AGC Research Report 74(2024)
環状モノマーから構成される高酸素透過性アイオノマー:合成・物性・固体高分子形燃料電池用カソードへの適用
High Oxygen Permeability Ionomer Composed of Cyclic Monomers: Synthesis, Properties,and Application to Polymer Electrolyte Fuel Cell Cathodes
平居丈嗣*・本村了*・渡壁淳*・中山優*・宮嶋達也**・田本加代子***・内田誠***
Takeshi Hirai, Satoru Hommura, Atsushi Watakabe, Suguru Nakayama,Tatsuya Miyajima, Kayoko Tamoto, and Makoto Uchida
*AGC株式会社 材料融合研究所( takeshi.hirai@agc.com, satoru.honmura@agc.com, atsushi.watakabe@agc.com, suguru.nakayama@agc.com)
**AGC株式会社 先端基盤研究所(tatsuya.miyajima@agc.com)
***山梨大学 水素・燃料電池ナノ材料研究センター(ktamoto@yamanashi.ac.jp, uchidam@yamanashi.ac.jp)
固体高分子形燃料電池(PEFC)の高性能化に向けてカソード用アイオノマーの高性能化が必要とされており、酸素還元反応の律速過程を軽減する高酸素透過性アイオノマー(HOPI)に注目が集まっている。我々はフルオロスルホニル基を有する環状モノマー(SMD-E4)の新規合成法を開発し、一次構造が全て環状モノマーから成る新規アイオノマーを合成した。基礎物性の評価から、このアイオノマーが電解質の基本性能を維持しつつHOPIとして望まれる性能を示すことが示された。HOPIをカソードに適用した膜電極接合体(MEA)の発電性能を詳細に調査した結果、特に低湿度や高電流密度での性能向上を確認した。また、過電圧分離解析から触媒活性向上に起因する活性化過電圧低減と、酸素透過性向上に起因する濃度過電圧低減も明らかとした。これは、触媒層中の細孔容量を高く保つHOPIの特性がもたらすPt触媒とアイオノマーとの特異吸着の有効な回避、およびアイオノマー自身の酸素透過性向上に加え、触媒層中の細孔容量の確保に因るKnudsen拡散向上に起因する。また高性能膜と組み合わせた発電評価から、HOPIをカソードに用いたMEAが高性能かつ湿度に対する性能変動の小さい優れた特性を示すことを見出した。これらの結果から、HOPIは次世代PEFCに必要な低加湿・高出力密度といった厳しい条件下でその性能を十分に発揮し、PEFCの高性能化実現に重要な働きを示すことが明らかとなった。
To enhance polymer electrolyte fuel cell (PEFC) performance, cathode ionomer performance must be improved by developing high oxygen‐permeability ionomers(HOPIs)to mitigate the oxygen reduction reaction rate-limiting process of oxygen transport. We have developed a synthetic route for a cyclic monomer with a fluorosulfonyl group and synthesized an ionomer composed entirely of the cyclic monomers. Preliminary investigations have proven that the expected HOPI performance was achieved while maintaining basic electrolyte performance. The evaluation of the membrane electrode assembly in the fuel cell, with the HOPI as a cathode ionomer, showed confirmed improvements, particularly under low humidity and high current density conditions. The results of overvoltage component analysis showed a decrease in activation overvoltage and concentration overvoltage because of improved catalytic activity and enhanced oxygen permeability, respectively. These were attributed to the abilities of HOPI, including the prevention of specific adsorption between Pt catalysts and ionomers, improved oxygen transport due to high ionomer permeability, and increased Knudsen diffusion resulting from pore volume preservation in the catalyst layer. Cell evaluations combined with a high-performance membrane have shown that an MEA using the HOPI as a cathode ionomer exhibited enhanced performance and high robustness against humidity variations. Based on these results, the HOPI can fully demonstrate its performance under the harsh operating conditions of next-generation PEFCs, such as low humidity and high current density, indicating its crucial role in realizing high-performance PEFCs.
1. 緒言
