技術開発戦略
技術開発の戦略と主要施策
次の50年、100年を創るイノベーションを継続的に生み出し、サステナブルな社会を実現するため、三つの主要施策、「“両利きの開発”によるCX加速に貢献」「DXの加速による競争力の強化」「サステナビリティ経営の推進」を確実に実行し、成果を目指します。
1.“両利きの開発”によるCX(コーポレート・トランスフォーメーション)加速に貢献
技術本部では、“両利きの経営”の考え方を技術戦略に落とし込んだ“両利きの開発”によって、
・基盤技術、生産システムの深化・拡張による確実な事業立ち上げと安定生産
・独自の素材・ソリューションの追求による次の新戦略事業領域の探索継続
・メリハリの利いた開発活動によるアウトプットの質・量の向上
を進めます。
「右利きの開発」とは、①生産・基盤技術を革新し、②お客様と共に次世代品・新商品を開発することを指します。①により既存事業の本質的な競争力向上を目指し、②によりコア・戦略事業の進化・拡大を目指します。
一方、「左利きの開発」は、③保有能力(既存の生産・基盤技術)を再定義し、新市場を開拓することを指します。将来起こり得る大きな時代の変化を予測し新事業を創出するアプローチであり、モビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンス、パフォーマンスケミカルズなど戦略事業の領域での新事業の創出により事業のポートフォリオシフトを加速します。この目的のため、技術本部ではマクロトレンドから導出される技術ロードマップに加え、市場性、社会課題、AGC適社性からAGCにとって有望な製品/テーマを抽出整理することにより、技術開発の重点領域と注力ターゲットテーマを定め、定期的に見直しながら開発を進めています。
また開発に当たっては、従来のステージゲート法に変え、仮説指向計画法(DDP:Discovery-Driven Planning)を導入し、開発テーマポートフォリオマネジメントを強化し、「何をやめるのか、何は継続強化するのか、新たに何を始めるのか」を定めていきます。

2.DXの加速による競争力の強化
新中計AGC plus-2026の全社戦略の一つ「価値創造DXの推進」を受け、技術本部では、
・生成AIをはじめとするDXに関わる高度化する技術を先取りし、データとデジタル技術を活用し、あらゆるもの(製品、業務、開発プロセスなど)の変革に挑戦します。
・DXの推進により、材料・プロセス技術、設計・評価技術、生産技術などの基盤技術の強化と拡張を進めます。
・製造・事業基盤の強化のために、事業競争力の鍵となる安定生産・品質向上、保全力向上、安全・環境・品質体制のさらなる向上を進めます。
・事業を支える「攻め」の知的財産戦略・標準化戦略を進めます。
独自のMIデータベース・分析ツールを開発
材料開発や組成開発に計算科学や情報科学を用いることで、素材開発を大幅に効率化するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が注目されています。AGCグループでも早くからMIに取り組み、新規ガラスの開発や環境対応型フッ素系溶剤「AMOLEA®」の開発などに活用してきました。しかし、これまでは実験データの保管形式が統一されていないなど、幅広い分野でMIを本格活用することが難しい状況でした。そこでAGCは、統合化された実験データ保管プラットフォームをMI活用の重要な基盤と捉え、開発業務向けに電子実験ノートの機能を併せ持つMIデータベースシステム「AGC R&D Data Input & Storage(ARDIS)」およびMI専用分析ツール「AGC Materials Informatics Basis Analysis Tool(AMIBA)」を開発しました。また、量子計算、分子シミュレーション計算などの計算科学を支援する内製ソフトの活用により、実験と理論計算を連動したMIによる材料開発を進めることが可能となりつつあります。
ガラスや化学、バイオといったさまざまな技術分野において、データ入力からデータ分析までを一貫して実行できる開発環境のベースが整いつつあり、今後さまざまな開発ステージで現象の理解や特性予測への適用を通じて、技術開発の効率化が期待されます。

化学品プラントにおけるプロセスデジタルツインを開発、インドネシアの塩化ビニルモノマー製造プラントにて運用を開始
プロセスデジタルツインとは、実プラントの運転データをプラント情報管理システム(PIMS)経由でプロセスシミュレータにリアルタイムに取り込み、即時に高速計算することで、仮想空間上にプラントの現在の状態を再現するテクノロジーです。本システムの活用により、これまで取得できていなかったデータや、リアルタイムに参照できなかったデータをシミュレーション上で推算し、運転状態や装置性能などを可視化することが可能になります。また、迅速な状況把握とデータに基づいた意思決定が可能になり、プラントの安定操業に大きく寄与することが期待されます。
プロセスデジタルツインの構成

3.サステナビリティ経営の推進
全社的なサステナビリティ経営の進化の戦略の下に、技術本部では、
・イノベーションを継続的に生み出す活力のある組織の創成を目指し、DEIの確実な実行、スマートワークを推進します。
・個人の成長を支援し、活躍の場を提供します。具体的には、10%チャレンジ枠の活用や学会活動などの技術者としての鍛錬や成長の場の活用を進めています。
・サステナビリティ関連の技術開発においては、GHG/環境対応技術開発の強化、省エネルギー・リサイクル技術の深掘を進めています。
サステナビリティ経営の推進事例:水素を燃料に利用したガラス製造の実証試験に成功
関西工場高砂事業所(兵庫県高砂市)の電子用フロートガラス製造設備にて、水素を燃料に利用したガラス製造の実証試験に成功しました。実生産炉で水素を利用した試験は、当社グループとして初の事例となります。
本試験は、都市ガスを燃料に利用した従来の酸素燃焼プロセスの一部に、日本エア・リキード合同会社(本社:東京都港区、CEO:イリョン・パク)の支援のもと、同社の水素燃焼バーナーを導入し実施しました。技術課題である、ガラスの品質、炉材への影響、火炎温度、炉内温度、窒素酸化物(NOx)排出量などを検証、ガラス溶解炉の温度を適正に維持しつつ、排ガスに含まれるNOx濃度を、都市ガス専焼時と同等レベルに抑制する結果が得られました。
今後は、燃焼能力をスケールアップした試験や、AGCグループの海外拠点における実証試験も検討し、水素燃焼技術の活用範囲を見極めた上で、本格導入を目指します。

