世界のビジネスフィールドでは知財権をめぐる攻防が激しさを増している。 “敵を知り己を知らば百戦危うからず”厳しい国際競争を勝ち抜くには、孫子の言葉通り、競合他社の動向を知り、自社の強み、事業の方向性を把握したうえで、知的財産(知財)をどう活用し、どう守り、研究開発をどう方向づけるか、といった知財戦略を組み立て、タイムリーに実行に移していかねばならない。 その重責を担うのが知的財産センターだ。 グループの知を結集して世界へ展開していく、知財の専門家集団の活動抜きに旭硝子の事業戦略は語れない。
世界を舞台にますます企業間の競争が激しくなる現代。知財はまさに他社排除ができる制度であり、競争に打ち勝つ強力な武器となる。いくら優れた技術をいち早く開発しても、知財権を取得していなければ模倣される恐れがある。逆に他社の知財権を把握していなければ、自社の侵害に気がつかず、多額の損害賠償を請求されるリスクもある。知財は企業がビジネスの戦場で戦うための槍であり、自らを守る盾でもあるのだ。その活用次第で事業戦略の成否を左右する重要な資源であり、戦略ツールといえるだろう。 そこで旭硝子では知財戦略の策定と実行を担う知財センターを設けている。知財センターは経営会議に直結する組織で、中央研究所・生産技術センター・エンジニアリングセンターと並ぶ位置づけがなされ、知財の観点から経営をサポートすることが求められている。知財の創出を支援し、その保護・増強を図ることで事業戦略の目的である競争優位性を構築していくことが知財センターの任務なのである。
知財センターは知財戦略の策定と実行を使命とし、日々の知財活動にあたっている。具体的には知財の取得(特許権利化)や調査、権利行使・事業防衛など6つのメインプロセスと日本及び主要国の特許制度調査・教育など10個のサブプロセスに分類され(下図参照)、その業務を日々まわしながら、つねに能力強化に努めている。 知財取得プロセスでは、発明者とともに特許設計を行い、特許事務所などと連携しながら内外の特許庁に赴き、自社の独創性を主張し、権利化までを主導する。知財センター員には、技術と知財に関する深い理解と、交渉をリードできるコミュニケーション力が求められる。もちろん特許は取得して終わりではなく、出願から20年にわたる保護期間をどのように活用するかで市場シェアの維持・拡大につながる。つまりはそれだけ先を見越した戦略構築が重要なのだ。 たとえば旭硝子のPDP用ガラスPD200に関する知財活動は、知的財産協会の「知的経営支援プロジェクト」において、“日本発で需要創造に寄与し、高シェアを誇る商品”の知財戦略例として研究対象に取り上げられ、高く評価されている。優れた発明・技術を、知財の観点から強力な戦略ツールに構築することが、事業・商品価値の最大化につながる好例だ。広い技術分野をカバーする旭硝子では、境界領域の知財権を取得できるのも強みとなっている。知財センター員にとってAGCグループの豊富な技術蓄積はまさに宝の山といえるのだ。
知財センターがめざすのは「先手の知財活動」だ。訴訟に至る前に、強力な特許網を築き、そのリスクを回避する。仮に訴訟に発展したとしても事前に対応策を備えておけば交渉を有利に進めることが可能になる。もちろん事業戦略や研究開発戦略の策定・実行の初期段階から、知財戦略を組み込むことが基本だ。 一線で研究開発にあたる技術者の知財意識を高めることも知財センターの役割だ。技術者向けの知財講習会を開いたり、技術者が他社の知財権をタイムリーに調査できる簡単操作の特許検索システムを導入するなど、知財センターは技術者の研究と技術の権利化を支援している。 特許出願については、基本的に市場のある国で、事業ごと製品ごとに判断して行う。出願件数でみると近年は海外出願が増加の一途をたどり、2010年には中国での出願が米国でのそれを上回った。まさにグローバルな市場の変化が、知財活動のグローバル化を加速する状況にある。したがって、知財センター員が海外へ出張して案件の処理にあたるケースも増えている。このためセンターでは海外での実務研修制度を設け、世界の知財のプロフェッショナルと対等に渡り合える人材の育成に努めている。 旭硝子は事業領域・事業地域のいずれも広く、そのなかで知財センター員は社内外の多くの専門職と関わって活動する。@広い分野の最先端技術にふれ、A技術知識と法律知識の両方を習得し、B習得した知財権を活用することができる、といったところが知財センター員の仕事の特徴だ。ときには事業の行く末を左右する専門的な判断を求められることがあり、その意味で責任は非常に重いが、それだけにやりがいも大きい仕事といえるだろう。