ガラス基盤の量産に成功したことは、現在の旭硝子の収益を支える大きな力をもたらした。このように、旭硝子の経営に生産技術で力強く貢献することをめざし、生産技術センターでは多岐にわたる革新的な開発テーマに取り組んでいる。 例をあげれば、省エネプロセス技術では、画期的な「気中溶解」技術の実用化に向けた開発が進行中だ。現在のガラス製造では原料を溶解窯に投入し、重油バーナーの炎で時間をかけてどろどろに溶かしているが、気中溶解窯では微粉原料を高温のプラズマ燃焼炎に噴射投入する。原料はほぼ瞬時に溶け、溶解エネルギーを従来より半減させることが可能となるのだ。 また、ガラス生産設備の内部は想像を絶する高温の世界である。そこで実際に何が起きているのかは、まだわかっていないことがあまりにも多い。ガラスの製造プロセスの状態を「見える化」して自在に操ることは、ガラスにかかわる技術者なら世界中の誰もが持つ夢であり、ガラス生産技術の劇的な向上に直結することは間違いない。生産技術センターでは、高度なセンシング技術、電気制御技術、シミュレーション技術などを組み合わせてこの難しいテーマにも着手し、チャレンジを続けている。困難な目標をあえてめざす開発スピリットから、今後も世界を驚かせる成果が次々に生み出されていくだろう。
旭硝子の生産技術は、「Process」、「Operation」、「Euipment」、「Science&Chemistry」という4つの要素から構成され、専門性の高い技術を融合することにより、革新的な成果を生み出している。したがって、生産技術部門では、物理、数学、化学、機械、電気、システムなど、幅広い領域の高度な知識が必要だ。仕事経験を重ねることで専門性を高め、異なった領域にも自ずと理解が広がる。その結果、生産技術をトータルに捉え新しい課題解決方法を提案、実行できる力を身につけた、創造性豊かな技術者に成長していくことが可能である。 そのような技術者を育成するための専門教育は、充実した内容となっている。特に重要なことは、入社後数年間の時期にどれだけ中身の濃い学びができるかだ。この考え方から、生産技術センターでは入社後5年間位までと位置付けている「エレメンタリー技術者」育成に力を注ぎ、今後の基礎となる幅広い知識の習得と、創造的な思考プロセスを実践で身につける訓練の場を数多く提供している。 たとえば、業務のなかで行われている「技術バラシ」は、ある課題について今後どのような技術を開発していけばいいか、第三者のメンバーも招いて関係者が自由に議論を展開する場であり、若い技術者が学べる機会となっている。さまざまな場で知識を蓄え、知力を鍛えるなかで、技術者としての力が日々ついていると実感できるだろう。