AGC Research Report 71(2021)

クラウドコンピューティングを活用した設計最適化

Design Optimization by Leveraging Cloud Computing

福田豊*・橋本篤人*
Yutaka Fukuda, Atsuto Hashimoto

*AGC株式会社 先端基盤研究所(yutaka.yf.fukuda@agc.com)

 計算機の性能向上により、製品設計は数値解析に基づいて行われるようになってきている。この設計の高度化には2つの課題がある。1点目は、数値解析の計算資源が限られ計算負荷が高い場合に、計算に長時間を要する点である。2点目は、数値解析結果を元に設計を改善するのに、経験に基づく逐次的な設計案の探索を実施しているため、結果考察・計算の更新作業にも時間がかかる点である。本開発では、前者の解決にクラウドコンピューティングを、後者の解決に代理モデルと数理最適化を用いることで、設計時間の劇的な短縮を可能とした。これらの手法に加えて、最適化された設計群に対する洞察を、設計者に依存しない形で実施するために、機械学習を用いた手法を利用した。本稿では、本手法をLEDパッケージの熱的性能・製造コストの設計最適化に適用した例を紹介する。単純にクラウドで並列度を上げた計算を行うだけで、80回の遺伝的アルゴリズムに基づく直接最適化に要する計算時間は342時間から19時間に短縮された。さらに、実験計画法に基づく80デザインの解析をクラウドコンピューティングで全て同時計算し、その解析結果から応答曲面法に基づく代理モデルを生成し、その代理モデルに対し5000回の最適化を実施したところ、最適設計を得るまでの計算時間は25分にまで短縮された。本最適化で得られた計算結果は、熱的性能と製造コストの相反関係を詳細に説明することができる。さらに、最適解群に相当する非劣解を、機械学習の手法の一つである、自己組織化マップによって分析することで、優れた設計が8種の異なる設計コンセプトを持つこともわかった。様々な設計分野で本手法を活用し、計算・最適化・分析の全てが高速化・高度化することで、今後市場が要求する優れた製品を素早く提案できるようになることが期待される。

 With an increase in computing power, the design process based on the numerical simulations has become universal. However, there are two major problems in this computational design process. One is that the simulation process takes a long time if the computational load is high and the computational resource is limited. The other one is that the consideration and simulation update processes are also time-consuming because designers need to explore the design space sequentially to improve the design quality based on the simulation results. In this study, we demonstrate how to shorten the design-time drastically using cloud computing, surrogate models, and mathematical optimization methods. Additionally, a method to obtain deep insights without relying on the designer’s skill is established with machine learning. The proposed method was applied to design a LED package substrate with considering thermal characteristics and manufacturing cost. First, cloud computing was applied to conduct a sequential optimization with 80 iterations, which results in a design-time reduction from 342 hours to 19 hours. In the second step, 80 cases suggested by the design of experiments were simultaneously simulated by cloud computing to generate response surface models, following to which we performed 5000 times sequential optimization. This surrogate model-based optimization only required 25 minutes to complete all the optimization processes, and, consequently, the latent conflict between thermal characteristics and manufacturing cost was identified in short. The optimal solutions were categorized into eight groups based on the design concepts by a self-organization map, which enables us to understand how to improve the product performance and find a possible patent application based on the valuable insights obtained from a variety of simulation results. It is expected that the proposed method can accelerate a computational design in various domains, allowing us to quickly provide superior products meeting the market demands.

1. 緒言

 近年、計算機の性能向上により、製品や製造プロセスの設計に数値解析を用いることは一般的な手段となっている。設計段階において、詳細なモデルを用いた数値解析による性能評価を予め実施することで、製造・試作段階での手戻りを防ぐことができる。

 Figure 1に、数値解析を用いた一般的な設計の流れを示す。数値解析を用いた設計では、(1)3D-CADで設計形状を反映したモデルを作成し、(2)構造や熱、流体等を対象とした数値解析を実施し性能評価を行い、(3) 得られた評価・知見を元に、設計を修正して再度性能評価を実施する、というサイクルを回していく。

Fig. 1 A typical design process with numerical simulations.