固体高分子形燃料電池(PEFC)は水素および空気中の酸素から電気化学的に電気を生み出す発電機であり、CO2フリー水素の活用による持続可能なエネルギーシステム構築に向けたキーデバイスとして期待されている。PEFCは定地利用におけるコジェネレーションシステムやモビリティ用動力源での活用、オフグリッドにおける発電手段等としての活用が検討されている。一方、CO2排出量抑制の観点では、その寄与率が高い運輸部門での脱炭素化が必須である。特にトラックをはじめとするHeavy Duty Vehicle(HDV)や航空分野における寄与率が高いが、これらの用途は高負荷・高出力・連続使用時間が長い等の特徴があり、リチウムイオン電池をはじめとする既存の二次電池の活用は困難と想定されているため、PEFCの適用に対する期待が大きい。
PEFCの高性能化は触媒・電解質膜・アイオノマーといった構成部材の性能に寄与するところが大きい。HDVのように高出力が求められる用途では、電解質膜のプロトン輸送抵抗を可能な限り低減することに加え、触媒活性を高めること、および触媒周辺の物質輸送性を高めることにより、高活性・高出力なPEFCを実現することが重要となる。触媒活性および物質輸送性の向上は触媒および触媒担体の設計により実現可能と考えられており、精力的な研究開発が進められている。一方、これらの性能向上は触媒を被覆し膜から伝導してきたプロトンを触媒の反応中心へと供給する役割を有する、アイオノマーの高性能化によっても実現可能なことが先行研究により示されてきた。例えば、Peronらは高イオン交換容量(IEC=1.3, 1.4, 1.5 meq.g-1)の短側鎖アイオノマーをカソードへ適用することで、高電流密度での発電性能が向上することを報告している(1)。またParkらは短側鎖アイオノマーの適用により、質量活性(mass activity, MA)が向上することを報告している(2)。一方、高電流密度条件では酸素輸送性が律速になることから、高酸素透過性アイオノマー(HOPI)の適用が顕著な高性能を示すことが報告されている。Yamadaらはアイオノマーの密度を下げる分子設計で酸素溶解性および透過性を約2倍に高めることが可能であり、HOPIのカソードへの適用により酸素還元電流の増大による触媒活性向上が見られ、I-V(電流-電圧)性能が向上することを報告した。また発電性能を維持する観点ではPtの使用量低減が可能になるとのコンセプトを提示した(3, 4)。Shimizuらは、HOPIの適用により発電性能の向上と共に、IECにより触媒層の酸素拡散性および触媒の耐久性が変動することを示し、HOPIを適用した触媒層設計の指針を示した(5)。最近の研究ではアイオノマーの酸素透過性を高める具体的なモノマー例が複数提案されており、2,2,4-trifluoro-5-trifluoromethoxy-1,3-dioxole(MDO)(6)、perfluoro(2-methylene-4-methyl-1,3-dioxolane)(PFMMD)(7)、perfluoro-(2,2-dimethyl-1,3-dioxole) (PDD)(8-11)のように、ポリマーの主鎖に環構造を導入できるモノマーとの共重合によりアイオノマーの酸素透過性が向上し、発電性能の向上に有効なことが示されている。これは、環構造が主鎖周辺に立体障害を生じるため、Nafionで見られる主鎖のパッキングによる結晶化を阻害すること、およびポリマー密度の低下により自由体積が増加することにより、酸素溶解性/透過性が高まるためと考えられている(12, 13)。
一方、HOPIの分子設計の観点では、文献上で示されてきた具体的なスルホン酸モノマーの構造は、perfluoro-3,6-dioxa-4-methyl-7-octene sulfonyl fluoride (PSVE)と1,1,2,2-tetrafluoro-2-(1,2,2-trifluoroethenoxy)ethanesulfonyl fluoride (C2-PSVE)の2例に代表される直鎖型のスルホン酸モノマーしか例が無く(6-11)、スルホン酸モノマーの更なる改良によるHOPIの物性、およびカソード適用時のPEFC性能に関する知見は十分でなかった。そこで我々は、スルホン酸モノマー自体に環構造を導入した際の知見を得るべく、環構造を有するスルホン酸モノマー、および疎水性環状モノマーとの共重合による全環型アイオノマーを合成し、物性と性能評価および各種解析を通じてその性能向上メカニズムを検討した (14)。
2. 実験方法
2.1. 使用材料
2-[difluoro(trifluorooxiranyl)methoxy]-1,1,2,2-tetrafluoroethanesulfonyl fluoride(1)、2-(difluoromethylene)-4,4,5-trifluoro-5-(trifluoromethyl)-1,3-dioxolane(MMD)、hexafluoropropylene oxide(HFPO)、 アサヒクリンAC-2000/AE-3000、IQ100B アイオノマーはAGC社から供給された。Diisopropyl peroxydicarbonate(日油社製 パーロイルIPP)、白金担持カーボンブラック触媒(Pt/CB、田中貴金属工業社製 TEC10E50E、Pt担持量 = 47%)、プロトン交換膜(Chemours社製 NafionNR211)、アイオノマー分散液(Chemours社製 NafionD520CS, D521CS)、ガス拡散層(GDL、Freudenberg Performance Materials社製 H23C10)は購入可能なグレードの品を用い、購入形態のまま用いた。その他の試薬は純正化学社より購入+し、特級グレードのものを用いた。
2.2. SMD-E4モノマーの合成
公知の物質である2-[difluoro(trifluorooxiranyl)methoxy]-1,1,2,2-tetrafluoroethanesulfonyl fluoride(1)に、1.1当量のN,N-dimethyl formamide (DMF)を反応させて、2,4-bis{difluoro[1,1,2,2-tetrafluoro-2-(fluorosulfonyl)ethoxy]methyl}-4-fluoro-5-oxo-1,3-dioxolane-2-carbonyl fluoride(2)を収率86%で得た(Fig. 1)。2に触媒量のフッ化セシウムの存在下、1.24当量のHFPOを反応させた後蒸留し、2-{difluoro[2,3,3,5-tetrafluoro-6-oxo-5-(trifluoromethyl)-1,4-dioxan-2-yl]methoxy}-1,1,2,2-tetrafluoroethanesulfonyl fluoride(3)を収率62%で得た。次に、3に触媒量のフッ化セシウムの存在下で加熱し異性化させたのち、蒸留することで4-{difluoro[1,1,2,2-tetrafluoro-2-(fluorosulfonyl)ethoxy]methyl}-4,5,5-trifluoro-2-(trifluoromethyl)-1,3-dioxolane-2-carbonyl fluoride(4)を収率72%で得た。最後に4をガラスビーズ存在下で熱分解させたのち、蒸留精製することで、純度99.1%のSMD-E4モノマーを収率41%で得た。

