初めて対面したものに人の心が動く・好きになるまでにかかる時間が8.2秒(8.2秒の法則)とも呼ばれています。JAID(国内主要自動車メーカーに所属する有志デザイナーから成るクリエイティブ集団)とAGCの研究開発に携わる社員が約1年間、複数のプロジェクトに分かれて、この8.2秒間にガラスなどの素材が介在することで起こる様々な物語を発案、協創を通じてカタチにしました。自動車メーカー各社のインテリアデザイナーのクリエイティビィティとAGCの先端材料・技術を融合した協創展示を通して、新たなガラスの魅力と可能性をご体感ください。

開催情報

<タイトル>
8.2秒展
<日時>
2021年3月23日(火)~2021年6月19日(土)
休館日:日曜日・月曜日・祝祭日
<会場>
AGC Studio
〒104-0031 東京都中央区京橋2-5-18 京橋創生館1・2階
入場無料
*2021年6月19日 閉館しました
<インスタレーション>
♯イイね!2 by SUZUKI
-コロナ禍で味わえなかったひと夏の景色をガラス越しに再現-
これまで自動車の外観の一部であるフロントガラスは、雨風を防ぎ、ドライバーの安全を確保するためのものでした。しかし車内からのフロントガラスは、室内と外の世界を繋げ、車窓の風景を体験する大切な存在です。その体験を提供することもインテリアデザイナーが携われる大きな役目となっています。その可能性に着目し、ガラスを通して見る景色を表現したのが、「♯イイね!2」です。フロントガラスを模した曲げガラスとグリップで構成された筐体を、「イイね」の形・サムズアップで握り、ガラスを通して周囲を見ると、頭上にはきれいな夏の空や花火が広がり、足元では涼しげに泳ぐ金魚などを見ることができます。これを可能にしているのが、ガラス表面に貼られた偏光フィルム。コロナ禍の去年の夏、“あの人”と見るはずだった景色を体験してもらおうというのが、制作に携わったJAIDとAGCメンバー共通の願いです。自動車のEV化や自動運転技術の進展によって、自動車用ガラスに求められる機能はより多岐にわたっています。内装デザイナーとAGCによるコラボは、その一つの未来形を提示しています。
Glass Voyage −自然と共生するガラス by DAIHATSU
-ガラスと苔が共生する、再生と癒しの8.2秒-
いきなり目に飛び込んでくるのは、蜘蛛の巣のようにヒビが入ったフロントガラス。JAIDとAGCのコラボ作品だけにドキッとする演出ですが、その下に広がるのは、まるで枯山水のような、細かく砕いたガラスと苔を配した幽玄な世界です。使われているのは、カレットと呼ばれるリサイクル用ガラス原料。それが自然に存在するもののように敷き詰められ、苔と違和感なく共存しています。実は自動車は約8.2秒に1台スクラップされ、産業廃棄物として処理されています。その流れの中でガラスもどんどん捨てられていることに着目し、工業製品として生まれたガラスが、もっと大きな自然のサイクルの中を循環し、旅をし、地球の一部となる姿を表現したものが、「Glass Voyage」です。自動車用ガラスのリサイクル率を向上させる取り組みの一方で、別用途にガラスを再利用すればもっと自然と共生できるはず。破壊の8.2秒から、再生と癒しの8.2秒へ−−。この展示からはそんな想いが伝わってきます。
Footbath −Colorless Color by TOYOTA
-スマートフォン用カバーガラスと水が生み出す魔法のようなひととき-
現代人にとっていつも身近にあり、触っている時間が最も長いもの、それはスマートフォンではないでしょうか。そのスマホと指の接点にあるのが、カバーガラスです。このスマートフォン用カバーガラスを使って、人の心を動かす、魔法のような体験ができないか……。そんな発想から生まれたのが、「Footbath」です。まず目を引くのが、ずらりと並んだAGCの化学強化カバーガラスDragontrail®︎。よく見ると、1枚1枚の表面には水が張られており、表面張力でガラス全面を満たしています。それぞれのガラスを支える1本の棒は振動スピーカーにつながっており、頭上のストロボ照明が作品全体に明るい光を投げかけています。スピーカーから伝わる振動によって、ガラス表面にはさざ波のような波紋が広がり、ストロボから発せられる淡い色をまといながら、戯れるように他のガラスに伝わっていく様は、見ていて飽きません。ぜひ会場に足を運んで、その心地よいひと時を自ら体験してみてください。
CROSSING by NISSAN