 この従来の設計手法には、2点の課題が存在する。1点目は、長い計算時間がかかる点である。特に設計用CAE(Computer Aided Engineering)では計算資源の制約を受けることが多く、複数条件を検討する場合や計算負荷が高い場合には、利用できるCPUコア数が限られていると設計に要する時間が長くなる。2点目は、設計改善の試行錯誤に時間と工数がかかる点である。結果を評価して抽出した知見を設計に反映して解析する必要があるため、解析と知見抽出を逐次的に実施する必要があり、この逐次的プロセスの反復に長い時間を要する。特に新材料・新設計を扱う場合には、過去のノウハウを活かせず非効率となる。

 これらの問題点のうち、前者はクラウドコンピューティングの利用、後者は数理的最適化手法と代理モデル(サロゲートモデル)を用いたサロゲート最適化によって解消することが可能である。クラウドコンピューティングとは、インターネット上の計算資源を借りて演算処理を行うことを指す。クラウドコンピューティングでは、潤沢な計算資源を用いて、複数条件の解析を同時実行でき、究極的には1条件の解析と同一の計算時間で全ての計算を実施することが可能となる。特筆すべきはクラウドコンピューティングのコスト構造であり、計算リソースの規模(例:CPUコア数)と時間の積によってコストが決まるため、少ないリソースで長時間計算した場合と、大量のリソースを用いて短時間で処理した場合とでは、計算の並列化効率が同等であれば、同じコストで処理できることになり、後者の方が圧倒的な時間短縮のメリットを享受できる。Figure 2に、従来の計算手法とクラウドを活用した場合の比較を示す。なお、図中のブロックの面積は、計算の処理量を表す。

Fig. 2 A schematic illustration comparing design time between cloud computing and conventional computing.

 後者のサロゲート最適化とは、既知のデータセットから生成できる、設計変数と目的関数の関係性を記述する代理モデルを用いた最適化手法である。代理モデルは入出力のみの関係性を予測する軽量な計算モデルであるため、計算負荷を格段に下げることができ、逐次探索を伴う数理最適化手法を採用しても短い計算時間で最適化を完了することが可能となる。

 サロゲート最適化は、過去に様々な分野において実施されてきた。流体力学の分野では、Nestorらが、液体ロケット噴射装置の燃焼効率向上と壁面温度低減の多目的最適化において、3次元シミュレーションを多項式近似や応答曲面モデルによって軽量化し、遺伝的アルゴリズムによって最適化を実施した[1]。電磁気学の分野では、Couckyutらが、アンテナ設計において、シミュレーションと実測データの誤差をKrigingの応答曲面モデルとして落とし込み、期待改善アプローチ(Expected Improvement)を適用することで、実測データとシミュレーションの誤差を最小とする物性値の同定を実施した[2]。材料力学の分野では、Suらがバスのボディ設計において、ボディの最小化とねじり剛性の最大化を、応答曲面法と遺伝的アルゴリズムによって実施した[3]

 サロゲートモデルの元となるシミュレーションデータの生成は、多数のシミュレーションを実施することによってのみ得られる。このシミュレーションのデータ生成にクラウドコンピューティングのコスト構造を利用することで、全体の設計時間の短縮が可能であることに加え、計算結果の活用を最大化させることが可能である。

 本稿では、クラウドコンピューティングとサロゲート最適化を連携させることで、設計時間の劇的な短縮を実現する手法の詳細を説明し、LEDパッケージ基板の放熱設計を例にとり、その有効性について検証する。

2. 問題設定

 本手法を適用した設計事例として、LEDパッケージ基板の放熱設計問題を取り上げる。

2.1. LEDパッケージ基板の熱設計問題

 LEDの発光効率は一般に30%程度であり、残りのエネルギーは、熱として放出される。LEDからは赤外放射がほとんどないため、LEDパッケージ基板は、LED素子から放出される熱を熱伝導により効率良くヒートシンクに伝える構造が求められる。従って、光取出しと放熱の両性能要求を満たすパッケージ基板に素子を実装する。特に、高出力LED用のパッケージ基板には、母材として絶縁材料であるセラミクスが用いられ、内部に放熱および電気伝導を担う貴金属材料が使用される。

 LEDパッケージ基板の放熱性能を向上させるためには、パッケージ内部の熱伝導率の高い貴金属部の体積を増大させるのが効果的である。しかしながら、一般にLEDパッケージ内で使用される貴金属である銀は100,000 ¥/kg程度、セラミクスは、500 ¥/kg程度で流通しているため、貴金属部の使用量の増加は製造コストの増加を招く。ゆえに、LEDパッケージ基板の熱的性能と製造コストはおよそ相反する関係にある。本検討ではこの2つの指標を目的関数とし、設計最適化を図ることとした。

2.2. 解析ジオメトリと設計寸法

 解析用の3D-CADモデル作成および解析は、Simcenter STAR-CCM+® version 12.02.011(Siemens Digital Industries Software社製)を用いて実施した。

 解析対象のジオメトリをFig. 3に示す。LEDの直下には、銀で構成された導電部が存在し、導電部を囲むようにセラミクスが配置されている。LEDパッケージ基板下部には、ガラスエポキシ樹脂(FR4)を用いた絶縁層と、アルミニウムのヒートシンクを配置している。

Fig. 3 Analysis object geometry.