2.3. MMD-co-SMD-E4アイオノマーの合成
重合開始剤としてパーロイルIPP、溶媒としてアサヒクリンAC-2000を用い、SMD-E4とMMDの両モノマーを40 ℃で21時間反応させた(Fig. 1)。AC-2000/AE-3000/methanolの混合溶媒に反応液を注いでポリマーを析出させ、同溶媒を用いて再沈殿を2度繰り返した。ポリマーを150 ℃で真空乾燥させ、MMD-co-SMD-E4共重合体(アイオノマー前駆体)を収率87%で得た。次に、共重合体を260 ℃/4 MPaでホットプレスして厚み100 μmの膜を得た。膜をアルカリ溶液(水酸化カリウム/ジメチルスルホキシド/水 = 15/30/55 mass%)に80 ℃で88 時間浸漬したのち、3mol L-1の塩酸に繰り返し浸漬した(50 ℃/30分 × 5回)。超純水で繰り返し洗浄して残存する酸分を除去したのち窒素気流下で乾燥し、MMD-co-SMD-E4アイオノマーの膜を得た(以後、本共重合体からなるアイオノマーをMMD/SMD-E4と表記する)。
2.4. アイオノマー膜の物性測定
プロトン伝導率は4端子法を用いた交流インピーダンス法により、LCRメーター(キーサイト・テクノロジー社製 E4980AL) で周波数 = 20-300 kHz、印加電圧 = 1 Vの条件におけるインピーダンスを求め、Cole-Cole plotの実軸交点から膜抵抗を得て、膜の断面積から伝導率へ変換することにより求めた。含水率とλ(SO3H基当たりのH2O吸着物質量)は、膜を予め120 ℃で12時間真空脱気した後、水蒸気吸着量測定装置 (マイクロトラック・ベル社製 Belsorp18-HT)により80 ℃における水蒸気吸着量を求め、含水率はアイオノマーの単位乾燥重量当たりの、λは単位スルホン酸物質量当たりの値に換算して求めた。酸素透過係数はガス/水蒸気透過量測定装置 (GTRテック社製 GTR-100XFAG2) を用いて各温度・湿度における酸素ガス透過量を求め、膜の断面積および厚さから透過係数に換算して求めた。貯蔵弾性率および損失正接(tanδ)は動的粘弾性測定装置 (アイティー計測制御社製 DVA-225) を用い、周波数 = 1 Hz、昇温速度= 2 ℃ min-1の条件で測定して得た。ポリマーの高次構造の情報は小角X線散乱測定(SAXS)により得た。装置はRIGAKU社製NANO-PIXを用い、線源にはCu-Kαを、検出器はHipix6000とした。SAXS測定時には温度30 ℃、相対湿度50%の制御下で30分以上保持した後に測定に供した。得られた散乱イメージを1次元プロファイルに変換し、透過率補正、空セル補正、試料厚み補正を実施した。
2.5. アイオノマー分散液の調製
ガラス製のオートクレーブにMMD/SMD-E4と1-プロパノール、超純水を仕込み、100 ℃で5時間加熱撹拌することでアイオノマーを分散させた。冷却後、ろ紙(アドバンテック東洋社製 PF040)で濾過して分散液を得た。溶媒の組成はガスクロマトグラフィーによる絶対検量線法より定量した。固形分濃度は赤外線水分計(ケット科学研究所社製 FD-620)を用いて160 ℃で40分乾燥後の残渣重量から算出した。イオン交換容量(IEC)は濃度既知の分散液を0.05 mol L-1の水酸化ナトリウム水溶液でpH = 5を終点として滴定し、アイオノマーの乾燥重量当たりのスルホン酸量を定量することで得た。
2.6. 膜電極接合体(MEA)の作製
Pt/CB、エタノール、超純水を遊星ボールミルで遠心加速度 = 6.7 m s-2の条件で30分分散させた後、アイオノマー溶液を加えて更に180分分散させて触媒インクを調製した。カーボン担体に対するアイオノマーの重量比(I/C)は0.6から1.0の間で調整した。触媒インク中の固形分濃度はアノードで6.7 mass%、カソードで4.2 mass%とし、エタノール/水/1-プロパノールの溶媒組成はアノードで43.0/38.5/18.5 mass%、カソードで48.0/37.5/14.5 mass%とした。パルススワールスプレー装置(PSS、Nordson社製)を用いて電解質膜の両面にアノードおよびカソード用の触媒インクを塗布し、触媒層付き電解質膜(CCM)を成形した。塗布面積は42.25 cm2、Pt担持量はアノードで0.5 ± 0.01 mg cm-2、カソードで0.2 ± 0.01 mg cm-2とした。CCMは140 ℃/2 MPaで2分間ホットプレスすることでアニーリングを施した。25 cm2の開口部(すなわち電極面積)を設けた複数枚のポリエチレンナフタレート製およびポリエーテルスルホン製のサブガスケットでCCMを挟み込み、130 ℃/1.5 MPaで2分間ホットプレスすることで複合化し、サブガスケット付きCCMの開口部をマイクロポーラス層(MPL)付きGDLで挟み込むことで、MEAを作製した。
2.7. 燃料電池評価および電気化学的評価
燃料電池評価は、シングルサーペンタイン流路を有するセパレータでMEAを挟み込むAGC社製オリジナルセルにより、燃料電池評価システム(東陽テクニカ社製 AutoPEM)を用いて行った。セルの締結圧は感圧紙を用い、0.8-1.2 MPaとなるよう調節した。評価に先立ち、80 ℃/100% RH条件で0.7 A cm-2の一定電流密度で14時間発電することでコンディショニング(慣らし運転) を行った。発電評価は80 ℃、20/30/40/60/80/100% RHの温湿度条件下、アノードに水素ガス(利用率 = 70%)、カソードに空気または酸素ガス(利用率 = 50/11%)を流して背圧 = 150kPa(絶対圧)にて実施し、各電流密度で6分間保持した際の安定した電圧値を取得した。各湿度条件での評価前に、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)およびサイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。LSVはアノードに水素ガス (0.05 Nl min-1)を、カソードに窒素ガス(0.21 Nl min-1)を流通させ、電位を0.05 Vから0.5 Vへ、0.5 mV s-1の速度で掃引させて取得した。CVはLSVと同じガス条件でセットアップした後、測定の安定化を目的として測定直前にカソードへの窒素ガス供給を停止して測定した(15)。0.05-0.95 Vの電位範囲を0.05 V s-1の速度で掃引し、5サイクル目の波形を取得した。電気化学的表面積(ECSA)は、CVで得られた水素吸着電気量QHより求めた。LSVから求めたリーク電流を加味した非ファラデー領域をベースラインとし、水素吸着領域と水素発生領域の間の変曲点から引いた垂直線とCV波形とで囲まれた領域を積分してQHを算出し、Ptの単位表面積あたりの水素吸着電気量を210 μC cm-2と仮定してECSAへ換算した。
過電圧分離はNEDO PEFCセル評価解析プロトコルを参照して行った(16)。H2とO2を燃料とした燃料電池反応の平衡電位は、式(1)から算出した(17)。

