技術開発戦略

AGCグループでは「両利きの開発」「オープンイノベーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の三本柱で開発スピードを加速し、社会課題の解決と価値創造を目指します。

AGCの長期経営戦略と技術開発戦略

AGCグループは長期経営戦略「2030年のありたい姿」として、「独自の素材・ソリューションの提供を通じてサステナブルな社会の実現に貢献すると共に継続的に成長・進化する」を目標として掲げました。また、この確実な達成に向けて策定した中期経営計画AGC plus-2023では、「両利きの経営によるコア事業の強化と戦略事業の推進」と、「サステナビリティ経営の推進」「DXの加速による競争力の強化」という戦略を示しました。
これを受けて技術開発においては、「両利きの開発」「オープンイノベーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の三本柱による戦略のもと、「コア事業の強化と戦略事業の推進」と「サステナブルな社会の実現」という主要な課題解決に挑んでいます。

両利きの開発

「右利きの開発」とは、①既存の生産・基盤技術を革新し、②お客様と共に新商品を開発することを指します。お客様に密着し、そのニーズにお応えする形での開発になりますので、現状の課題をもとに改善策を積み上げていくようなフォアキャスティングのアプローチであるといえるでしょう。事業的に見ると、生産性の改善や新商品開発を通じた既存コア事業の強化につながる技術開発となります。
一方、③既存の生産・基盤技術を再定義し、新しい市場を開拓することを「左利きの開発」と呼びます。こちらは、将来起こりえる大きな時代の変化を予測し、新事業を創出することで、その変化の波を乗り越えていくようなバックキャスティングのアプローチであるといえます。事業的に見ると、モビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスなど戦略事業の領域での新事業の創出につながる技術開発となります。
この2つはどちらも重要であり、「右利きの開発」によって既存事業の競争力を高めながら、「左利きの開発」で未来を創ることにより、AGCグループは成長・進化していきます。この両方のバランスをとることが「両利きの開発」を進める要諦となります。

ガラス事業における両利きアプローチ例

ガラス事業の歴史を振り返って分かりやすい例を挙げると、建築用ガラスの生産・基盤技術をもとに、コーティングや複合化といったコア技術を組み合わせてLow-E複層ガラスなどの高機能な新商品を開発することが「右利きの開発」であり、既存・コア事業の強化に相当します。一方、板ガラスの技術を発展させ、自動車用ガラスやブラウン管用ガラスを開発し、自動車分野、テレビ分野といった新しい事業分野へ進出したことが「左利きの開発」にあたり、新規・戦略事業の創出に相当します。

ガラス事業における両利きアプローチ例

バイオCDMO事業における両利きアプローチ例

また、バイオ医薬品のCDMO事業も、この事例に当てはまります。AGCはもともとフッ素化学による低分子医農薬中間体・原体の技術や、そのビジネス展開の過程でGMP(医薬品適正製造基準)レベルの品質管理体制と設備を構築していました。また、酵母や大腸菌を使って有用タンパク質を製造するバイオ技術も開発・保有していました。これらの組織能力と技術を活用して、医薬品メーカーから微生物によるバイオ医薬品受託製造(CDMO)を行ったのが、いわば「左利きの開発」アプローチで、ライフサイエンスにおける新規戦略事業の創出につながりました。これを起点に、M&Aも活用して動物細胞の技術を開発・導入し抗体医薬の分野に進んだのが「右利きの開発」アプローチであり、既存事業の強化といえます。

バイオCDMO事業における両利きアプローチ例

オープンイノベーション

近年は社会の変化が加速し、社会課題も複雑さを増しています。お客様のニーズも高度化、多様化しているため、AGC単独での開発では課題解決が難しくなりつつあり、外部パートナーとのオープンイノベーションによる協創活動が重要となっています。

AGCでは、2軸でのオープンイノベーションを進めています。1つは大学をはじめとするのアカデミアやスタートアップ企業などとの協創で、革新的な技術やAGCに無い技術を開発することです。東京大学や東京工業大学、名古屋大学などと共同研究を進め、難しい課題に挑んでいます。
こうして得られた新規技術やソリューションを活用して、お客様であるリーディングカンパニーと新たな商品を開発するのが2つ目のオープンイノベーションです。近年の事例では、大手通信会社である株式会社NTTドコモとの共同開発が挙げられます。都市部では移動通信アンテナを設置する場所の確保が課題となっていますが、既存の窓ガラスの室内側から取り付け可能なガラスアンテナ「WAVEATTOCH®(ウェーブアトッチ)」を開発し、都心のビル窓をアンテナ化しました。
2020年には、AGC横浜テクニカルセンター(YTC)内に新研究棟を新設し、従来2拠点に分かれていた開発機能を統合して、材料開発、プロセス開発から設備技術開発までをシームレスにつなぐ体制を整えました。更に、新研究棟にはオープンイノベーションを加速する場として、協創空間「AO(アオ/AGC OPEN SQUARE)」を設けました。AOは「つなぐ」「発想する」「ためす」をコンセプトに、社外のパートナーとの協創の場を用意しています。

デジタルトランスフォーメーション(DX)

材料開発や組成開発に計算科学や情報科学を⽤いることで、素材開発を⼤幅に効率化するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が注⽬されています。AGCでも早くからMIに取り組み、ガラス開発や環境対応型フッ素系溶剤AMOLEA®の開発などに活用してきました。しかし、これまでは実験データの保管形式が統⼀されていないなど、幅広い分野でMIを本格活⽤することが難しい状況でした。そこでAGCは、統合化された実験データ保管プラットフォームをMI活⽤の重要な基盤と捉え、開発業務向けに電⼦実験ノートの機能を併せ持つMIデータベースシステム「AGC R&D Data Input & Storage(ARDIS)」及びMI専⽤分析ツール「AGC Materials Informatics Basis Analysis Tool (AMIBA)」を開発しました。また、量⼦計算、分⼦シミュレーション計算などの計算科学を⽀援する内製ソフトの活⽤により、実験と理論計算を連動したMI による材料開発を進めることが可能となりました。

ガラス、化学やバイオといった様々な技術分野において、データ⼊⼒からデータ分析までを⼀貫して実⾏できる開発環境が整い、あらゆる開発ステージで現象の理解や特性予測が進み、技術開発の効率化が加速しています。

サステナブルな社会に向けた課題解決

ガラスは、原料である砂をバーナーで溶解するエネルギー多消費型の産業です。AGCはガラス業界のリーダーとして、地球環境のサステナビリティ維持に向けて、2050年でのカーボン・ネットゼロの目標を掲げました。重油よりも燃焼時CO2排出量が約20%削減できる天然ガスへの燃料転換は、既に93%以上を達成済みです。今後は、カーボンフリーなアンモニア燃焼技術、電気ブースターによる溶解、保温性の良いセラミックスなどの最先端生産技術開発を推進し、カーボン・ネットゼロを目指します。

更には、事業を通じた温室効果ガス(GHG)削減貢献も進めていきます。真空断熱ガラス、建材一体型太陽電池など、環境対応型新製品を多数開発しており、欧州の建築用ガラスでは製品使用時に製造時排出量の10倍のCO2排出削減に貢献しています。

また、CO2を排出しない水素エネルギーに貢献する素材開発も、重要なテーマです。フッ素を生かした燃料電池用電解質ポリマーでは、高発電性能と高耐久性を両立させ、圧倒的No.1ポジションで、水素社会の実現に貢献しています。