CTOメッセージ
最新技術を積極的に導入し、人のつながりを大切にしながら競争力ある技術開発を推進していきます

CTO/技術本部長
倉田 英之
AGC plus-2026に向けて
戦略事業の成長投資に重点
長期経営戦略「2030年のありたい姿」の実現に向けた主要戦略が、「事業ポートフォリオ変革」と「サステナビリティ経営の推進」です。素材の技術開発には長い時間がかかり、簡単に方向転換することは困難ですが、前中期経営計画期間では戦略事業へのシフトを重視し、テーマの改廃に積極的に取り組んできました。その結果、研究開発費の構成比を見てみると、2024年からの新中計ではコア事業38%、戦略事業62%と戦略事業への移行が進んでいます。ただし、まだ研究開発効率が十分に高いとはいえません。技術開発部門は、ROEに対して責任を持ち、開発成果を確実に事業に結びつける必要があります。そのためには「何をやめるか、何を継続するか、何を始めるか」という3つのポイントを明確にすることが重要です。開発リソースには限りがあるため、変革に取り組む際には何かを断念する必要も意識しています。
新中計では、戦略事業における成長投資が重要な領域です。これまでのエレクトロニクス・モビリティ・ライフサイエンスにパフォーマンスケミカルズを加えた4つの領域が戦略事業として位置づけられました。これらを将来の柱とし、収益性を向上させながら、拡大を図っていきます。一方でコア事業には安定してキャッシュを創出することが求められており、生産性の向上や安全・安定性の確保などの面で進化し続ける必要があります。コア事業、戦略事業を問わず、モノづくりの企業として進歩を止めることはできません。
両利きの開発
- 右利きの開発:生産・基盤技術を革新し、お客様と共に新商品を開発
- 左利きの開発:保有技術を再定義、新市場を開拓

「サステナビリティ経営の深化」と「価値創造DXの推進」
新中計では「サステナビリティ経営の深化」という戦略を掲げています。AGCグループは提供する社会的価値を「Blue planet」「Innovation」「Well-being」の3つに再定義し、サステナビリティKPIを設定しました。「Blue planet」の中でも重要な取り組みはGHG排出削減と、GHG排出削減貢献製品の開発です。例えば、CO2排出源であるガラス製造工程においては、業界のリーダーとしてガラス溶解におけるGHG排出削減の取り組みをグローバルで牽引していきたいと考えています。
「Innovation」に関しての大切な切り口として、「価値創造DXの推進」を掲げています。デジタル技術とAGCの強みであるモノづくり力の融合により、生産性の飛躍的な向上や、サプライチェーンをつなぐことなどで、各事業の競争力を高めていきます。そのために、2023年には「デジタル・イノベーション推進部」を新設し、ここが生産性の革新と最新デジタル技術の社内展開を牽引しています。特に、DX戦略の立案と支援、人財育成もこの組織の重要なミッションです。併せて各カンパニーでもDX推進組織を整備しています。あらゆる現場をつなぎ、価値創造を可能にするプロセスの構築を目指しています。
「Well-being」においては、「人財のAGC」を宣言し、「従業員エンゲージメント」もサステナビリティKPIに設定しています。技術開発や製造の職場において、ダイバーシティや働き方改革を継続的に推進することが重要です。
AGCを支える技術の強み
幅広く特徴のある基盤技術を保有
当社の長期経営戦略の実現には、蓄積してきた数々の「強み」のある基盤技術が支えとなります。117年という長い歴史の中で、さまざまな特徴ある素材の提供およびソリューションの提案に挑戦し、無機・有機・バイオなど、幅広い基盤技術を商品ごとに獲得してきました。例えば、ガラスの生産技術はその一つです。ガラス硝材開発だけでなく、溶解窯に用いる耐火物の開発・製造により、セラミックス技術を培い、セラミックス関連事業へとつなげました。また、有機化学の分野では、ガラス製造に用いるソーダ灰の製造を進化させ、原塩から一貫した基礎化学品の製造プロセスを構築して来ました。現在では、フッ素化学を軸に、さまざまな機能化学品を製造する独自のケミカルチェーンを展開しながら、事業領域を拡大してきています。