ここで、R, pH2, pO2, T, F はそれぞれ、ガス定数、加湿ガス中の水素および酸素分圧、絶対温度、ファラデー定数であり、参照圧力および
はそれぞれ101.3 kPaを用いた。横軸を電流密度の常用対数、縦軸をIRフリー電圧としたTafelプロットを作製し、プロット上の0.01, 0.02, 0.03 A cm-2の3点を通る回帰式を求めた。過電圧分離の解析点の電流密度値を上記回帰式に代入し、得られた電圧と式(1)で求めた平衡電位との差を活性化過電圧(ηact)として求めた。次に解析点の電流密度と内部抵抗値(Ω cm2)の積を抵抗過電圧(ηohmic)として算出した。最後に解析点における前述のTafel回帰式とIRフリー電圧値との差分を濃度過電圧(ηconc)として求めた。平衡電位とセルのI-V測定における電圧値(Vcell)、各過電圧の値は式(2)の関係となる。

触媒層におけるプロトン輸送抵抗は電気化学的インピーダンス分光法(EIS)により行った(16)。アノードに水素ガス(0.05 Nl min-1)、カソードに窒素ガス(0.21 Nl min-1)を流通させ、80 ℃常圧下で測定した。交流振幅は10 mV、バイアス電圧は0.45 Vとし、20kHzから0.2 Hzへ周波数を掃引してインピーダンスを取得した。インピーダンスの実数成分(Z')と、配線およびセルに由来するインダクタンス成分を補正して得た虚数成分(Z'')とをプロットし、高周波領域における直線部分を外挿した直線(約45°線)と実軸との交点を電解質膜のプロトン輸送抵抗(Rpem)として求めた。次に前述の外挿線と低周波数領域に見られる直線との交点とを求め、この交点の実数成分とRpemとの差分がRCL,H+/3(RCL,H+: 触媒層のプロトン輸送抵抗)になるとしてRCL,H+を算出した。
限界電流密度(ilim)の測定は、再現性向上の為Wangらによる改良法で測定した(18)。電圧を0.3 Vから0.06 Vにかけて-0.03 Vずつ段階的に下げ、5分間保持後の還元電流の安定値を取得した。水素または過酸化水素発生電流との区別の為、酸素還元反応(ORR)の限界電流は還元電流の変化量が減少から増加に転じた変曲点の値として測定し、電流量を電極面積(1.21cm2)で補正することでilimに変換した。アノードに水素ガス(0.5 Nl min-1)を、カソードに希釈酸素ガス(O2/N2 or He = 0.5/99.5%, 1.0 Nl min-1)を流通させ、50/65/80 ℃、30% RH、背圧150 kPaの条件でilimを取得した。ilimは式(3)を用いて酸素輸送抵抗へ変換した。

ここで、R totalは式(4)に示す通り、各酸素輸送抵抗を合計した全酸素輸送抵抗であり、CO2,GCはMEAに供給されるガス中の酸素濃度、F はファラデー定数である。CO2,GCは全てのガスが理想気体であり、酸素はORRにより消費され、発電により生じた水は気化すると仮定した時の、MEAへの導入ガスと排出ガスの平均値として算出した。

式(4)中、RDMはGDLやMPLでの拡散など、大きな孔径で支配的な分子拡散に由来する酸素輸送抵抗であり、Rotherは分子拡散以外の要因に基づく酸素輸送抵抗の合計である。Rotherはさらに、触媒層内の微細孔で支配的なKnudsen拡散に由来する酸素輸送抵抗(RCL,gas)と、アイオノマー中の透過に由来する酸素輸送抵抗(RCL,ion)とに分けられる。RDMとRotherの分離は、希釈酸素ガスのバランスガスをN2からHeに変えた条件でRtotalを測定し、分子拡散に対する酸素拡散係数の差から両抵抗を分離する方法を用いた (19)。酸素拡散係数は、Fuller-Schettler-Giddings式を用いてN2、He、H2Oに対するO2の2成分系の拡散係数を求め、Wilke式により多成分ガスである加湿希釈酸素ガス中の酸素拡散係数DO2:N2_H2OおよびDO2:He_H2Oを得た(20)。RCL,gasとRCL,ionの分離は両者の温度依存性差を利用して行った。Knudsen拡散支配下の酸素透過係数はT 0.5に比例する。一方アイオノマー中の酸素透過係数の温度依存性はバルク膜のデータを取得して用いた(式(5)、(6))。両者の温度依存性の差から、80/65/50 ℃における実測Rother値に対して最小二乗法でフィッティングしてRCL, gasとRCL, ionを決定した。


