AGCが変えたもの

PROJECT 03

環境に優しい冷媒
「HFO-1234yf」
製造プラント始動を
目指して

  • 竹之内 雄太
    竹之内 雄太
    Yuta Takenouchi
    千葉工場 ファインケミカル部 ファイン2課
    2008年入社/化学工学専攻修了
    製造エンジニアとして本プロジェクトにアサイン。数々のプラント建設を手がけてきたプロジェクトの起案者に誘われたのがきっかけだった。「やってみないか」との勧めに、「やります」と即答した。
  • 三枝 幸和
    三枝 幸和
    Yukikazu Saegusa
    化学品カンパニー 技術統括本部 設備技術部 
    海外グループ
    2007年入社/工学部卒
    2012年から約3年間、千葉工場施設センタープロジェクトグループに属していた時に、本プロジェクトにプラントエンジニアとしてアサイン。フロンガスプラントのメンテナンス経験が長く、ガスに対する知見の豊富さを買われ上司に強く推された。
※所属部署は取材当時のものです。
  • Chapter01

    いきなり難題に直面した
    大プロジェクト

    環境問題への対策が世界的な課題となるなかで、近年、自動車用エアコンなど冷凍空調の分野では、地球温暖化に影響を与える高い温室効果を有する冷媒の排出を規制する気運が盛り上がっている。特にEUでは厳格な欧州Fガス(※)規制によって、2011年から冷媒用途でのHFC-134aの使用が段階的に禁じられ、2017年1月から発売されるすべての新車に対しての使用が禁止されることとなった。
    こうした背景からAGCでは次世代型冷媒開発への動きが加速し、2013年暮れ頃には30歳前後の若手エンジニア5名が集結し、それを中堅・ベテランのエンジニアがサポートする計11名の体制で、次世代型冷媒製造プラントの建設プロジェクトがスタートしようとしていた。「プラント建設という大型プロジェクトにアサインされてエンジニアとして力を発揮するのは、入社時からの念願でした」と竹之内雄太が当時の興奮を振り返れば、三枝幸和も「その念願はエンジニアなら誰でも願っていることで、私もまっさらなところからプロジェクトを手がけたいと思っていました」と語る。ただ、その願いは採算性を不安視する経営トップの承認が下りるまで叶うことはなかった。それでも各メンバーは、承認後に直ちに始動できるよう、過剰スペックと思われた機器やプロセスを見直しながらコスト削減や工期短縮を図るなど準備を進めていた。次世代型冷媒として注目されているのは、ハネウェル社など海外勢が開発し製品特許を持つHFO-1234yf(ハイドロフルオロオレフィン)。AGCは独自に開発したその製造技術の特許を持ち、ハネウェル社へOEM供給する計画だった。
    「1234yf」の数字の並びとアルファベットには意味がある。「1」は二重結合有り、「2」は炭素原子3個、「3」は水素原子2個、「4」はフッ素原子4個、「yf」は原子の結合の仕方を意味している。その特徴は、毒性が低く、熱的安定性が良い。数字が小さいほど環境に良いことを示す地球温暖化係数(GWP)は<1で、従来使用されているHFC-134aのGWP=1430に比べ圧倒的に低い。オゾン層破壊係数(ODP)は0だ。冷媒としての特性はHFC-134aに似ており、自動車用エアコンや自動販売機の冷媒としてもっとも有望とされているものだ。
    2014年3月、承認を得たものの、プロジェクトは納期という難題に直面してしまった。採算性が取れると踏んだ製造方法の実現が、想定以上に難しかったのである。製造方法を再検討せざるを得ないが、ハネウェル社への納品は2015年4月。しかも社長自らメディアに納品時期を公表していた。「納期がタイトなことは分かっていましたから、取締役会の承認前から工事会社に渡す図面などの見積依頼書を準備していました。10センチ厚のキングファイル2冊分にもなりましたが、それを一から考えなおさないといけませんでした」(三枝)。
    Fガス:日本では代替フロン等ガスと呼んでおり、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF6)を指す。
    Chapter01Chapter01
  • Chapter02

