フッ素樹脂の塗ってあるフライパンは、焦げつきにくいことをご存じかと思います。焦げつきにくい理由は、フッ素樹脂が多くの物質とくっつきにくい性質を持つためです。実はAGCはかなり以前に、金属や他の樹脂材料とくっつきやすいという、かなり変わった特性を持つフッ素樹脂を開発していました。「Fluon+ ADHESIVE EA-2000」と呼ばれる接着性のフッ素樹脂ですが、この材料が2020年にサービス開始が予定されている5G(第5世代移動通信システム)に向けて、大きな脚光を浴びはじめています。その理由は、誘電正接が低い材料でもあるからです。誘電正接が低いとは簡単に言えば、電気エネルギー損失が少ないことを意味します。5GをはじめIoT、ビッグデータの利活用など、まさに情報が“爆発”する時代に入っていきますが、5G時代に使われる高周波は電気エネルギーの損失が大きいのが特徴です。その損失を極力最小化する樹脂が「EA-2000」なのです。それ以外にもAGCは、合成石英をはじめ誘電正接の低いガラスなどを開発済みであり、ラインアップも充実しています。
これがなぜ、米国Park Electrochemical社のエレクトロニクス事業買収につながるかといえば、実はすべて未来につながっているのです。順を追って説明しましょう。まずプリント回路の基板は、樹脂と銅箔を張り合わせてできており(銅張積層板:Copper clad laminates:CCL)、「EA-2000」を使うと電気エネルギー損失が極めて低いCCLを簡単に作成することができます。「EA-2000」や誘電正接の低いガラスなど、電気エネルギー損失の低い材料を複数持つAGCがCCLメーカーを目指すという話になったのは、2015年でした。
CCLにパターンを切ると、5G時代に対応したガラスアンテナになります。ただ残念ながら、CCL自体の技術をAGCは持っていませんでした。その技術を獲得する狙いが、Park社のエレクトロニクス事業の買収だったわけです。