2.8. CCMの物理的特性評価
Pt/CBの細孔状態を評価するために、ガス吸着測定装置(Anton Paar社製 Autosorb-iQ-MPXR)を用いて77 Kにおける窒素吸着測定を行った。CCMサンプルを予め80 ℃で24時間真空脱気した後、P/P0 = 10-7~0.95(P : 測定圧力、P0: 飽和圧力)の範囲で測定を行った。比表面積はBrunauer-Emmett-Teller(BET)法にて、細孔容量分布はquenched soliddensity functional theory(QSDFT) 法にて解析して得た。ヒステリシス容量はP/P0 = 0.5における等温線の脱着容量と吸着容量との差分から算出した。触媒層の重量は、CCMの重量から同面積の膜の重量を差し引くことで得た。
触媒層の水蒸気吸着量は水蒸気吸着量測定装置 (マイクロトラック・ベル社製 Belsorp18-HT) により測定した。CCMサンプルを予め120 ℃/12時間の真空脱気させた後、P/P0 = 3.0 × 10-4~0.95の圧力範囲で353 Kにおける水蒸気吸着等温線を測定した。CCMの等温線から別途測定した電解質膜の等温線を引き去ることで、触媒層に由来する等温線を得た。
触媒層の形態観察は、極低加速電圧走査電子顕微鏡(ULV-SEM、日立ハイテク社製 SU9000)を用い、先行文献(21)に記載の手法により行った。CCMから触媒層を剥がし取った後、観察用の銅製グリッドへ載せた。リターディング法による二次電子像を加速電圧Va =1.8 kV、リターディング電圧 Vd = 1.5 kV(着地電圧 Vl = Va - Vd = 0.3 kV)の条件で取得した。
3. 結果と考察
3.1. 分子設計とアイオノマーの合成
今回我々は、環構造を有するスルホン酸モノマーをアイオノマーに導入し、主鎖を構成する全てのモノマーを環構造とすることにより高い酸素透過性を発現することを期待した。環構造を有するスルホン酸モノマーとしてSMD-E4が知られており、電解質膜用アイオノマーへ適用した報告例がある(4, 22)。今回、スルホン酸モノマーとしてSMD-E4を用い、またアイオノマーの疎水部を形成するモノマーとして同様の環構造を有するMMDを採用した。2-(difluoromethylene)-1,3-dioxolane (MD) 構造を有するアイオノマーは高酸素透過性を示すことが知られており(23)、構成モノマーを全てMD骨格とすることで高い酸素透過性が期待できる。
SMD-E4はSO2F基を有する炭化水素構造を直接フッ素化法により全フッ素化する方法で合成することができる(24, 25)。直接フッ素化法は汎用性が高く、多様な構造のモノマーを低コストで製造可能であるが、反応性が極めて高く取扱いが危険なF2ガスを安全に取り扱う技術と設備が必要となる。今回我々はF2ガスを使用しない簡便なSMD-E4合成ルートを開発し、公知物質である2-[difluoro(trifluorooxiranyl)methoxy]-1,1,2,2-tetrafluoroethanesulfonyl fluoride(1)を原料に、市販試薬を用いて4つの反応数で合成できた(Fig. 1)。
アイオノマーの前駆体ポリマーはSMD-E4とMMDをラジカル共重合して得た。MD骨格を有するモノマーは通常のオレフィンのラジカル重合と同様に、2重結合部位が直線状に連結する構造でポリマーを形成する(26)。一方、PSVEのような非環状ビニルエーテルに比べて重合性が高く、単独重合も可能である。すなわちSMD-E4は「単独重合性を有するスルホン酸モノマー」という点で特異なモノマーであり、高IEC化と高重合度の両立が困難なPSVEやC2-PSVEからなるポリマーとは異なり、任意のIECで高重合度のポリマーを得ることができる。またMMDとSMD-E4の共重合は両者の共重合反応性比が同一のため、重合系に仕込んだ両者のモル比率は重合初期から終期まで変わることがなく、任意の転化率における生成ポリマーの共重合比は仕込みの組成と同一となる。この特性によりMMD-co-SMD-E4は一次構造の制御が容易かつ組成分布が均一となる特徴がある。前駆体ポリマーはアルカリによる加水分解とイオン交換処理を経て、SO3H基を有するMMD/SMD-E4アイオノマーへ変換した。
MMD/SMD-E4は水および1-プロパノール中で加温撹拌することで分散液が得られる。後述の電池評価を行うにあたり、IEC・分散液および触媒インク中のアイオノマー濃度・溶媒組成・触媒層成形プロセス等の差は電池性能へ与える影響が大きいことが知られている(2, 27-30)。そのため、アイオノマー一次構造の影響を可能な限り正確に評価するべく、一次構造以外のパラメータは全て同一となるよう工夫した。すなわち、MMD/SMD-E4の比較対象には同IECのNafionD520CSを用い、D520CSと同一固形分濃度・同一溶媒組成となるようにMMD/SMD-E4分散液の組成を調節した。両アイオノマー分散液のIECおよび組成はTable 1.に示した通りである。

