だが、プロジェクトが開始された当初は、AGCには28GHz帯アンテナの受信感度を測定する施設がなかった。そのため、最初の測定は外部のレンタル施設を利用した。だが開始から2ヵ月が経った頃、横浜の研究所と愛知工場の測定施設に28GHz帯の設備が導入された。「28GHz帯の測定装置は非常に高額です。それが素早い意思決定で導入され、AGCならではのスピード感に圧倒されました」と東海林は振り返るが、AGCで測定できるようになったことで、開発にも力が入った。
オートモーティブカンパニーの全面的なバックアップのもと、わずか2ヵ月でアンテナの配置場所が決まった。当然のことだが、フロントガラスだけにアンテナ機能を組み込むと、前面からの電波しか受信できない。クルマは360°ガラス窓である。リア(後)やサイドのガラス窓にもアンテナを分散配置したのだが、これには独自の工夫が必要だった。28GHz帯では、ガラスの厚みによって電波が通ったり通らなかったりする現象があり、試験車のある部位のガラスの厚みでは十分に電波が通らないことが、実証試験で確認されていた。そのため、ガラスに特殊な仕掛けをして、電波の通り道をつくったのである。
「すべて実験するのは時間がかかりますから、電磁界シミュレーションを繰り返しました。これはガラスの材料などスペックのデータとアンテナのデータを入れると、電波の振る舞いが出てくるソフトウェアです」。
それまでガラスは、28GHz帯の電波透過と相性があまり良くないというのが常識でもあった。ところが、「ある工夫をすることによって電波をスムーズに透過させることができるとの結果が出たのです。最終的には実験をして確認したのですが、このデータは驚きでした」。
その後、茨城県の国土技術政策総合研究所で、28GHz帯対応のガラスアンテナを搭載した車両を走らせ、高速通信を実施。時速100キロの高速移動時で最大8Gbps(※)、時速30キロで最大11Gbps の通信を世界で初めて実現した。後日メディアでも報じられたが、東海林にとっては通過点でしかなかった。
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- 秒当たりに扱えるデータ量。この場合は1秒当たり8ギガビット。