 Figure 4に、LEDパッケージ基板の断面図と設計変数を、Table. 1に設計変数の範囲を示す。本検討で解析対象とするLEDパッケージ基板は、3層で構成されており、内部に三次元の金属パターンを構成している。本稿では、各層の厚みを固定し、貴金属充填部の寸法(S1とS2)及び、層間の貴金属印刷部の寸法(T1とT2)を設計変数とした。

Fig. 4 Cross-section of LED package substrate and parameters to be optimized.
Table 1. Design variables.

2.3. 支配方程式と境界条件

 支配方程式は、発熱項を含む定常熱伝導方程式とした。LEDへの印加電力は1 Wを想定し、LED内部における総発熱量が0.7 Wとなるように発熱項を与えた。境界条件として、ヒートシンク下面には300 Kの温度固定境界を課した。その他の露出面は、300 Kの大気への熱伝達として、5 W/m2Kの対流熱伝達境界とした。

2.4. 目的関数と制約条件

 LEDパッケージ基板の放熱性能と製造コストを目的関数とした多目的最適化を実施する。放熱性能の指標として、パッケージが投入電力に対してどれだけ熱を拡散できるかを表す指標である、熱抵抗を用いる。熱抵抗は次式で表される。

 ここで、Rthは熱抵抗を、ΘLEDはLED部の体積平均温度、Θambientは外部雰囲気温度、Pinputは投入電力を表す。なお、製造コストの指標は、導電部の体積の値とした。

3.最適化手法

 本章では、今回実施した2種類の最適化手法について示す。

3.1. 直接最適化

 直接最適化では、80回の逐次計算によって最適化を実施した。設計探査プログラムとしてSimcenter HEEDS® (Siemens Digital Industries Software社製、以下HEEDS)を使用した。HEEDSは、非常に多くの計算ソフトウェアの結果ファイルを自動で読み込む機能(インターフェイス)を有しており、ワークフローの汎用性を担保することができる。計算資源としては、HPCに特化したクラウドサービスであるRescale ScaleX® Platform(Rescale社製、以下Rescale)を使用した。Rescaleを選定に至った理由は、プログラミング言語を用いて計算ファイルのアップロードやダウンロードを実施できる、API(Application Programming Interface)を備えているためである。最適化アルゴリズムは、HEEDS内で使用可能である、SHERPA[4]と呼ばれる遺伝的アルゴリズムをベースとする自律学習型最適化手法を用いた。

 Fig. 5に最適化の流れを示す。直接最適化は、以下の手順で実施される。

  • HEEDSが設計変数を含むSTAR-CCM+のマクロファイル(Javaファイル)を生成する。
  • クラウド上にJavaファイルがアップロードされる。
  • 予めクラウドストレージに格納されていたSTAR-CCM+計算モデルとともに計算機クラスタにアップロードされ、計算が開始される。
  • 計算が終了すると、計算機クラスタは自動で終了し計算結果ファイルのみがダウンロードされる。
  • 計算結果がダウンロードされたことで、HEEDSは計算が終了したことを認識し、その結果を学習して次の入力値を計算する。
  • (1)-(5)のループを80回実施する。
Fig. 5 Schematic view of direct optimization.

 Table 2に、解析実行に利用したクラウドコンピューティングの仮想サーバー環境の構成を示す。

Table 2. Computational environments.

3.2. サロゲート最適化

 サロゲート最適化では、逐次更新を伴う最適化計算の計算時間を軽減するために、計算負荷の軽い代理モデルを生成し、そのモデルに対して逐次最適化計算を実施する。代理モデルを生成するための学習データは、ラテン超方格法[5]によって算出された80のデザインを用いた。代理モデルの生成手法には、ガウス関数の線形結合によって任意の関数を表現する、Radial Basis Functionネットワーク[6]を用いた。代理モデルによる逐次最適化では、SHERPAを用いて5000回の多目的最適化計算を実施した。

 Figure 6にサロゲート最適化の流れを示す。サロゲート最適化は、以下の手順で実施される。

  • ラテン超方格によって計算すべき80デザインを算出し、クラウドで全て同時に計算する。
  • 計算結果から応答曲面モデルを生成する。
  • 応答曲面モデルを用いて、5000回の逐次最適化計算を実施する。