3.2. 電解質特性
アイオノマーを触媒層のバインダーに用いた場合、アイオノマーは触媒上で数nmオーダーの薄膜状で存在する。薄膜とバルク膜では分子鎖の配向状態の差により各種物性が異なることが知られており(31)、本研究のように触媒層用アイオノマーの用途では薄膜状態のアイオノマー物性を理解することが重要となる。しかし実際のMEAにおける触媒層中のアイオノマーの膜厚分布は理想的な系とは異なり一定では無い。また薄膜状アイオノマーの物性測定はバルク膜に比べて難易度が高く誤差も生じやすい。その為、まずはバルク膜としてのアイオノマー特性を理解することを目的として各種物性評価を行った。
アイオノマーの含水率は両者で若干の差異を生じたものの、λはほぼ同一であることから、含水率差はIECの微差に由来するものと考えられる(Fig. 2(a),(b))。すなわちMMD/SMD-E4のように一次構造が大きく変化しても、スルホン酸基周辺の含水挙動は変化しないことが明らかとなった。λの影響が大きいプロトン伝導率に関しても両者の差は小さい(Fig. 2(c))。Katzenbergらの先行研究(7)では、MMD/PSVEアイオノマー薄膜(100-700 nm)は低い伝導率を示すことが報告されており、その原因をMD骨格に由来するglassy matrixの導入による伝導パス形成阻害としているが、MMD/SMD-E4ではそのような傾向は観測されなかった。組成が異なるため明確な判断はできないが、少なくとも我々の結果のように十分にバルクと見なせる厚みでは、glassy matrixによる伝導率低下は無視できるものと考えられる。
アイオノマーのSAXSプロファイルをFig. 2(d)に示す。Nafionはq = 0.4 nm-1付近に結晶間ドメイン間隔由来のピークが、q = 1.9 nm-1付近にイオンクラスターのドメイン間隔に由来のピークがそれぞれ認められる。一方、MMD/SMD-E4はq = 1 nm-1以下にピークが検出されないことから非晶性であると判断される。イオンクラスターのドメイン間隔(d)はNafionで3.35 nm、MMD/SMD-E4で3.62 nmとなり、後者のドメイン間距離が大きい。これは嵩高い分子構造によりスルホン酸基が会合し難くなる為と考えられる。
動的粘弾性測定から、MMD/SMD-E4が高い弾性率と軟化温度を有することが分かる(Fig. 2(e))。前駆体ポリマーの状態から既に軟化温度が高温化していることから、軟化温度の上昇は環構造の導入により主鎖近傍が嵩高くなり、主鎖の運動性が制限されることに起因すると考えられる。Nafionでは70 ℃付近から貯蔵弾性率の低下が始まるのに対し、MMD/SMD-E4は150 ℃付近までガラス状態を保ち、軟化開始点はtan δのピーク温度基準で約80 ℃高温化している。つまり、一般的なPEFCの作動温度ではMMD/SMD-E4はより軟化し難く高い弾性率を維持する。燃料電池MEAはセルスタックの締結圧に因る圧縮応力に晒されており、構成部材には変形への耐性が望まれる。将来的に燃料電池の高温作動が求められた際に、触媒層の構造やポロシティを長期間に渡り保つ観点で、触媒層用アイオノマーの高軟化温度化は望ましい特性と考えられる。また主鎖骨格の嵩高さは酸素透過性に対しても優位に働く。ガス透過性は湿度依存性を有するが、低湿度条件ではNafion膜に比べ2倍程度高くなっており、触媒層用アイオノマーとして有効な可能性が見出された(Fig. 2(f))。

3.3. 燃料電池評価
電解質膜にNafion NR211 (25 μm) を、カソードアイオノマーにHOPIとしてMMD/SMD-E4を適用したMEAの80 ℃における燃料電池性能をFig. 3(a)-(c)に示した。比較対象としてNafion D520CSを用い、アイオノマー差の影響とI/C依存性を評価した。HOPIの適用によりI/C = 0.6および0.8において高いI-V性能を示すことが分かる。両アイオノマーの性能差は、低湿度条件および高電流密度領域でより顕著に表れる。一方HOPIではI/C = 1.0において顕著な性能低下が見られるが、低電流密度領域および低湿度条件では性能が高く維持されていることから、フラッディング(生成水による触媒細孔内の閉塞現象)の発生に起因すると考えられる。各MEAのI-V曲線から1.5 Acm-2で過電圧分離を行った結果から、HOPIの適用により活性化および濃度過電圧が低減されることが確認された(Fig. 3(d)-(f))。すなわち、HOPIはその名が示す通りの高酸素透過性により触媒層内の酸素輸送性を改良するだけでなく、Pt触媒のORR活性も向上させることができる。各過電圧の傾向を以下に示す。
- 活性化過電圧 (ηact):低湿度ほど過電圧は上昇するが、40% RH以下ではその傾向がより顕著となる。HOPIの適用により過電圧は低下し、低湿度ほど過電圧差が大きくなり、40% RH以下ではNafion比で40~65 mVの過電圧低減効果がある。HOPIではI/C依存性は小さいが、Nafionでは高I/Cほど過電圧が低減する傾向が見られる。
- 抵抗過電圧 (ηohmic):アイオノマー種およびI/C依存性が小さい。これは抵抗測定に用いられる電流遮断法が直列抵抗成分のみを観測するためであり、直列抵抗である電解質膜抵抗の寄与が大きい反面、多段並列成分(伝送線モデル)で表現される触媒層のプロトン輸送抵抗の寄与が小さくなるためである。
- 濃度過電圧 (ηconc):フラッディングにより触媒層内の細孔が閉塞したと考えられるI/C = 1.0を除き、HOPIの適用により過電圧は低下する。湿度低下に伴い差が広がる傾向が見られ、30% RHではNafion比で最大約70 mVの低減効果が見られる。

3.4. ORR活性
カソードのCV波形、ECSA、質量活性(MA)、および面積比活性(specific activity, SA)をFig. 4に示した。両アイオノマーでCV波形に有意な差は無かったが、ECSAはHOPIの方が大きく、両アイオノマー共にI/C = 0.8付近で極大値が見られる。ECSAに極大値が存在することは先行研究でも指摘されており、同様の傾向となった(32, 33)。触媒の有効利用率の指標であるMAはHOPIにおいてI/C = 0.8で極大値を有するのに対し、NafionではI/C = 0.6-1.0の間で単調増加を示した。ECSAとMAから求めたSAは触媒の2次元界面における触媒活性の指標であるが、HOPIでは明確なI/C依存性が無い一方、NafionではI/Cに対し単調増加を示した。この傾向は前述のηactの傾向と一致する。すなわちNafionはアイオノマー量を増やすと触媒活性が良化する傾向にあるが、HOPIはI/Cに対する触媒活性の感度は低い。実MEAにおけるNafionの傾向は、アイオノマー量が増えるほど触媒被毒が増加しORR活性が下がるとされる基礎的な先行研究(MEAではなく回転リング電極法による評価)の結果と逆傾向となっており興味深い(34)。