    現場の創意工夫で、
    画期的技術も誕生

    製造プラントの立ち上げには通常、プロセス・電気・機械・計装・土木建築のエンジニアが集う。基本計画、基本設計を行い、詳細設計や実工事はエンジニアリング会社に委ねるのが一般的だ。1年後の4月には納期が迫る。エンジニアリング会社からは「この納期、予算は無茶だ」、プラント建設の大ベテランも「できるわけがない」と、そろって声を上げた。だが、その声を聞いても竹之内や三枝らは冷静だった。「そんなに難しい仕事なのかと思うと逆に、挑戦してみたいと思いました。エンジニアリングを内製化して私たちがその機能を担えば納期、予算ともに達成できる可能性がある。大ベテランの話を聞いて、スイッチが入りました」(三枝)。「ベテランエンジニアの方々は設計業務の大半を我々若手に任せ、重要なポイントで助言や指摘をしてくださいました。私たち若手に任せるから頑張れという姿勢でした。任せられたことで、スピード感を失うことなくモチベーションも責任感もぐんぐん上がりました」(竹之内)。
    三枝は、エンジニアリング会社から無茶と言われる原因を考え、その問題を改善していった。その一つに、見積依頼書の精度の向上があった。工事は納期、予算ともに手戻りによる影響が多い。そこで手戻りを防止するために短期間で設計資料を大幅に向上させた。これにより資料は20以上の法対応適合を満たし、かつ製造条件をすべて反映した製造工程図、配置図となった。また、各社の疑問について丁寧に説明し、追加資料を速やかに作成、提出することで、少しずつ信じてもらえるようになった。その結果、工事会社数社から対応可能と最終的に回答があった。「求める結果を出すために今、何をすべきなのか絶えず考えて業務に取り組むことが私のモットー。また、困っている時ほどアイデアが生まれ、相手に状況も伝わり腰を上げてくれるものだと思っています」。
    工事の快諾を得たものの、まだ大きなハードルがあった。時間との闘いである。「プロセス・電気・機械・計装・土木建築のそれぞれのエンジニアに与えられた時間はごく僅かですが、それぞれの繁忙期が異なるため、One Teamとして職能の壁を越えて互いに協力していきました。このチームワークのおかげで、工期短縮だけでなく設計の精度も上がりました」(竹之内)。
     専門の異なるエンジニアの協業により、時間との闘いは有利になるはずだったが、想定外の出来事に直面してしまった。プラントからの排水にCOD(化学的酸素要求量)が多く、環境規制に抵触することが発覚したのである。2014年夏、酷暑の日だった。「分析結果を見た時には、これから新たなプロセスを考えるのはプロジェクトメンバーだけでは時間が足りない、と」(竹之内)。だが、これで諦めてはそれまでの苦労が水泡に帰す。このピンチを救ったのが、開発と品質保証のグループだった。早急にラボ試験を繰り返し、過去に蓄積したプロセス技術を応用展開することで、秋風が吹く頃には規制をクリアする画期的な技術を生み出し、最適な排水設備の発注に漕ぎ着けることができた。
    Chapter02Chapter02
  • Chapter03

    確かなR&Dとチームワークで、
    納期厳守に持ち込む

    プラントの立ち上げではほぼ課題は解消したが、プラントを稼働させるにはオペレーターが必要になる。他の化学プラントも忙しく、オペレーターの陣容が整っていなかった。だが、ここがAGCという組織の強みだろう。ガラスなどカンパニーの垣根を越え、化学プラントの経験がないオペレーターが協力をしてくれたのだ。「オペレーターの皆さんは、慣れない業務を一生懸命に短い期間で習得してくださいました。その教育に欠かせなかったのが、鹿島工場のベテランオペレーターたちの協力でした。これには裏話があって、プラントの起用準備が想定通りに進まない時、鹿島工場にいる元上司に相談。すると、鹿島工場のプラント稼働を調整し、鹿島工場からベテランオペレーター4名をわざわざ派遣してくれたのです。救いの手に落涙しそうでした。プロジェクトを通し、いろいろな方々に助けられ、困難を乗り越えてプラント建設を達成することができました。製品を初めて出荷した時の感動は何物にも代え難い経験です。『One Team』を肌で実感できた仕事でした」(竹之内)。
    2015年4月21日。竣工式の後、HFO-1234yf製造に向けてプラントは本稼働を始めた。数々の難問を乗り越え、納期厳守ができた理由を三枝が語る。「通常プロジェクトは、職能別のエンジニアがそれぞれの役割を順次果たしていく直列方式で進められますが、今回は各エンジニアが同時並行的に役割を果たし、時間との闘いに勝利できたことが、まずあります。もう一つは、R&Dの勝利でもあります。研究段階から製造段階では反応プロセスがまったく同じではなく、適切な修正が必要。これらの修正が完璧にできており、プロセス設計の仕上がりが素晴らしかった。研究開発部門から素晴らしいバトンをもらいました。さらに、ほぼ同年代のエンジニアが集結しましたからコミュニケーションが円滑で、職能の壁は皆無。このチームワークによって手戻りもほとんどありませんでした。むしろ、協業によって他分野の知見が得られた経験は、今後の財産になると思っています」。
    竹之内が後日談を話す。「実は、厳しい納期を厳守したことでお客さまからの信頼が高まり、次年度からのさらなる増産要請をいただき、事業に貢献できたのは嬉しい誤算でした」と笑う。 次世代型冷媒の開発・製造へのAGCの取り組みは、今後も続いていく。すでにHFO-1234yfとは別の物質が新たな冷媒候補に挙がっている。その製造に挑戦するエンジニアはさらに若い世代であり、これから社会に出るエンジニアの卵たちだろう。そして、竹之内や三枝らは中堅エンジニアとしてその活躍を見守るに違いない。
    Chapter03Chapter03