AGC Research Report 69(2019)

アンチグレアカバーガラスの光学特性・触感評価

Evaluation of Optical Properties and Tactile Feel of Anti-Glare Cover Glass

一色 眞誠*・稲本 美砂*・玉田 稔***・井上 愛知**・小林 裕介**・留野 暁*
Masanobu Isshiki*, Misa Inamoto*, Minoru Tamada***, Aichi Inouye**, Yusuke Kobayashi**, Satoru Tomeno*

*AGC株式会社 商品開発研究所
**AGC株式会社 先端技術研究所
****AGC株式会社 オートモーティブカンパニーモビリティ事業本部車載ガラス事業部

 ガラス表面に凹凸形状を付与することで、表面への映り込み像を低減し、防眩性を持たせたアンチグレア(AG)カバーガラスが、様々なディスプレイに好んで用いられるようになっている。ガラス表面に付与された凹凸形状によって、ガラスの反射特性、透過光の解像度は大きく変化する。またスパークル(Sparkle)と呼ばれる表示光のぎらつきが問題になることもある。さらにこの凹凸形状は光学特性だけではなく、表面への触感も変化させることが知られている。そのためAG処理されたカバーガラスの光学性能・触感について定量的な評価が不可欠である。光学性能に関係する指標は多数あるが、どの指標を用いるべきかが一般的に確立されてはいない。AGCではAG光学特性を有効に評価できる指標を確立し、商品開発に活用しているので、各種指標の紹介をする。触感に関しては研究が始まったばかりだが、一例として摩擦係数と指滑り性の関係について紹介する。

Anti-Glare cover glass has been used for various displays, in order to reduce the reflection of illumination or the light of the sun, by micrometer-sized structures on the glass surface. The modified surface structure strongly alters the reflective and transmissive properties. It often causes unevenness with small random size, called“ Sparkle.” This structure not only scatters the light, but also changes the texture feel. The product design requires quantitative evaluation methods for both optical and tactile feel properties. There are several methods for measuring the optical properties, however, they are not standardized yet. In this paper, we introduce our specified method for measuring the optical property, used in our product design. Moreover, the examination of the relationship between the friction coefficient and the tactile feel, that is still in progress, is presented.

1. 緒言

 ディスプレイの用途が多様化し、明所環境下で使用される状況が増え、反射の映り込みを抑制する必要性が強くなっている。このため、アンチグレア(AG)処理を施したカバーガラスの採用が増えている。

 表面に微小な凹凸(数十μm程度の幅の凹凸が一般的)を持たせるAG処理によって反射光を散乱することで、ガラスに防眩性を持たせることができるが、同時に透過光も散乱するため、ディスプレイ画質の低下も伴う場合がある。これらはトレードオフ関係にあるため、特性を適正に定量的に評価できる指標を使うことが重要である。光学特性を評価する指標は様々あるが、現在のところAGの評価に標準的に用いられる指標が確立されてはいない。

 また、AG処理によって、表面の触感も変化することが分かっている。近年タッチパネルを伴ったディスプレイが多くなっており、触感も重要な要素となっているが、触感を評価する指標は確立されていない。

 本稿では、様々な光学特性指標を概説し、AGCがAGカバーガラス(以下AGガラスとする)の商品開発・評価に有効と考え、活用している指標について説明する。また、触感については、指滑り性を評価できる指標について説明する。

2. AGガラスの光学特性指標

2.1. 反射防眩性に関わる指標

 AG処理の最大の目的は、正反射成分を減らして、反射時の眩しさを減らす、反射防眩性を持たせることである。Fig. 1に反射防眩性が高い場合と低い場合の蛍光灯映り込み写真の例を示す。