-自らの存在を消して暮らしを支えるガラスへの感謝と愛-
たとえば車窓から外を眺めるとき、私たちが見ているのは、流れゆく街並みや自然の風景であり、その間にあるガラスを意識することはありません。身近にあるのに空気のように気配がなく、それでいて暮らしに欠かせないガラスは、なんとも不思議な素材です。そんなガラスへの感謝の気持ちを表現したのが、「CROSSING」です。特殊な溶液で満たされた大きな円筒のガラスの中を、小さな球体が静かに上下しています。よく見ると、それらは無秩序なようでいて節度ある軌道を描きながら交差していることがわかります。これは、円筒の中に設けたガラスの構造体に沿って水と空気が動いているから。溶液とガラスの屈折率を合わせるとガラスの存在が消え、水と空気の粒だけが見えるのです。3本ある円筒は、渋谷の交差点をイメージしています。コロナ禍で人通りが途絶えた街、通常の朝の出勤風景、そしてハロウィンでごった返す人々の熱気。そこから見える風景には、ガラスと、人の営みへの愛が詰まっています。
Mood Changer −空気清浄木 by HONDA
-忘れていたワクワク感が蘇る、浄化のための空間-
パンデミックを境に、世界は一変しました。常にマスクで口を覆い、これまで当たり前に行ってきた旅行や友人との飲食が制限される事態に、私たちの心は疲れ、萎縮し、閉塞感にとらわれています。そんな世の中を覆う空気感を変えてみたい。その思いをもとにつくられたのが、「Mood Changer」です。ブースに入ると、天井に設置された回転式の照明から、赤を基調とした色がランダムに壁に投影されています。照明のカバーに使われるガラスにあえて歪みを持たせることで、不規則で不安を煽るような雰囲気が醸し出されています。そんなブースの中央に、ぽつんと垂らされた1本の紐。それが「空気清浄木」のスイッチです。一歩踏み出して紐を引くと、世界は一変し、新しい体験や美しい景色に出会ったときのワクワク感が蘇り、「8.2秒の浄化体験」を体験することができます。精緻な工業製品にあえて不規則性や歪みを取り入れる。まさに内装デザイナーの感性でしか表現できない空間が、ここにあります。
Glass Camp −ガラスの焚き火 by TOYOTA
-赤々と燃えるガラスの焚き火で8.2秒の癒しを体感-
街ゆく人にガラスのイメージを聞いたら、十中八九「透明」「硬い」「冷たい」という声が返ってくるでしょう。そのガラスで焚き火をしようという“非常識”に挑んだのが、「Glass Camp」です。使われているのは、ガラスの中に大気と同様の状態をつくり出した特殊なガラス。それに白い光を当てると、相互作用が起きて、ガラスはまるで内部から発熱しているように赤く色づきます。さらに、焚き火らしく見えるように、本物の薪をトレースし、ガラス表面に木材と同じテクステャーをつけました。その歪みや凹凸によって、ガラス内部の赤色は強まったり弱まったりし、団扇で煽ぐとかすかに揺らめいて、思わず8.2秒の癒しの周期に引き込まれそう。よく耳を澄ますと、パチパチという薪が燃える音もしてきます。これはガラスを割ったときの音で、焚き火特有の雰囲気を演出しています。本来は硬くて冷たいガラスが、見る人の心をやさしく暖めるものにもなりうる。ガラスという素材の魅力の一端がここにあります。
ガラスの花 −8.2秒 ガラスの変化に心惹かれる by ISUZU
-無機質なガラスに生命が宿り、光り輝くとき-
変化するガラスの表情を、目の前で見て触れて体感する事で、ガラスに心惹かれてしまう、「ガラスの花」はそんな作品です。蕾から開花する花をモチーフにした透明なガラスには、ブラスト加工により繊細なラインが施され、光を透過させると美しい花のシルエットが浮かび上がります。ハーフミラーを使った合わせ鏡により、光の茎が伸びたように見え、実像と虚像の対照する不思議な姿を生み出してくれます。また、花を手に取り持ち上げると、光が儚く消え、元に戻すと再び光り出す、そんなガラスに触れて変化を楽しむ仕掛けもあります。様々な種類、工法のガラスで構成されたこの展示の中で、無機質だったガラスは、光り輝きながらまるで命が宿った様に生き生きと表情を変化させていきます。工業製品としてのガラスと、工芸品としてのガラスには厳然とした区別があります。しかし、実は線引きはいらないのかもしれない。「ガラスの花」からは、そんな内装デザイナーの発見が伝わってくるようです。

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