次に、触媒活性に関する考察を深める為に窒素吸着法で触媒層の細孔構造やアイオノマー被覆の状態を検討した。吸着等温線およびBET法による細孔の比表面積(Fig. 5(a),(c))から、Nafionに比べてHOPIが触媒の細孔を塞ぎにくいことが明らかである。両アイオノマー共にI/Cの増加に伴い細孔容量および比表面積は単調減少するが、HOPIではNafionに比べ2倍程度の容量・比面積を保つことができる。吸着等温線のP/P0 = 0.5における吸着容量と脱着容量の差分で定義されるhysteresis volumeは窒素吸着におけるキャビテーションの発生量と相関があることから、触媒担体におけるボトルネック型細孔の容量を反映していると考えられている(35)。Nafionではhysteresis volumeが単調減少する一方、HOPIでは挙動は一様ではないものの、I/Cを増やしてもhysteresis volumeが保たれている(Fig. 5(d))。この特異的挙動の原因は明確で無いが、HOPIは触媒担体や担体粒子間に形成される細孔へ侵入し難くなる結果、粒子凝集体(アグリゲート)間の結着点として働くアイオノマー量が増加することで、粒子あるいはアグリゲート間に新たなボトルネック型細孔を形成するためと推測している。QSDFT法による細孔径分布(Fig. 5(b))からもHOPIが細孔容量を維持する傾向が見られるが、細孔サイズと残存細孔容量との相関は明確で無い。3-8nmの孔径を有するカーボン一次粒子上に存在する微細なナノ細孔、または10 nm以上の孔径を有する一次粒子またはアグリゲート間に存在する細孔の両者において、HOPIはNafionに比べて細孔容量を保持しているが、その相対的強度に細孔サイズ依存性は見られなかった。

アイオノマーの被覆状態を観察するため、低加速SEMにて触媒層の観察を行った(Fig. 6)。NafionではPt/CB粒子やアグリゲートが形成する凹凸がはっきり見えるのに対し、HOPIはPt/CBをダマ無く被覆しつつも粒子やアグリゲートが形成する凹凸を平滑化するように被覆している。またアグリゲート間により多くのアイオノマーが存在しており、Pt/CBの被覆に寄与していないHOPIが線状または薄膜状に伸びてアグリゲート間を結着している。このような傾向は、HOPIが孔径の小さな細孔に侵入し難い傾向を定性的に支持している。また触媒層全体の厚みはHOPIで4 μm、Nafionで6 μmと観測された。一見するとHOPIからなる触媒層はポロシティが低いように見えるものの、実際には約30 nm以下の領域でポロシティが高いことは窒素吸着から明らかである。またFig. 6から目視観測できる様に100 nmオーダーの大きな細孔が相対的に少ない一方、後述するKnudsen拡散領域の効率的な酸素拡散に必要な細孔容量を確保できていることから、全体としては無駄な細孔空間を排して密な触媒層を形成することで、酸素やプロトンの効率的な輸送に適した細孔構造を形成していると考えられる。

以上の解析から明らかになった通り、HOPIを適用した触媒層は触媒の細孔容量・比表面積の低下を抑制できる。Pt/CB触媒におけるPt粒子はカーボン担体の細孔内外に1-5 nm程度の粒径で存在することが知られており(36)、細孔容量で1-100 nmオーダーの広域な領域の空隙にPt粒子が存在している(37)。その為、これら細孔径領域で細孔容量・比表面積を維持できることは、HOPIがNafionと比べてPt粒子との物理的接触を回避できていることを意味している。すなわちアイオノマーによる触媒被毒を軽減できることが、HOPIの適用によるORR活性向上の要因の1つと考えられる(34)。
3.5. 触媒層のプロトン輸送抵抗
先述の通り、過電圧分離で表現される抵抗過電圧ηohmicは主に電解質膜に由来するプロトン輸送抵抗が反映されるため、触媒層のプロトン輸送抵抗を評価する指標として適切でない。そこで、EISにより電解質膜に由来するオーム抵抗(Rpem)と触媒層に由来するプロトン輸送抵抗(RCL,H+)とに分離して後者のプロトン伝導挙動を評価した(Fig. 7(a))。いずれのMEAもRpemは同一となったが、これは電解質膜が同じであることに加え、上記の成分分離が精度良く実現出来ている為である。NafionとHOPIを比較すると、I/Cが増加するとRCL,H+が低下する挙動は両者とも同様だが、RCL,H+の絶対値はHOPIの方が低いことが分かった。また触媒層の含水率は、同一I/CではHOPIの方が高くなった(Fig. 7(b))。一般的にアイオノマーは高含水環境ほど高伝導率を示すため、HOPIからなる触媒層の保水性の高さが RCL,H+低下の一因と考えられる。また先述の通り触媒層の厚みはHOPIの方が薄い為、伝導パスが短く済むことがRCL,H+低下のもう1つの要因と考えられる。