Fig. 1. AGガラスへの蛍光灯映り込み写真例

 反射防眩性に関わる指標を以下に挙げる。
・Gloss (1): 鏡面反射成分の強度を表す指標。平坦なガラス表面の鏡面反射成分を100として表す。
・DOI (2): 正反射光と正反射光近傍(正反射角から0.2°~ 0.4°の範囲)の光の割合から算出する、正反射光の割合を示す指標。
・像鮮明度 (3): 線状光源をサンプルに反射光させ、光学くしを移動させて透過部と遮光部の光量の比率を求める指標。
・AGC-Diffusion: 平行光をサンプルに照射し、照射スポット輝度の反射角度角度プロファイル(1軸方向)を測定し、拡散成分/全角度成分の比率で定義。AGC独自指標であり、変角光度計GC5000L(日本電色工業製)を使用(4,5)。(類似指標としてSMS1000(DM&S製。後述のSparkle測定装置)を用い、線光源をAGガラスのAG面に反射させ、カメラで輝度分布を撮影することで反射散乱角度分布(6)を測定し、0.5°拡散成分/正反射成分の比で定義する方法も用いており、両者には相関がある。)

 Glossは最も一般的に用いられる指標であるが、蛍光灯の映り込みを目視で官能評価した結果と相関が無い場合が見られた。そこでAGCでは目視と相関の良いAGC-Diffusionを定義し、商品開発に活用している(5)。Fig. 2にAGC-Diffusionと目視防眩性レベルの相関データ例を示す。広い範囲で目視と相関があることが分かる。

Fig. 2. AGC-Diffusionと目視防眩性レベルの相関データ例

2.2. 透過解像度性能に関わる指標

 反射とは逆に、透過光の散乱はディスプレイ鮮明性の低下につながるので、少ないことが好ましい。Fig. 3に2種類のAGガラス越しに見た解像度チャートの写真例を示す。

Fig. 3. AGガラス越し解像度チャート写真例。DNPスタンダートテストチャート高精細度解像度チャート1型を使用

 この鮮明性の低下を表す指標も重要であり、指標の例を以下に挙げる。
・Haze (7): 散乱光(光軸から±2.5°以上散乱された光)/全透過光の比。
・像鮮明度 (3): 前節で説明したものと同様で、サンプルに透過した光を用いる方式。
・Clarity (8): 直進成分のサンプル有無での強度比。
・AGC-Clarity:平行光をサンプルに垂直に入射し、照射スポット輝度の透過角度角度プロファイル(1軸方向)を測定し、直進成分/全角度成分の比率で定義。AGC独自指標であり、変角光度計GC5000L(日本電色工業製)を使用 (4,5)。(類似指標としてSMS-1000(DM&S製)を用い、AG面越しに線光源の輝度分布をカメラで撮影することで透過散乱角度分布 (6)を測定し、1-(0.7°拡散成分/正反射成分)で定義する方法も用いており、両者には相関がある。)

 Hazeは最も一般的に用いられる指標であるが、透過像の鮮明性を目視で官能評価した結果と相関が無い場合が見られる。像鮮明度やClarityの使用も考えられるが、AGCではAGC-Diffusionと同じ装置で評価可能な、目視と相関の良いAGC-Clarityを定義し、商品開発に活用している (5)。Fig. 4に、AGC-Clarityと解像度チャートで視認可能な解像度の評価結果の相関データ例を示す。例えばFig. 3の像鮮明性が低い写真の例では800の数値の位置までは4本の黒線が視認できるが、1000の位置では視認出来ないので、視認可能解像度チャート数を800と目視判断する。広い範囲で目視と相関があることが分かる。

Fig. 4. ACG-Clarityと視認可能な解像度チャートの相関データ例

2.3. Sparkleに関わる指標

ディスプレイにAGガラスを重ねると、Sparkleと呼ばれる(スパークル、ギラツキと呼ばれる場合もある)、画素よりも大きなサイズのランダムなムラが発生する。AGの凹凸が微小なレンズとして働くために発生するムラである(9)。Fig. 5にSparkleの程度が弱い場合と強い場合の例を示す。Sparkle評価時には最も見えやすい全緑表示を用いることが一般的である。