 なお、クラウド上での計算環境は、直接最適化と同一とした。

Fig. 6 Schematic view of surrogate optimization.
(RSM represents the response surface model)

4. 結果と考察

4.1. 計算時間の短縮効果

 前述の通り、本稿における解析では、直接最適化とサロゲート最適化の2種類の最適化を実施した。設計に用いる伝熱解析を1コアで実施した場合、1ケースあたり約4時間15分の時間を要した。一方、直接最適化では、18コアを用いた並列計算を行うことで80回の逐次計算に要する解析時間を342時間から19時間まで短縮することができた。

 また、サロゲート最適化では、代理モデルの元データ生成のために80件の解析を実施した。クラウドコンピューティングを用いて全ての計算を同時に実施したため、伝熱解析に要した時間は1回分の計算時間と同等であり、代理モデル作成は数秒、5000回の逐次最適化計算は、5分程度で完了し、設計最適化の全工程に要した時間は25分程度であった。

4.2. 直接最適化

 Figure 7に、直接最適化で評価されたデザインの熱抵抗値と製造コストを示す。なお、図中のデザインの熱抵抗値と製造コストは、現行デザインの性能値で規格化された値として示す。

Fig. 7 Direct optimization result.

 本稿の対象とする設計問題は、基本的には熱抵抗を下げると製造コストが上がるようなトレードオフの関係にある。多目的最適化問題において、ある目的関数を改善しようとすると、少なくとも他の一つの解が改悪されてしまうような解を非劣解と呼ぶ。非劣解の集合はパレートフロンティアと呼ばれ、実際の設計では、パレートフロンティアの中から、要求性能に合った解を選ぶことになる。

 本最適化では、22の非劣解からなるパレートフロンティアを得ることができた(Fig. 7)。パレートフロンティアには、熱抵抗値が0.92から1.50、製造コストが0.57から1.25に及ぶ多様な解が出現しており、SHERPAの多目的最適化アルゴリズムとしての優秀さを示している。

 現行デザインとパレートフロンティアの位置を比較すると、現行デザインはすでにパレートフロンティアに近い場所に位置しており、ここからコストを抑えつつ、熱的性能を向上させるのは難しいことが分かる。

 非劣解同士の距離は、パレートフロンティアの存在範囲と比較して大きい様子が伺える。従って、より詳細な設計把握を行うにあたっては、探索回数を増加させる必要がある。

4.3. サロゲート最適化

4.3.1. 計算結果

 Figure 8に、サロゲート最適化で評価したデザインの熱抵抗値と製造コストを直接最適化のパレートフロンティアとともに示す。サロゲート最適化では、272の非劣解から構成されるパレートフロンティアを捕捉することができ、より詳細にパレートフロンティアを把握できている様子が伺える。

Fig. 8 Comparison between surrogate optimization result and direct optimization pareto solutions.

 加えて、サロゲート最適化では、直接最適化と比較してパレートフロンティアが前進し、より良い解が発見されているが、その要因は、逐次最適化回数を多く確保できたためだと考察する。一般に、応答曲面モデルを元にした計算は、サンプリング点の内挿として理解されることが多いが、このサロゲートモデルとSHERPAを用いた最適化手法を利用することは、単なる内挿に留まらず、5000回という十分な探索回数を実現可能とし、より前進したパレートフロンティアを創出する新規の設計手法であることを強調したい。

 なお、サロゲートモデルの構築に用いた教師データとは異なる50件のテストデータセットを用いて、サロゲートモデルの予測精度検証を実施したところ、熱抵抗値の予測精度は決定係数0.9752、製造コストの予測精度は決定係数0.9993となり、非常に高い精度を有することを確認している。

4.3.2. データマイニング:自己組織化マップを活用した設計選択と知見抽出

 サロゲート最適化により272もの非劣解を得ることができた。十分な個体数を持つ最適解群を得たことから、優れた設計案に共通する潜在要因を効率的に把握するために、自己組織化マップ[7]を活用した解の分類・分析を実施した。

 自己組織化マップとは、教師なし学習のニューラルネットの1つであり、類似のデザインを同一の集団として分類すると同時に、各集団でより類似した集団同士が近くに、類似していない集団同士は遠くに配置されるようにして、多次元データを2次元にマッピングする可視化技術である。

 パレートフロンティアに含まれる非劣解を対象に、自己組織化マップによって設計を分類した結果をFig. 9に示す。なお、自己組織化マップは、HEEDSのポスト処理として実装されているものを用いた。左側のマップは、パレートフロンティアを8つの集団(設計コンセプト)に分類した様子を表している。1つの設計コンセプトを表す六角形の内部に描画された四分円は、4つの設計変数とその大きさを示しており、色の濃い部分が設計変数の存在範囲に対応する。右上および右下のマップは、それぞれのクラスタの熱抵抗値および製造コストを表している。

Fig. 9 Self-organization map in terms of design parameters.

