景観を損なわない“アンビエントデバイス” 5G時代の基地局増加にガラス技術で対応 景観を損なわない“アンビエントデバイス” 5G時代の基地局増加にガラス技術で対応

Oct.17 2022

景観を損なわない“アンビエントデバイス” 5G時代の基地局増加にガラス技術で対応

社会インフラや交通システム、工場などをスマート化する重要な情報通信基盤として注目を集める第5世代移動通信システム(5G)――。その特徴である超高速・大容量、超低遅延、超同時多数接続を活用するには、膨大な数の基地局や電波環境を整えるアンテナ設備などの設置が欠かせない。だが、設備の増加は景観を大きく損ねてしまう可能性がある。AGCは長年培った意匠性の高い建築ガラスなどの知見と技術を生かして、景観にさりげなく溶け込み、電波環境を整えることができる新発想のデバイス「アンビエントデバイス」を開発している。

Profile

榎本 康太郎

榎本 康太郎

事業開拓部 マーケティンググループ マネージャー

朝長 浩之

朝長 浩之

事業開拓部 マーケティンググループ リーダー

若槻 充

若槻 充

事業開拓部 マーケティンググループ マネージャー

神原 久美子

神原 久美子

電子カンパニー 技術開発本部 開発企画部 技術企画グループ マネージャー

景観を損なう恐れのある 5G基地局や設備の増加
>事業開拓部 マーケティンググループ マネージャー 榎本 康太郎氏

事業開拓部 マーケティンググループ マネージャー 榎本 康太郎氏

生活や社会活動に豊かさと利便性をもたらす文明の利器は、時として、日常的風景や自然環境の破壊を助長してしまう場合がある。洗練された大都市のような豊かさと心地よさの調和が取れた景観が生まれることはまれであり、新たに導入された機械や施設が生活空間を殺風景で無粋な場所に変えてしまうことも多い。そうなれば、利便性を生み出す機器や施設も見た目が悪く、迷惑なモノとして扱われてしまう。

近年、利便性と心地よい景観の両立が、大きな問題として浮上しているのが、携帯電話の基地局である。特に、普及が進む第5世代移動通信システム(5G)では、以前の携帯電話よりも多くの基地局を設置する必要がある。これまでの第4世代移動通信システム(4G)では、郊外ならば基地局から半径10km以上、利用者が密集する首都圏の市街地でも半径約1kmの領域をカバーできた。これが、5Gでは基地局1基当たりのカバー範囲が一気に狭くなる。遠くまで電波が届きにくい周波数の高い電波を利用するからだ。5Gの超高速・大容量、超低遅延、超同時多数接続を実現するには、基地局から半径100m程度の範囲でしかカバーできないことも想定される。単純に面積比で必要な基地局数を計算すると、同じ面積をカバーするのに100~1000倍の基地局を設置する必要があることになる。


さらに、5Gで利用する電波のうち、高速・大容量の通信に向く28GHz帯のミリ波は、Sub6と呼ばれる3.7GHz帯や4.5GHz帯に比べて直進性が高く、障害物の裏に回り込む効果が薄い。したがって、基地局を見通せない環境では、不感地帯となるケースが多いと考えられる。このため、基地局と端末の間に障害物がある環境では、確実に電波を届かせるための設備を新たに設置する必要がある。


5Gの普及に伴う膨大な数の基地局や、電波を隅々まで届ける設備の増加は、生活環境や自然環境の中では確実に異物と化してしまう恐れがある。こうした状態を解消するためには、5Gの通信インフラを違和感なく環境の中に溶け込ませる技術が不可欠だ。そこでは「長年にわたって透明なガラスをはじめ、様々な素材を駆使して心地よい環境を実現するためのソリューションを提供してきた、AGCの知見と技術が貢献できます」と事業開拓部 マーケティンググループ マネージャーの榎本康太郎氏はいう。

基地局からのミリ波の電波を 家の隅々に届ける「FWA用アンテナ」

「AGCは、1970年代からクルマのプリントガラス・アンテナを開発・生産し、ガラスをベースにしたアンテナ技術を蓄積してきました。利用する電波が高周波化し、技術的難易度は高まっていますが、素材を熟知する知見を生かして新たな技術要件を満たすアンテナをいち早く開発できる力を持っています」と事業開拓部 マーケティンググループ リーダーの朝長浩之氏は語る。