Fig. 5. Sparkleの見栄え写真例

多数の評価方法が提案されているが、カメラで撮影し、撮影された輝度データの標準偏差を用いてSparkleを定量化する方法が主流である (10)。但し、カメラでディスプレイ画面を撮影すると、条件によってはディスプレイの画素一つ一つが見える。ディスプレイ画素の点灯部/非点灯部の輝度差によっても、前述の標準偏差は発生するが、この寄与はSparkleの寄与よりも大きいことが多い。そのため、ディスプレイ画素の寄与を適切に取り除くことが重要である。多数の評価方法があるため、IEC/TC110/WG13(International Electrotechnical Commission/Technical Committee/Working Group 13)やJISで、Sparkle測定方法の標準化が検討されている。

 AGCではSMS-1000を用い、ディスプレイ画素の寄与を適切に取り除き、見た目と良い相関が得られる評価条件を確立し、活用している (11)。なお、Sparkle(低Sparkleほど好ましい)を、Anti-Sparkle (Sparkleなしを1、Sparkle最大が0となるよう変換した指標)として用いている場合もある (4)。

3. AGガラスの触感に関する指標

AGガラスの触り心地・触感に関する評価指標は報告例も少なく、どのような指標を用いるべきか、好ましい触感とは何かなど、明らかになっていないことが多い。ここでは疑似指を使用した動摩擦係数の測定について紹介する。Fig. 6は、代表的なAGガラス9種類について、表面の指滑り度合いの主観評価と、疑似指を用いて実施した静・動摩擦係数の関係を示したグラフである。横軸は、9種類のガラスを15人が素手の指で触り、滑らかに動くか動きにくいかを0~10点で点数付けをした結果の平均値である。縦軸は疑似指紋構造が付与されたトリニティーラボ社製の触覚接触子(疑似指;Artificial finger)を用い、TL201Tt(トリニティーラボ社製)で静・動摩擦係数を測定した結果である。

Fig. 6. 指滑り度合いの主観評価と疑似指を用いた静・動摩擦係数の関係

 疑似指を用いた摩擦係数と、指滑り性の主観評価には一定の相関があることがわかる。疑似指を用いた静・動摩擦係数の評価が、AGガラスの指滑り性評価に有用であることが確認できた。但し、測定条件・環境によって指滑り度合いや摩擦係数が変化する場合があるので、測定には細心の注意が必要である。なお、AGの表面凹凸構造は数十μm程度の直径をもつが、より微細なnmスケールの寸法をもつ表面凹凸処理を施したガラスでは、上記の相関が見られない場合がある (12)。

4. 結言

 AGガラスの光学特性、触り心地を、評価する指標について述べた。光学特性の場合は、各特性の理想は明確(Diffusionは高く、Clarityも高く、Sparkleは低くするなど)であるが、それぞれの特性はトレードオフ関係にあるため、適切な指標を用いて特性を評価・開発することが重要である。

 一方触り心地の場合、人がどのような触感を好むかということ自体が明確になっておらず、その好みを表すことができる指標も確立されていない。また、指の状態は人によって千差万別であり、指の状態を正確に測定していくことも重要である。指先の物理状態と、指とAGガラス表面の物理的特性の評価、さらには人間工学的な観点での評価を深めていくことが必要である。

参考文献

  1. JIS Z8741:1997.
  2. ASTM D5767-18.
  3. JIS K 7374:2007.
  4. 特許第5867649号.
  5. M. Isshiki, SID Symp. Dig. Tech. Pap., vol. 48, p. 1383, 2017.
  6. M. E. Becker, J. Soc. Inf. Disp., vol. 13, no. 1, p. 81, 2005.
  7. JIS K 7136:2000.
  8. ASTM D1746 - 15.
  9. M. E. Becker, J. Soc. Inf. Disp., vol. 23, no. 10, p. 472, 2015.
  10. M. E. Becker, SID Symp. Dig. Tech. Pap., vol. 49, p. 72, 2018
  11. M. Isshiki, A. Inouye, M. Tamada and Y. Kobayashi, SID Symp. Dig. Tech. Pap., vol. 51, p. 1126, 2019.
  12. 稲本, 西田, 岡畑, “ガラスの触り心地の制御と評価,” 旭硝子研究報告, 第67巻, p. 8, 2017.