イノベーションを阻む組織と戦略としてのダイバーシティ 倉田英之CTO・Cradle代表取締役社長スプツニ子!氏 特別対談 イノベーションを阻む組織と戦略としてのダイバーシティ 倉田英之CTO・Cradle代表取締役社長スプツニ子!氏 特別対談

Jul.25 2024

イノベーションを阻む組織と戦略としてのダイバーシティ 倉田英之CTO・Cradle代表取締役社長スプツニ子!氏 特別対談

AGCは、ダイバーシティ(多様性)をイノベーションと長期的な競争力の源泉と考えており、多様な人財が活躍できるよう、様々な制度や仕掛けで、DE&I(Diversity, Equity and Inclusion)を推進しています。今回は株式会社Cradle スプツニ子!氏に真のダイバーシティとはどういうことなのか、今の日本企業に求められているDE&Iについて講演をいただきました。

【講演のポイント】
1.多様な人財が集まり、多様なアンテナが立つほど健全な衝突が起こり、イノベーションが起きやすくなる。
2.多様な視点を入れるには、社会や企業全体の構造の偏りにより、特定の人たちにとって不利な状況(構造的な差別)が生まれ続けてしまうことを正しく理解し、直していかないといけない。
3.まずは管理職層に多様な視点が入り、多様な人にとって働きやすい組織をつくることが重要。

スプツニ子!氏とAGC倉田CTOとの対談では、AGCグループの取り組みや多様性のあり方、倉田CTOの実体験を伺い、参加者がDE&Iの取り組みについて理解を深めました。

Profile

スプツニ子!

スプツニ子!

株式会社Cradle 代表取締役社長

倉田 英之

倉田 英之

AGC 代表取締役 兼 専務執行役員

構造的な差別をなくすためにも、多様性は重要

スプツニ子!氏 事前打ち合わせの時に倉田さんとお話をして、親しみやすいお人柄と子育てと仕事を両立していたバックグラウンドにすごい衝撃を受けました!そんな倉田さんは多様な視点を持つ重要さについてどう考えますか?

スプツニ子!氏

株式会社Cradle 代表取締役社長 スプツニ子!氏

倉田氏 スプツニ子!さんの講演で話されていた「構造的な差別」に気づくことはとても難しいと感じました。そのために多様性は絶対に必要で、何かあればきちんと質問できる、ディスカッションできる職場の雰囲気をいつも持っていないといけません。何か困ってそうだけど言えないなっていう人にはこちらから声をかけたりして。

倉田 英之氏

AGC 代表取締役 兼 専務執行役員CTO 倉田 英之氏

倉田氏 アメリカではスモールトークとかコーヒーブレイクとかあるじゃないですか。日本の会議はいきなり本題から始まってしまうので、最初の1、2分は雑談をした方が良いですよね。だいぶ雰囲気が変わりますので、今日参加しているみなさんにも、ぜひ雑談は意識してもらいたいですね。


スプツニ子!氏 雑談から変わることってありますよね。雑談ができる環境やカルチャーがあると、すごくありがたいんですよね。だから、周りの人は「困っていることは言ってください!」とアピールをするのも大事かもしれません。

育児と仕事の両立。一緒に過ごせる時間は戻ってこない。

スプツニ子!氏 倉田さんは奥様もフルタイムで働きながら、二人のお子さんを育てたと伺いました。お弁当を作ったり授業参観に参加したりと、倉田さんの世代だととても珍しいことで、当時は「仕事のときは子供の話はゼロ!」みたいな環境であったと思います。たくさんの困難に直面したと思いますが、どんな苦労を乗り越えてきたのかお伺いしてもいいですか?


倉田氏 妻もずっとフルタイムで働いています。妻は、どちらかと言うと出る杭タイプなんです。出る杭だから叩かれるけど、それでもどんどん挑戦する女性です。出産後はそんなに働かなくていいじゃないかと思っていました。でも、「妻は妻でやっぱりやりたいことがあるよね」って気づいた時、はじめて対等になったというのが正直なところです。


スプツニ子!氏 当時の女性でフルタイムで働いていたのは、かなり珍しいですよね。子育てについては、どのように捉えていましたか?