同社は景観を損ねることなく、基地局を増やしたり、電波を届けたりできる多様な技術を開発している。環境に溶け込み、電波環境を整える機能を持つ“アンビエントデバイス”と呼べる技術である。現在、開発段階にある最新技術の中から、4つの特徴的な技術を紹介する(図1)。

事業開拓部 マーケティンググループ リーダー 朝長 浩之氏

事業開拓部 マーケティンググループ リーダー 朝長 浩之氏

図1 環境に溶け込み電波環境を整えるAGCのソリューション

1番目の技術は、家の窓ガラスから5G電波を取り込み、家の隅々まで送り届けるための「FWA用アンテナ」である(図2)。家の近くに基地局があったとしても、特に5Gで利用するミリ波を家の壁越しに取り込むことは難しい。例外的に窓ガラスは透過できるものの、基地局と窓の開口部をつなぐ投影領域以外の場所はすべて不感地帯となってしまう。このため、ミリ波による5G通信では、何らかの工夫なくして家の中で活用することは難しいケースが多い。

図2 基地局からミリ波を取り込み、家の隅々まで送り届ける「FWA用アンテナ」

(左)屋内で発生する不感領域、(右)FWA用アンテナの利用例

5Gによる通信を屋内で実現するためのソリューションとして、建物の屋根や屋上にアンテナを立て有線で屋内に引き込む方法が代表的である。ただし、この方法は屋内に取り込むための設備を設置するための工事に相応の手間とコストが掛かってしまう。一方、AGCが開発したFWA用アンテナは、窓ガラスに異物感なく、不感領域の問題を解消できる。「専門的な知識やスキルがない人でも窓ガラスに簡単に後付けでき、良好な電波環境を整えることができます」と事業開拓部 マーケティンググループ マネージャーの若槻充氏はいう。

FWA用アンテナは、近くの基地局に面した窓に取り付けることで、基地局との間の5G通信を安定化する技術である。既存の窓ガラスにFWA用アンテナを貼り付けるだけで、屋内の不感領域をなくすことができる。通常の窓ガラスだけでなく、断熱性の高いペアガラスも対応可能だ。これらのガラスは1枚板の透明ガラスよりも電波を通しにくいため、ガラスの種類ごとの物性と5Gの特性を精緻に考慮してクリアアンテナを設計している。

事業開拓部 マーケティンググループ マネージャー若槻 充氏

事業開拓部 マーケティンググループ マネージャー 若槻 充氏

さらに、ミリ波向けアンテナは利用時に発熱するため、寒い日などにはガラス面内で大きな温度差が生じて割れてしまう可能性がある。そのためAGCは、熱設計を行って耐久性を保ちながら、透明で良好な電気特性を持つアンテナを開発している。

柱と一体化した「オンポールアンテナ」 5G基地局の増設を後押し
柱と一体化した「オンポールアンテナ」

2番目の技術は、柱の表面にアンテナの機能を付加して基地局のアンテナを目立たなくする「オンポールアンテナ」である。基地局のアンテナはより広い領域に電波を届ける必要性から、見通しの良い場所に置く必要がある。先述したように、5Gでは4Gよりも基地局が増加するため、柱に付設したアンテナ自体に異物感や威圧感があると、景観を害する要因になってしまう。

オンポールアンテナを活用することにより「景観を害することなく基地局アンテナを設置できます。これによって、基地局の設置ペースを加速できると考えています」(榎本氏)。また、薄型で曲面への設置が可能なアンテナであるため、既に設置されている電柱や街灯などの柱を、見た目を変えることなく基地局化できる。


特に、電柱は基地局の運用に必要な電力の供給や通信ケーブルが既設されているため、有力な設置場所になるとみている。AGCはミリ波向けとSub6向け、それぞれのオンポールアンテナを開発済みである。見た目を重視するのか、それとも性能を重視するのかを、基地局を設置設計する顧客と相談しながら、最適な特性と外見を作り込むことが可能だという。

「透明リフレクタフェンス」で Sub6、ミリ波の不感領域をなくす

3番目の技術は、基地局からの電波が直接届かない不感領域に、電波を反射させることで迂回経路をつくり電波を送り届ける「透明リフレクタフェンス」である。電波の障害物となるモノが多く置かれた工場のフロアなど、ローカル5Gを活用してIoTシステムを構築する場合などを利用シーンとして想定した技術である。