また、これらの技術を融合・複合させることもAGCの大きな強みです。EUV露光用フォトマスクブランクスは、有機・無機の材料技術とさまざまな加工技術を融合させた複合部材の代表です。さらに、特徴ある素材をお客様に供給するためには、商品がユニークであるだけに、自社で製造プロセスを構築する必要があります。独自のプロセス技術・生産技術・分析技術等を保有していることも重要な差別化要素となります。
強固なお客様基盤とブランドイメージ
幅広い事業分野に進出し、世界トップシェアを占める特徴ある製品を多数提供してきたことで、強固なお客様基盤を築いて来ました。お客様が、何か困ったことがあるとまず私たちに相談に来てくださる信頼関係を構築しています。「AGC、いつも世界の大事な一部」という使命を私たちは掲げています。AGCは、堅実な技術開発を行う素材メーカーであり、課題を解決するソリューションを提供する会社です。このようなブランドイメージを持たれていることも私たちの強みです。
さらに加える強みとして、新しいことに果敢にチャレンジする文化の存在があります。それが、AGCが時代の変化に追随し、革新的なモノづくりを実現できる理由であると考えています。
人財戦略と技術開発体制
「個人の成長=会社の成長」を目指す人財戦略
技術開発組織は、幅広い技術と多様な人財を有しています。これらのリソースを適切に活用しなければ、資源の無駄使いになってしまいます。会社全体として、事業ポートフォリオ変革を推進し、炭素効率の高い技術や、ROE・資産効率の向上を重視した事業へとシフトしています。技術開発においても、スピード感と柔軟性を備えた体制づくりに取り組んでいます。
人財に関しては、「個人の成長=会社の成長」という考え方のもと、人財の交流や再配置、リスキリングなど従業員の成長を促す環境作りに力を注いでいます。その一例が「プロジェクト制」です。意欲的な若手を中心にプロジェクトチームを編成し、特定のテーマに取り組むもので、異なる部署からメンバーを集め、成果を生み出す試みの場として実施しています。
また、特徴ある幅広い技術を生かした技術開発には、人財の横のつながりを強化することも重要視しており、CNA※1やBeatrust※2など、社内のコネクションを促進する取り組みを行っています。 さらに、各カンパニーとコーポレート部門の研究所が連携し、人財の交流も進めています。研究所で中長期的に取り組んできたテーマや、カンパニーでは扱いにくい境界領域のテーマなどは、コーポレート部門の事業開拓部によって、全社の技術アセットを活用して、新たな事業をインキュベーションするといった仕組みも大きな特徴です。人財の多様性を高めるために、女性比率の向上、多国籍化、博士の採用やキャリア採用などにも注力しています。キャリア採用の従業員が半数以上を占める部署も存在します。多様性は新たなイノベーションを生み出すために不可欠です。定量的な数値目標を設定し、多様性の確保を着実に推進していきます。
※1 CNA(Cross-divisional Network Activity):スキル分類をもとにした部門横断的ネットワーク活動
※2 Beatrust:Beatrust 社が提供するタレントコラボレーション・プラットフォーム。社内SNSとして活用
社外の知恵を活用するオープンイノベーション
当社では、オープンイノベーションを中心に、社外との交流を活発に行っています。イノベーションは、必ずしも新たなものをゼロから考案するだけでなく、既存の要素を新たに結びつけることも含まれます。オープンイノベーションは、新たな結びつきを生み出すための非常に重要な場です。2020年にAGC横浜テクニカルセンター内にオープンした協創空間「AO(アオ/ AGC OPEN SQUARE)」が、その拠点となっています。開設から3年目の2023年には約600団体の来場があり、その半数以上が顧客企業やアカデミアなどで、3,000人以上が訪れました。AGCグループの保有技術や強みを理解いただき、提案などを通じて、交流することの重要性を実感しています。

