AGCが変えようとするもの

VISION 03
LFE SCIENCE

次世代の
バイオ医薬品を視野に、
最先端をいくCMC社買収へ

  • 私が解説します
    小室 則之
    小室 則之
    Noriyuki Komuro
    化学品カンパニー ライフサイエンス事業本部 本部長
    1989年入社
※所属部署は取材当時のものです。
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    CMC Biologics社でなければ
    ならなかった理由

    CMC Biologics社(以下、CMC社)買収をお話しする前に、まずCDMO(医薬品開発・製造受託企業)のことをお話しましょう。医薬品は、製薬メーカーだけで完結するのではなく、製薬メーカーなどがCDMOに委託してつくられることが最近は増えています。AGCはCDMOとして20年近い実績があり、製薬メーカーとの共同開発により、緑内障の治療薬を上市し、現在世界の60ヵ国以上で発売される原薬を全量製造するなど、受託案件数(医薬品数)は100以上に上り、国内では圧倒的なナンバーワンの座を占めています。現在、バイオ医薬品の製造で主流となっている抗体医薬品は、チャイニーズハムスターの卵巣細胞を使った動物細胞の培養によるものですが、この動物細胞の技術はAGCには残念ながらありませんでした。
    そこで動物細胞の培養で、CDMOとして世界トップレベルにあるCMC社に注目したのです。ライフサイエンスを戦略分野と位置づける当社にとって、動物細胞の技術は絶対に欠かせません。しかもバイオ医薬品の開発の中心である米国、欧州に製造拠点を構えていることに加え、審査基準が厳しいFDA(米医薬食品局)やEMA(欧州医薬庁)の各国での審査をクリアできる、cGMP(製造管理および品質管理規則)対応の製造技術、品質保証体制を有しています。国内バイオCDMOで、複数品目で10年以上にわたる原薬供給実績があり、かつ欧米当局の査察実績を保有する会社は現在(2018年10月時点)ありませんから、AGCはさらに圧倒的に優位な立場に立てます。しかも幸いなことにCMC社はスタートアップ企業であり、いずれは株式上場なり企業売却をする予定でした。いわばAGCとCMC社の思惑が一致しており、文字通りWin-Winの買収だったわけです。
    CMC社に注目した理由は、もう一つあります。動物細胞の培養に使うのはこれまでステンレスの培養槽でしたが、近年はシングルユース(1回使い切り)と呼ばれるプラスチック製の培養パックを使うことが増えています。洗浄、滅菌の工程が不要なため開発スピードが加速するメリットがある半面、品質管理などで高度な技術が必要になります。CMC社はCDMOとして品質管理などでも高い技術を持ち、シングルユースで世界トップに駆け上がったスタートアップ企業です。買収相手がCMC社でなければならなかったのが、こうした理由によるものです。CMCとAGCの技術者の往来はすでに始まっており、日本メンバーの活躍の場がどんどん拡大しています。
    インタビュー風景
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    世界トップのCDMOを目指し、
    次世代バイオ医薬品も視野

    2018年9月、AGCは「千葉工場に動物細胞を用いたバイオ医薬品の開発・製造設備を新設し、2019年夏には稼働する」と発表しました。cGMP対応の実績を有するCMC社の技術、知見、体制が国内で初めて、千葉工場にそっくり再現されるのですから、製薬メーカーのほか関係機関から大きな期待が寄せられています。
    AGCとしては今後、この買収をステップにCDMOとしての力をさらに圧倒的なものとし、次世代の医薬品開発製造も視野に入れています。最先端の細胞治療や遺伝子治療がそれにあたります。細胞医療では、例えばキメラ抗原受容体発現T細胞(CAR-T)療法と呼ばれるものがあります。末期がんの患者から細胞を採取し、遺伝子を改変してがん細胞を狙い撃つ機能を持たせ、再び患者の体内に注入する療法です。まだまだ承認されたばかりの新しいバイオ医薬ですが、今後さらに改良が進み、重要な医薬品として成長が見込まれます。
    動物細胞の培養と細胞治療や遺伝子治療との間には技術的な壁がありますが、バイオCDMO事業としては、そう遠くない将来には進出したい重要な領域であると考えています。現在、千葉をはじめ米国シアトル、バークレイ、デンマークのコペンハーゲンに動物細胞を培養する製造拠点があり、シアトルには2018年の夏にR&Dセンターを新設し、バイオ医薬品の開発・製造体制を強化しました。今後は日米欧の3極体制のもとに世界トップのグローバルCDMOとしてバイオ医薬品を展開し、細胞医療や遺伝子治療に進出する足がかりをつかんでいきます。