電子カンパニー 技術開発本部 開発企画部技術企画グループ マネージャー神原 久美子氏

電子カンパニー 技術開発本部 開発企画部 技術企画グループ マネージャー 神原 久美子氏

直進性の高いミリ波はもとより、Sub6の電波においても不感領域はできてしまうケースがある。近年、工場内の装置や設備にセンサーを取り付け、そこから取り込んだ情報を私的な5G通信を利用して収集する、いわゆる“ローカル5G”に注目が集まっている。ところが、産業ロボットや製造装置などが密集して置かれている工場のフロアでは、不感領域がそこかしこに発生し、センサーから無線で情報を収集できなくなる課題を抱えている。ローカル5Gの活用では、不感領域を解消する仕組みの導入が不可欠だ。

透明リフレクタフェンスは、透明基板上の導電膜により、電波を反射する特性を付与する技術である。透明、大サイズ、現場での施工が容易な構成であり、パネルだけでなくフレームも含めて良好な、かつ安定した反射特性が得られるよう設計されている。

さらに、工業用フェンスとしての機能も兼ね備えていることから「工場内では、産業ロボットの周辺に既に設置されている安全防護柵などに置き換えて利用できます。また、5G通信の私的利用制度であるローカル5Gでは、活用時に外部に電波を漏らすことができません。法令順守の観点からも電波を閉じ込める仕掛けが必要になります。透明リフレクタフェンスは反射機能に加えて遮蔽機能も有しているため、同時に電波をフェンス設置エリア内に閉じ込めることができます。さらに工場内で5Gを介してやり取りするデータは機密性の高い情報であるため、セキュリティの確保という点においてもメリットがあります」と電子カンパニー 技術開発本部 開発企画部 技術企画グループ マネージャーの神原久美子氏はいう。このほか、高速道路の遮音壁に置き換えて利用することで、コネクテッドカーとの通信を安定化させるための新たな用途も想定されている。


AGCは、反射時の電波の入射角と反射角が等しいノーマルリフレクタと、両者が異なるメタリフレクタの2タイプを用意している。ノーマルリフレクタのサイズは1000mm×2000mmでフェンスとして利用可能であり、ミリ波とSub6の両方に対応可能。一方、メタリフレクタは700mm×700mmであり、ミリ波のみに対応する。メタリフレクタの反射特性は、任意に設定可能である。この2種類のリフレクタを組み合わせて利用すれば、いかなる障害物の配置に対しても、ほぼ対応可能だという。AGCでは単に透明リフレクタフェンスおよびパネルを供給するだけでなく、現場での効果的な設置場所や配置などを提案できるソリューション体制を整えている。

ミリ波を狙った方向へ自在に反射する 電気制御式反射板「RIS」
電気制御式反射板「RIS」

4番目の技術は、ミリ波を反射する方向を電気的な仕組みで自在に変えることができる電気制御式反射板「Reconfigurable Intelligent Surface(RIS)」である。上下方向、左右方向それぞれ、±60度の範囲で反射角を変えることができる。RISは透明リフレクタフェンスと同様に、屋内だけでなく、屋外での利用も想定している。

RISでは、仏Greenerwave社のメタサーフェス設計技術を活用し、AGCの材料を使用した低損失基板の表面に、位相制御可能な素子を配列した、微細な周期構造を形成するメタサーフェス構造を形成することで、反射角を制御する機能を実現した。NTTとNTTドコモの2社共同実験において、RISの効果検証が実施され、電波のカバー領域の拡大効果が確認されている。

ここまで紹介してきた4つの技術を活用することで、景観を損なわない基地局や設備が、ますます広がっていきそうだ。今後、5G以上に高い周波数の電波を扱うようになる可能性が高く、既に6Gを含むBeyond 5Gの実現に向けた技術開発が進められている。電波を隅々にある携帯端末に確実に送り届けるためには、より高度な支援技術が必要になることだろう。電波が飛び交う環境に置かれているモノが電波に与える影響を熟知し、素材に関する知見を基に解決策を見いだせるAGCの役割は、これからも重要性を増していく。

日経クロステック Special 掲載記事

※部署名・肩書は取材当時のものです

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FWA用アンテナ

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オンポールアンテナ

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RIS

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