全てのテーマを社内独自で取り組むことは人財がいくらいても足りません。先ほど事業ポートフォリオ変革に関して「何をやめるか」と話しましたが、それは、自社内での開発をやめ、オープンイノベーションを活用するということも含まれます。たとえ継続すべきテーマでも、自社開発には10年かかるかもしれない。しかし、社外の知恵を借りることで、社内リソースを使わずに短期間で開発できる場合もあります。このようなケースは数多く存在します。
技術開発のテーマも、社外のニーズと組み合わせることで優良なテーマが生まれてくると感じています。優れたテーマが成功し、事業に貢献すると、取り組んだ人々のモチベーションも高まり、良いスパイラルが生まれます。また、企業同士がオープンイノベーションに取り組む場合、さまざまな部署から人々が集まり、他社のお客様と協創して仕事をすることが重要です。オープンイノベーションを通じて、従業員が成功と成果を実感できる仕組み作りに今後も力を注いでいきます。
戦略的知財活動の推進
事業戦略上の重要な資源である技術開発の成果を知的財産として有効活用し、他社に対する競争優位性を高める取り組みを継続的に進めています。特許権の取得を奨励するため、独自の評価基準に基づく報奨制度を設けています。
特許発明は、研究開発部門だけでなく、他の部門からも生まれます。以前は、特許が事業化されて生み出された利益に基づいて報奨を与えていましたが、現在は、特許の登録時点で、発明の革新性・独創性や、特許権として他社に及ぼす影響度を考慮して評価し報奨しています。他社での活用も含め、AGCグループの事業に真に貢献する発明を、積極的に評価する考え方が背景にあります。この制度により報奨の対象が広がり、報奨金を受け取る人数も増えました。
また、特許情報分析サービスの提供などを行うレクシスネクシス社(米国)の「Innovation Momentum 2024: The Global Top 100」のレポートで「世界の科学技術の未来をリードするイノベーティブな企業100社」に2年連続で選出されました。これは、特許の価値に基づいた企業競争力を評価するものです。報奨制度と結びついた戦略的知財活動がうまく機能していることを示しています。
一方、よりグローバルに事業を拡大していくためには、ルールメイキングに積極的に参加することも重要です。AGCグループの最高技術責任者として、「標準化活動」にも力を入れています。今後も、事業に貢献するプロアクティブな知的財産活動、標準化活動を推進していきます。
さらなる成長に向けた足腰の強化を
エッジコンピューティングや生成AIなどの技術が次々に登場し、社会情勢や産業構造が急速に変化している現代、このような未来の見通しが立たない時代において、勝者が誰になるかを予測することはできません。しかし、私たちは時代の変化に対応し、成功する企業でありたいと考えています。事業ポートフォリオを着実に変革し、低迷する事業は改革し、攻める事業は成長させていくことが重要です。技術部門としては、大きな変化が起きる前や起きた際に適切に対処できるように準備することが不可欠です。そのために、AIやビッグデータ解析、データマイニングなどを活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の取り組みを加速しています。新しい中期経営計画期間では、新技術を積極的に取り入れながら将来の成長に向けて強化していきたいと考えています。これらの取り組みは、私たちが常にお客様から頼りにされ、欠かせない存在であり続けることを目指していることを意味します。世の中、事業環境が変化した時には、常にAGCがそこにいると感じてもらえる会社でありたいです。
個人と会社の成長のためには、積極的に外部とのつながりを持つことが重要です。新たな結びつきからイノベーションが生まれ、将来的にはノーベル賞級の成果も期待できるでしょう。私はそうした機会を積極的に創り出し、AGCグループが未来に向けて成長し続けることに貢献したいと思っています。私自身も社内外のネットワーキングの場に積極的に参加し、貢献できるよう努力したいと考えています。