3.6. 触媒層の酸素輸送抵抗
過電圧分離におけるηconcの挙動から明らかな通り、HOPIのI/C = 1.0ではフラッディングが起きており、発電生成水の滞留により酸素透過が阻害されている。一方フラッディングによる拡散阻害を受けていない触媒層に関しては、細孔構造やアイオノマー薄膜内の酸素透過性の差異により性能差が生じるものと考えられる。酸素供給の律速度の指標であるO2 gainで両触媒層のガス輸送特性を評価した(Fig. 8(a))。O2 gainはカソードガスを空気から酸素へ変更した際(すなわち酸素濃度が約5倍)の電圧増分として定義される(5, 38, 39)。HOPIでは電流密度の増加に伴うO2 gainの増加が効果的に抑えられており、HOPIからなる触媒層が優れた酸素輸送性を有することが示された。
O2 gainは簡便かつ実発電環境での評価であることから有用な指標だが、触媒層からGDLにかけての各酸素輸送抵抗の合成成分を評価しているため、HOPI適用による改善が、アイオノマー自身の酸素輸送抵抗の改善に起因するのか、または触媒層構造の変化等に起因するのかを判別できない。その為、我々は実験項にて詳述したNonoyamaらの報告(19)による手法を用い、限界電流密度測定から各酸素輸送抵抗成分の分離定量解析を試みた。この際にアイオノマー中のガス透過性の温度依存性を把握する必要があるが、NafionとHOPIで異なることが想定されたため、Fig. 8(b)に示すように両者の酸素透過係数(PO2)の温度依存性を改めて測定し、式(5)および(6)に示す透過係数の回帰式を得た。
RDM、RCL,gas、RCL,ionを分離した結果をFig. 8(c)に示した。両者でRDMが変わらないのは、分子拡散に及ぼす影響が大きいGDLやMPLが共通の為である。HOPIではRotherがNafionの約半分まで大きく減少しており、これは先行研究で示されているHOPIの傾向と同じである(8-11)。一方、我々はRotherをRCL,gasとRCL,ionへ分離する試みをHOPI適用系で初めて行い、両抵抗共にNafionの半分程度まで減少していることが分かった。RCL,ionの減少は嵩高い分子構造によりアイオノマー自身の酸素透過性が高まることに加え、Pt表面における高密度層形成が軽減される結果、自由体積の増加および分子配向性の緩和により酸素輸送抵抗が低減するためと考えられる。RCL,gasについてはRotherに占める寄与がRCL,ionに比べて小さいとされてきた為、先行研究では解析上無視されることが多かったが、今回の我々の解析ではRotherに占めるRCL,gasの割合がかなり高いことも示された。これは検証に用いたPt/CBが微細細孔構造に富んだ多孔性担体であることに由来すると考えられる。Knudsen拡散は100 nmより小さな細孔領域では分子拡散よりも寄与が大きくなるとされており、触媒内に存在するミクロ孔やメソ孔の領域ではKnudsen拡散が支配的になると考えられる(19)。先述の窒素吸着測定(Fig. 5)から明らかな通り、HOPIはNafionに比べてKnudsen拡散支配の細孔領域における細孔容量を2倍程度高く保つことができており、これがRCL,gasの半減の原因と説明できる。すなわち、HOPIはアイオノマー自身に由来する酸素輸送抵抗のみならず、触媒層中の細孔容量を高く保つ効果によりKnudsen拡散支配を受ける酸素輸送抵抗も低減させることができる。後者の寄与は、アイオノマーによる被毒防止を意図したメソポーラスカーボン担体等の多孔性担体の適用時に、その効果をより発揮することが期待される。

3.7. 最適化条件における発電性能
I-V性能の検討から、カソードアイオノマーの最適I/CはNafion、HOPI共に0.8であることが見出された。このI/C条件で、実用的な燃料電池におけるMEA構成に近づけた条件での発電性能を確認した。アノードのPt使用量を0.5から0.1 mg cm-2へ下げると共に、アイオノマーをAGC社製IQ100B(I/C = 0.8)に変更した。電解質膜は高伝導率化の為、tetrafl uoroethylene-co-PSVEアイオノマー(IEC1.25)からなる25 μm膜を用いた。その他カソードのPt使用量や発電評価条件は実験項に記載の条件とした。評価結果をFig. 9に示した。NR211膜を用いたMEAは高加湿条件では比較的高い性能を示すが、実用上望まれる低加湿条件においては膜抵抗の増加により著しい性能低下を引き起こし、出力密度を高めることができない。一方、IEC1.25膜のように高性能膜を用いることで、低加湿条件においても高電流密度性能を維持することができる。また、高性能膜を適用してもNafion D520CSをカソードに用いたMEAでは湿度低下に伴いηactおよびηconcが増加し性能は限定的となるが、HOPIの適用により両過電圧を抑制し、高い電流密度および出力密度を実現することができる。特にHOPIは湿度低下に伴いηconcが低下していくというNafionには見られ無い優位性が見られ、ηactの増加をηconcの低下で補填する効果により、湿度に対するロバスト性が高いMEAとなっている。最高出力点で比較すると、NafionD520CSとNR211膜からなるMEAに対し出力は220%/電流密度で230%の増加となり、またアイオノマーのみが異なるIEC1.25膜のMEAに対し出力/電流密度共に140%の増加となり、著しい性能向上が確認された。本例のように、次世代燃料電池に求められる低加湿・高出力密度のような厳しい運転条件において、HOPIはその価値を最大限に発揮し、燃料電池性能を高度に発揮するための重要なアイテムであることが分かる。

4. 総括
本研究ではスルホン酸基を有する環状モノマー(SMD-E4)と疎水性の環状モノマー(MMD)との共重合により、一次構造が全て環状モノマーから成る新規HOPIの合成に成功した。HOPIの電解質としての基本的特性評価から、プロトンの輸送性能はNafionと同等ながら高い酸素透過性を示すことが明らかになった。HOPIをMEAのカソードに適用することで、特に低湿度や高電流密度領域での発電性能向上が示された。過電圧分離からはηactとηconcの両者で改善が見られ、ECSA、MA、SAといったORR活性に関する因子や酸素輸送性の向上が確認された。触媒層の詳細解析からは細孔容量を維持するというHOPIの特性が確認され、Ptとアイオノマーの物理的接触頻度低減がηact低減の要因の1つとして示唆された。また酸素輸送抵抗の成分分離解析から、HOPIはアイオノマー自身の透過性に起因する酸素輸送抵抗に加え、細孔容量の維持によるKnudsen拡散由来の酸素輸送抵抗の低減にも寄与することが解明された。最後に、高性能膜およびPt使用量を低減した実用PEFCに近いMEA構成において、80 ℃/20% RH条件ではNafion比で140%以上の出力向上を確認した。また低湿度化に伴いηconcが低下するという特異な特性により、湿度に対するロバスト性の高いMEAが実現できる可能性が示された。
以上より、次世代PEFCに求められる低加湿・高出力密度といった厳しい運転条件において、HOPIはその性能を最大限に発揮し、PEFC性能を飛躍的に高める為の重要なアイテムであることが示された。
謝辞
本研究の一部は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援により行われた。関係各位に感謝する。
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