デザイン視点から導き出す、 ガラスの魅力と新しい可能性。 デザイン視点から導き出す、 ガラスの魅力と新しい可能性。

May.30 2018

デザイン視点から導き出す、 ガラスの魅力と新しい可能性。

品質とデザイン、多角的な視点が求められる時代に

住居、オフィス、店舗、公共施設といった建築物から、自動車、テレビ、食器、スマートフォンやタブレットのようなプロダクトまで、日常生活に欠かせない素材となっているガラス。日頃から実用的な製品素材として触れる機会が多いガラスだが、その一方で古来より宝飾品、教会の装飾、伝統工芸品、アート作品など、デザイン性に優れた嗜好品の分野でも活躍してきた。


様々な分野で多様なガラスを提供してきたAGCは、今まで以上にガラスの可能性を広げていくための新たな試みを進めている。それが“デザイン視点”を重視した素材の活用だ。研究開発はもちろん、実際に製品とユーザーをつなぐ役割を担う建築家、工業デザイナー、空間デザイナー、プロダクトデザイナーと共に、デザインの力によってガラスの新しい魅力を導き出していく。

デザインの観点から見えてくる、ガラスの潜在能力

ガラス素材を扱うパイオニアのAGCでは、独創的な発想力をもつ社外のデザイナーを積極的に起用している。ただし、AGCが新しい素材を提供し、中間加工業者やデザイナーが仕上げるといった一方通行の関係性ではない。各工業製品について互いに議論と模索を重ね共創していくことで、魅力的な実用性と新しい可能性を見出している。


商業施設などの空間デザインを手掛ける佐藤友哉氏(乃村工藝社)もパートナーのひとり。AGCの商材やソリューションに触れられる東京のショールーム「AGC Studio」の内装リニューアルも担当した自身に、ガラス素材とデザインの関係性について伺った。

「多種多様な素材がある中で、ガラスならではの魅力を挙げるとすれば、その透明性により、無意識の内に人々の感情に影響を与えられる点です。例えば、絵画や写真に額縁という輪郭を加えると、その作品の見え方や感じ方に変化が生じます。それは商業施設におけるデザインにも通じることで、空間の顔であるファサードにガラスを用いることにより、新たな表情や価値を表現できるのです。そしてカラーガラスの活用や、光の透過や反射する性質を利用すれば、店内の雰囲気と共にそのイメージを効果的に伝える役割も期待できます。


それに加え、素材として高いポテンシャルも秘めているのも特徴です。一見どれも同じように見えるガラスですが、実は遮光、耐熱、飛散防止処理など、用途に合わせて様々な機能を持たせることができます。石や木、そして金属などは見た目に直結する表面的な多様性はありますが、ガラスのような多機能性はあまりありません。透明だからこそ誤魔化しはきかないガラスですが、その性質を理解した上で素材の魅力を引き出すことが、我々デザイナーの仕事だと思っています」

商空間におけるガラスの可能性を、デザインの力で見出す佐藤友哉氏

東京の「AGC Studio」では、どんな人でも気軽にAGCのガラスに触れることができる。AGCやデザイナーが手掛けるガラス製品と、人々の生活との接点を感じられる場所。

2017年にリニューアルオープンした「AGC Studio」。1Fは企画展などを通じて素材の活用事例(ソリューション)を紹介し、2Fではそのソリューションで使われた部材を展示。内装の至るところにもAGCの製品が用いられており、空間のデザインを介して一般ユーザーから専門業者まで、訪れたすべての人が素材の用途を具体的にイメージできる仕組みだ。


「AGC Studioは、AGCとお客様の関係性を築く場所です。製品を詳しく説明しなくても、みなさんがいつも接しているガラスとの違いを感じてもらえるようにデザインしました。1Fのイメージは人々がくつろげる「カフェ」です。今回は、カラーガラス「ラコベル®」の中から落ち着いた色彩であるベージュからブラウンを使いました。同系色のコーヒーや紅茶を連想して直感的にカフェにいるような気持ちになってもらえるのではないかと考えたのです。ガラスの風景を反射し、奥行きを与える効果により、広がりのある空間になりました。AGCの製品を通じて新しいガラスの使い方や意外性に気付いてもらい、実際に使いたいと思えってもらえるような場所として機能してくれたら嬉しいです」