倉田氏 子どもは結婚して比較的早くできました。本当に可愛かったんです。子どもと一緒に過ごせる時間はもう二度と来ないと思いました。だから、一緒に過ごしたいという思いが大きかったんです。私はゴルフが好きで、子供が生まれるまでは毎週末のように家をあけていました。今だから言える話ですが、子どもができてからはゴルフに誘われても膝の靭帯が悪いと言って断っていました(笑)。そうでもしないと子どもとの時間はつくれませんでした。

左からAGC 代表取締役 兼 専務執行役員 倉田英之、株式会社Cradle 代表取締役社長 スプツニ子!氏

左からAGC 代表取締役 兼 専務執行役員 倉田英之、株式会社Cradle 代表取締役社長 スプツニ子!氏

スプツニ子!氏 それは素晴らしい暴露ですね!(笑) 多分、「時間をどうやってつくるのか」ということは子育てをしている人たち皆さんが直面していることだと思います。


倉田氏 運動会とか学芸会とか子どもの行事って色々あるじゃないですか。授業参観日は妻が行けない時は私が行っていました。実際に学校へ行くと、男性は一人とか二人くらいしかいませんでした。当時は珍しいからか、顔を覚えてもらって、すぐに打ち解けることができました。母親の中では、結構有名人でしたよ。今思うと、仕事と育児の両立は忙しかったけど、楽しみながらやっていました。


スプツニ子!氏 共働きで子育てする社員が増えている中で、倉田さんが仕事と子育てを両立しながらここまでやってこられたという話は働く人にとってとても励みになると思います。


倉田氏 しかし、最初の1、2年は夫婦喧嘩が絶えませんでした。私なりにできることはやっていたつもりでした。当時は製造を担当していて東京の自宅から千葉工場に通っていたのですが、朝5時半に家を出る前に子どもたちのお弁当の準備をしたり、帰ったら洗い物や洗濯もやっていました。ある日、「私はこれだけやっている」と妻に訴えると「当たり前のこと」と返されました。言ってはいけない言葉だったと気づかされ、考え方を改めました。それ以降、なにか手伝えることはある?って聞くようになったんです。


スプツニ子!氏 倉田さんの時代、男性が育児をすることがレアだから何をするにも手探りだったんですね。最近では、「なにか手伝うことある?」と聞くのも、叩かれるようになりました。自分で主体的に育児や家事をせずに「妻の指示待ち」というニュアンスを出すと、SNSなどで炎上していますね。


倉田氏 私の場合は、妻が目いっぱいやってて、これ以上やれないっていう時に、私が手伝えることは?と言ったので、それは救いだったと言ってもらえましたね。


スプツニ子!氏 私も2歳の子どもを育てていますけど、うちはミルク育児をしていたので、私の夫も夜泣きの対応とかできるじゃないですか。夜に寝るのもシフト制で私が夜9時から朝3時まで見て、彼が朝3時から朝9時を見てなど分担して、ウチも共働きですけど、もう格闘でしたね。


倉田氏 これは笑い話ですが、育児が落ち着いた頃、上司から「子どもが小さかった時、20時から会議があったのによく先に帰ってたよね」と言われました。その時は全部段取りをしてから帰ったので仕事に支障はなかったんですけど。家族で段取りを決めているから帰らないといけなくて、焦って帰りましたね。

左からAGC 代表取締役 兼 専務執行役員 倉田英之、株式会社Cradle 代表取締役社長 スプツニ子!氏

左からAGC 代表取締役 兼 専務執行役員 倉田英之、株式会社Cradle 代表取締役社長 スプツニ子!氏

スプツニ子!氏 その時に時間内に全部段取りをして効率良く仕事をするテクニックを習得されたんですね。


倉田氏 確かに効率は良かったかもしれないですね。通勤時間もその一つです。私は東京から千葉県まで通っていたので、片道二時間はかかります。その間は睡眠や仕事、読書もできます。単身赴任も考えましたが、両親には頼れないし、ベビーシッターさんにも預けられなくて、二人で協力して育児をすることにしました。


スプツニ子!氏 いろんな葛藤をしながら子育てと仕事をしていたということですね。そんな倉田さんが今、「Ph.D.(博士号)」の勉強と研究をされていると伺いました。経営と両立をされていることに驚きです。