 例えば、熱抵抗値が低いデザインは、マップの右上(3, 6, 8)に位置するデザインであり、全て設計変数S1、S2およびT2が大きい一方で、必ずしもT1が高い必要はないことが分かる。これは、T2はLED直下にある印刷部であるため、熱的性能への寄与が大きいが、T1は熱が充填部に拡散したあとの経路であるため、S2の体積が大きい限り、T1はさほど問題にならないためだと考えられる。

 Figure 10に、自己組織化マップによって分類されたそれぞれの集団が、パレートフロンティア上に占める位置を示す。なお、凡例は、Fig. 9の図中右側の分類の数字と対応している。

Fig. 10 Pareto frontier categorized by self-organization map.

 本分析手法を用いると、要求を満たす設計がどのようなものかを瞬時に把握し、提案することが可能となる。例えば、現行デザインに対し熱的性能の5%の改善を実現するには、20%程度のコスト上昇が不可避であり、自己組織化マップの集団3に分類される設計解でしか達成できない、ということが分析結果から即座に読み取れる。また、要求仕様値から事業において重要となる設計コンセプトを特定し知財化することも可能となる。

5. 結言

 本研究では、クラウドとサロゲート最適化を組み合わせ、大量のデザインの解析と知見抽出を実施可能な次世代の設計手法の開発を行った。本設計方法の適用事例として取りあげたLEDパッケージ基板の熱的性能とコストの設計最適化では、クラウドと設計探査ツールを組み合わせて、直接最適化とサロゲート最適化の2種類の最適化を実施した。スタンドアローンのPCでの解析と比較して、前者は1/18、後者は1/820もの解析時間短縮効果があることが示された。

 80回のサイクルを繰り返した直接最適化では、熱的性能と製造コストのトレードオフを表す22個の非劣解を見出すことができた。一方、80件のデータを元にした5000回のサロゲート最適化では、直接最適化と比較して、より詳細かつ優れたパレートフロンティアを捕捉することができた。パレートフロンティアの性能向上の理由として、サロゲート最適化は最適化回数を多く確保できるため、探索アルゴリズムにより、より適した解が見つかることが挙げられる。本研究により、より高精度な設計案を得ることが期待できることが示された。

 さらに、詳細に捕捉されたパレートフロンティアに、自己組織化マップを適用することで、解空間のデータマイニングを行った。自己組織化マップを活用することで、要求仕様に対する最適設計提案や、製品の知財化をより容易に実施することが可能となる。

 なお、本設計手法は、線形性が強くサロゲートモデルを構築し易い場合にはサロゲート最適化を、非線形性が強くサロゲートモデルの精度が担保できない場合には直接最適化を使用することができるため、分野や現象の複雑さによって使い分けることが可能である。今後、様々な設計分野で本手法を活用することで、計算・最適化・データ分析の全てが高速化・高度化され、市場が要求する優れた製品を素早く提案できるようになると期待できる。

参考文献

  1. Nestor V. Queipo, et al. "Surrogate-based analysis and optimization". Progress in Aerospace Sciences 41. 1(2005): 1-28.
  2. Couckuyt, I. et al. "Surrogate-based infill optimization applied to electromagnetic problems". International Journal of RF and Microwave Computer-Aided Engineering 20. 5(2010): 492-501.
  3. Su , Z. et al. "Multi-objective optimization for bus body with strength and rollover safety constraints based on surrogate models". Structural and Multidisciplinary Optimization 44. 3(2011): 431-441.
  4. Siemens社ホームページ: SHERPA – An Efficient and Robust Optimization/Search Algorithm http://www.redcedartech.com/pdfs/SHERPA.pdf(consulted on 23 April 2021)
  5. Mckay, M. et al. "A Comparison of Three Methods for Selecting Vales of Input Variables in the Analysis of Output From a Computer Code". Technometrics 21.(1979): 239-245.
  6. Tomaso Poggio, et al. "A Theory of Networks for Approximation and Learning". Laboratory, Massachusetts Institute of Technology 1140.(1989).
  7. Kohonen, T. "Self-organized formation of topologically correct feature maps." Biological Cybernetics 43(2004): 59-69.