本プロジェクトを通じて、AGCの製品開発や技術の高さを再認識したという佐藤氏。更には、AGCが近年重視しているデザインに対する取り組み方や姿勢も知ることができたという。


「驚いたのは、ディテール面での加工技術や仕上げに対する知識と発想力です。一般的なガラスのカット面は、怪我を防ぐために約1ミリの糸面取りをしますが、「AGC Studio」では0.5ミリが採用されました。というのも、1ミリよりも緊張感と美しさを演出できると提案してくださったからです。正直、自分にはない発想でした。わずか0.5ミリの違いで素材の魅力を限界まで引き出せる事を知るAGCは、まさにガラスのプロフェッショナル。そういう意味では、デザイン的な観点からもしっかりと開発・製造されていることが伺えます。空間デザインはディテールの積み重ねで成り立つので、製造業者とデザイナー双方の発想や技術を重ね合わすことの大切さをあらためて感じさせていただきました」

AGCの高い技術と融合する、最新のデザインワーク

近年、デザイン視点での技術開発や製造を加速化させているAGC。その一方で、AGCのガラスその他素材は、世界各国で以前より活用されてきた。その中で、デザインの象徴ともいえる取り組みや事例を紹介する。


『ミラノデザインウィーク』への出展


将来の商品設計や先進デザインの鍵を握るデザイナーやクリエイターに、AGCの新しいガラスに触れてもらうため、2015年から世界屈指のデザインの祭典『ミラノデザインウィーク』への出展を開始。デザインを通じてAGCの魅力や強みを知ってもらい、それぞれのインスピレーションを働かせてもらう場となっている。新進気鋭のクリエーターとのコラボレーションにより、「映像を映し出すガラス」「軽やかなガラス」「触感を楽しむガラス」を用いたインスタレーションを展示。2018年4月には、日本人建築家・萬代基介氏とAGCの新技術を駆使した「音を生むガラス」を用いた空間展示が披露され注目を集めた。


2018年4月にミラノで出展した展示 “Soundscape”の模様。 Photo by Akihide Mishima

高機能フッ素樹脂フィルム「アフレックス®」を重ねて使用し、空気を入れることでユニークな壁面デザインを表現したアリアンツ・アリーナ。

「アフレックス®」(高機能フッ素樹脂フィルム)

2006 FIFAワールドカップ ドイツ大会にも使用され、バイエルンミュンヘンのホームスタジアムとして知られているアリアンツ・アリーナ。屋根や外装に使われた高機能フッ素樹脂フィルム「アフレックス®」は、軽量で優れた耐候性と耐久性を持ち、多様な意匠設計の可能性を秘めている。遡るは1976年に開発されたこの製品は、新規性のあるユニークな形状表現や、内側に仕込んだLEDで演出される幅広い色彩表現も可能だ。2014 FIFAワールドカップ ブラジル大会の顔となったアリーナ・ペルナンブコや世界的なスポーツ大会のメインスタジアムなど、各国の大型スタジアムに数多く採用されており、2017年には、日本初の大型膜構造建築として、アフレックス®を使用したランニングスタジアムが新豊洲に誕生した。

「ラコベル®」「ラコベル®プリュム®」(内装用カラーガラス)

高い色彩センスを誇る欧州でデザインされた、AGCの代表的な内装用カラーガラス。豊富な色バリエーションで欧州シェアNo.1の「ラコベル®」と、ガラスを薄くし樹脂と複合することで60%の軽量化(従来比)した「ラコベル®プリュム®」を展開している。「ラコベル®プリュム®」は、日本で唯一の総合的デザイン評価・ 推奨の仕組みを提示するグッドデザイン賞(2017年度)を受賞。軽量化と安全性を確保したことで、ガラス業者から一般内装業者まで、幅広い施工業者が扱えるため、ガラス内装材の用途拡大が期待されている。工業デザインが、もっと身近な存在に。

ベルギー・ブリュッセル市の会議場(Square - Brussels Meeting Centre)に採用された「ラコベル®」の壁面。© AGC Glass Europe