倉田氏 論文を読んだり書いたりしないといけないので、土日や朝の時間を使って研究しています。周りの協力と、選んだテーマが進めやすかったんだと思います。


スプツニ子!氏 子育てが落ちついて時間がつくれるようになったら色々なことにチャレンジできるかなと思っています。倉田さんみたいに研究にも力を注いでいる姿を見ると勇気をもらえますね。

多様性の交差がイノベーションにつながる

スプツニ子!氏 多様なアンテナを立てることはイノベーションに有利とされていて、研究にも直結すると思います。アンテナの多様性とイノベーションについてどうお考えですか。


倉田氏 皆さんそれぞれ強みを持ってると思います。その強みは、ちょっと違う領域に行くとまた違った見方ができます。それがイノベーションをどんどん起こすチャンスにつながります。イノベーションは多様性の掛け算です。

スプツニ子!氏 AGCさんの事業展開はまさにイノベーションそのものですよね。戦略事業領域に挑戦をしながら、コア事業もイノベーションをしていく。イノベーションといえば、先日、サンフランシスコに行った時、無人タクシーに乗ったんです。普通に街中を走っていて、3年もしたらほとんどのタクシーが無人タクシーになっちゃうんじゃないかなって。


倉田氏 実は私も乗ったことがあるんですよ。最初はみんな不安な顔をしていました。でも、10分も走ると普通に気にならなくなって、意外と平気だね…と。車が古いとか運転手が怖いとかそういう心配が全くないので、子どもの送り迎えにいいなと思いました。やはり自分の目で見ないといけませんね。


スプツニ子!氏 それはいいですね!保育園の送り迎えをしている皆さんが殺到しますよ。まさにイノベーションですね。倉田さん自身の保育園の送り迎えの経験とモビリティーが重なりましたね。体感をすると見えてくる景色や出てくるアイデアがありますよね。


倉田氏 私は研究職のメンバーも外へ出ていろんな体験をしてほしいといつも言っているんです。美術館でも良いわけですし。何か違う環境に自分をおかないと新しいものは出てきません。

左からAGC代表取締役 兼 専務執行役員 倉田英之、株式会社Cradle代表取締役社長 スプツニ子!氏

スプツニ子!氏 私が先日、サンフランシスコのベンチャーキャピタルが主催しているキャンプに参加した時のことなんですけど、参加者は起業家やスタンフォード大研究者が多く、ジェンダーは半々、人種もバックグラウンドもばらばらでみんなTシャツやジーンズを着てラフな感じでした。そのキャンプでは人工知能やバイオ技術などのテーマを出し合って語り合うことをしたんですけど、日本でこういう多様なメンバーの参加する会はあまり見ないなと気づいたんです。どうしても同質的に議論しているなと。そうすると視野が狭くなってしまいますよね。


倉田氏 そうですね。視野を広げるためにも実は研究所でやりたいことがあるんです。大学院時代に和光市にある理化学研究所に通っていたんですが、毎週金曜日の16~20時は社員食堂がバーに変わるんです。バーになるといろんな人が気軽に混ざって議論して、アイデアが合致した研究者や先生同士が、研究室に戻り、二次会をやってさらに議論していたんですよ。私も参加していて楽しい上に、大いに学びました。自由に考えて発信してアイデアを共有し、それをどう活用するかまで考えることが大事だと思っています。

AGC 代表取締役 兼 専務執行役員CTO 倉田 英之氏

AGC 代表取締役 兼 専務執行役員CTO 倉田 英之氏

スプツニ子!氏 マサチューセッツ工科大学の「MIT Media Lab」もお互いの研究が見えるようにしていますよね。毎週持ち回りでティーパーティーを開催してお茶とお菓子を食べたり、あるお店に研究者がみんなで集まって研究の話に明け暮れたり。「交流することでアンテナを交差させ、さらにアンテナを増やしていく。」これって凄く大切なことですよね…


さて、あっという間にお時間が来てしまいました。せっかく倉田さん、こんな素晴らしい経験をお持ちで、お話も楽しくて、もっともっとメディアに出てほしいです!
倉田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


倉田氏 私の話がどれくらい参考になったかわかりませんが、みなさんも、多様性を認めあい、尊重し合い、そしてお互いを思い合っていけたらと思います。
スプツニ子!さん、ステキな機会をありがとうございました!

※部署名・肩書は取材当時のものです

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