定番の素材になりつつあるガラスも、発想の転換によって今までと違った形で活躍する

ライフスタイルに寄り添うプロダクト

建築ガラスのだけに限らず、プロダクト領域においても様々なデザインを試みるAGC。欧州で制作された、ガラス製の椅子もそのひとつ。AGCガラスヨーロッパのガラスを使用し、イタリアの代表的な家具ブランド『FIAM』が、1987年にガラス製の椅子「ghost」を発表。厚さ12mmの1枚ガラスを型に乗せ、高温処理によりガラス自身の重みで曲げ加工を実施。座面、背部、脚部など、座った人の身体にフィットする造形に。優れた機能性に加えて、上品かつ高級感のある仕上がりで空間演出にも華を添えてくれる。

研究、開発、製造、加工技術、そしてデザインの力により、今後も更なる進化が期待されるAGCのガラス製品。佐藤氏も日々変化し続ける空間デザインの分野において、常に新しい可能性を模索しながら挑戦を試みているという。


「ガラスを扱う新たな手法として、木材やレザーなど異素材との組み合わせ方に注目しています。以前、AGC主催のイベント(※)でも発表したのですが、展示の一部としてガラス天板と木材の側板を使った棚を製作。接続部分には、日本の伝統的な大工の技術でもある継手や仕口から着想した手法を採用しました。それぞれの継ぎ目が組子のようになっているので接着剤も必要ありませんし、異素材が共存することで生まれる新しい表情も楽しむことができます。


空間デザインに関しては、近年、ローマテリアルな要素を取り入れることがトレンドになりました。例えば、都心部のカフェでは安価な素材である合板を多用した、カジュアルな空間を多く見かけます。しかし、ローマテリアルが過渡期を迎えつつある今、高級感を感じさせてくれるガラスが再び活躍してくれるのではないかと思っています。ただし、ガラスが持つ気品や緊張感、それを全面的に押し出すのは必ずしも新しい提案とはいえません。AGCの温もりを感じさせてくれるカラーガラスや、異素材と効果的に組み合わせるなどデザイン視点からの新しい挑戦を試みることが大切だと思っています」


※2017 AGCリノベーション展『+DESIGN』 ~日常を変えていく新しい価値へ~ 展示テーマ「Retail」

ガラスが進化を遂げるためには、デザイナーの発想も鍵となってくる。

近い将来、生活に関わるすべてのシチュエーションで、様々な変化が期待されるガラスデザイン。日常においてどんな進化が生まれ、それに伴いデザインがどのような役割を担うのか注目していきたい。


「大きな変化を期待しているのが、モビリティの分野です。自動車における自動運転が実用化すれば、おそらく乗車スタイルが変わるはず。というのも、運転手は進行方向を向いて座るのが当たり前でしたが、自動運転になれば乗車しているすべての人が横や後方を向いて座ることが可能になる。つまり、自動車が景色を楽しむこのとのできる「移動する部屋」として機能するということです。そのような変化が起こると、空間デザインにおいてもカテゴリーごとの境界線がなくなっていく。ですから、時代に求められることを、デザインの力で応えていくことが重要になってくるのではないかと考えています」

デザインのためのガラスが求められる時代へ

AGCでは、110年にも渡りガラス関連の研究・開発、製造・加工を続け、世界屈指の品質を誇る製品を提供してきた。その一方で、近年のマーケットに目を向けてみると、自動車の内装用装飾ガラス、スマホのカバーガラス、冷蔵庫のガラス製ドアなど、今までとは違った発想によるガラスの使用方法が数多く見られるようになってきた。それに加え、音質も良くインテリアとしても活躍するガラス製のスピーカーなど、工業デザインとアートとエンターテイメントが融合する機会も増えている。つまり、デザインのためのガラスが求められているという状況だ。


そのような時代だからこそ、AGCもデザイン視点での取り組みを加速させていく姿勢だ。創業時から変わらず大切にしていることは、生活に欠かせないガラスを届けて、世界の一部として機能すること。今後もそのポリシーを実現するために、ガラスそのものの新しい可能性を引き出し、デザインの力を掛け合わせながら魅力的な製品を生み続けていく。

この記事で取り上げられている
AGCの技術

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