CTOメッセージ

体系的なシステムでイノベーションを日常化し、企業価値を向上させます。

代表取締役 専務執行役員 CTO/技術本部長 倉田 英之
代表取締役 専務執行役員
CTO/技術本部長
倉田 英之

技術開発は事業活動の原動力

AGCにとって技術開発は事業活動の原動力です。板ガラスを国産化した創業時の志「素材・ソリューションで社会貢献していく」という使命感がその根底にあります。AGCは創業以来常に新技術の開発と進化に努め、社会や産業が変化した際は、いち早く最適なソリューションを提供し、お客様のニーズに応えてきました。AGCには常に世の中の変化に対し新しい技術を取り入れ、新たな価値の創造に向けてチャレンジする企業文化があります。その中で培い育ててきた技術の蓄積、高い能力・ノウハウを持った豊富な人財、それを活かし切る組織力、そして相互信頼による有力なお客様・産業との結び付き、これらがAGCの強みです。
組織力でイノベーションを起こしている点は社外からも高く評価されており、2026年2月に経営者イノベーション委員会主催「第一回システマティック・イノベーション経営賞」の「システマティック賞」を受賞しました。この賞は、体系的なシステムのもとでイノベーション活動を実践している企業を対象としており、イノベーションを属人化させず、組織的・継続的に生み出すAGCのシステムが高く評価されたものです。これは、単発的な技術開発でなく、継続的に新技術・新事業を生み出す全社的な仕組みがAGCの強みであることを意味しています。

組織的・継続的にイノベーションを生み出すAGCのシステム

中期経営計画AGC plus-2026の達成に向けて、技術本部では次のような施策を推進しています。第一は、筋の良いテーマ選びです。技術開発において非常に重要なことは、事業に貢献する筋の良いテーマを選ぶことです。そのための取り組みの一つが、Business and TechnologyOutlook(BTOL)活動です。この活動を始める前は、中・長期計画を策定するタイミングで技術や市場環境のマクロトレンドを都度見直していました。しかし、技術やお客様、そして市場環境は日々変化しています。 BTOL活動では、社会・産業・技術のマクロトレンドを中長期視点で分析し、AGCが注力すべき技術領域や開発テーマを選定して、将来の技術開発の方向性をロードマップに反映しています。その上で、技術や市場環境などの変化を見定め、毎年見直しを行っています。
BTOL活動では、7つの重点技術領域を定め、お客様と開発の方向性をすり合わせながら、部門間の戦略整合性の確保や注力開発テーマの優先順位付けを行います。これにより、筋の良いテーマにAGCの保有する技術を集中的かつ機動的に投入することが可能になります。このように、全社のR&D投資を効率的に活用するため、技術開発において“何をやめるか、何を始めるか、何を継続強化するか”を常に念頭におき、限られた開発リソースの中で、ポートフォリオの組み換えとテーマの取捨選択を行っています。
テーマの推進に当たっては、開発効率向上のため、技術本部と事業部門が戦略をすり合わせながら、仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning, DDP)を用いたテーマ・マネジメントを行っています。個々のテーマについてシナリオ検討会を実施し、テーマ選択の段階から市場や技術、サステナビリティなどを多角的に評価することに加え、開発の進捗度に応じて技術仮説・事業仮説を検証し、テーマを改廃、強化します。このようなテーマ管理により、研究の方向性を明確にし、より良いテーマに進化させていきます。
第二は、「両利きの開発」です。「両利きの開発」とは、既存の事業を強化していくための右利きの開発と、新事業を創出するための左利きの開発をバランスよく行うという考え方です。右利きの開発では、お客様との協創活動やアカデミアとのオープンイノベーションを活用して効率的に進めています。左利きの開発は、コーポレートプロジェクト(事業開拓部他)を中心に推進しています。プロジェクトでは、初期の段階から事業部や知的財産部との協働によってインキュベーションを進めながら、開発→事業開拓部→事業部へとスムーズにつなぐ仕組み(パイプライン)を確立しています。ここでは常時5つ程度のプロジェクトが進行中で、すでに事業開拓部でのインキュベーション、カンパニーへの移管が軌道に乗り始めており、全固体リチウムイオン電解質やファインセラミックス系のテーマが事業化に向けて立ち上がっています。さらに、2026年は革新的でチャレンジングなテーマを提案し、後押しする仕掛けをつくっていく予定です。
第三は、人財の多様性の向上です。横浜テクニカルセンター(YTC)をグローバルの研究拠点として位置付け、AGC Glass EuropeのAGC Technovation Centerとの人事交流や海外人財の採用を進めています。また、カンパニーと技術本部の定期的な人財交流を数十名規模で実施し、人財の固定化を回避しています。
第四は、DXによる価値創造と競争優位性の確保です。2026年1月付でデジタル・イノベーション推進部と情報システム部を統合し、CEO直轄のデジタル・イノベーション統括部を設置しました。技術本部では、先端基盤研究所内にRX推進室を設け、全社でDXを進めるデジタル・イノベーション統括部とも連携して、DXを活用した研究開発の変革RX(Research Transformation)を進めています。材料開発や組成開発に計算科学や情報科学を用いることで素材開発を大幅に効率化するマテリアルズ・インフォマティクス向けのデータ分析ツールを開発しており、ツールを用いた材料開発の迅速化やプロセス改善などの活用事例が多数あります。

オープンイノベーションにより技術探索と新事業開拓を実践

2021年に開設したYTCは、技術開発の中心拠点であり、当社のオープンイノベーションの拠点です。毎年YTCには国内外から約500団体の来場があり、その3分の2が、将来の事業につながる企業と、オープンイノベーションにより新しい技術開発につながるアカデミアの研究者で占められています。これによって、研究者が陥りがちな自前主義を脱し、社外との連携・協業による革新的技術の探索や新商品・新事業の創出に精力的に取り組んでいます。
オープンイノベーションの具体的事例としては、産学連携の進化形として、東京大学、名古屋大学、東京科学大学などとの大型連携による新技術領域の創出に取り組んでいます。また、日本材料技研、UMI、ATACなどのベンチャーキャピタルやそれらを通じたスタートアップ企業とのコラボレーションによって、新技術・新市場の探索と育成にも注力しています。

代表取締役 専務執行役員 CTO/技術本部長 倉田 英之

こうしたオープンイノベーションの取り組みは、具体的な成果にもつながっています。AGCの100%子会社であるAGC Glass Europe社とSaint Gobain社による、EUイノベーション基金の支援を受けたCO2排出量を大幅に削減する型板ガラスパイロットラインの稼働、東京大学大学院工学系研究科との共同研究によるガラスの超高速レーザー加工技術の開発、NEDO「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池実証事業」に採択された「ガラス型ペロブスカイト太陽電池の量産技術開発とフィールド実証」プロジェクトへの参画など、すでにいくつかの成果が生まれています。さらに、物流分野においてもオープンイノベーションを推進しており、当社が分科会リーダーを務める一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)と株式会社traevoが進める共同輸送の取り組みが、「第8回日本オープンイノベーション大賞国土交通大臣賞」を受賞しました。産業横断の協創による物流DXを通じて、輸送効率の向上やCO2排出量削減など、サプライチェーン全体の効率化・高度化にも取り組んでいます。
また、これらと並行して社内オープンイノベーションも推進しています。YTC研究棟の改造・改編、各カンパニー事業部研究所のYTCへの集結により、縦割り組織の弊害をなくし、幅広い分野の専門性と強みを融合させることによって、新たな事業領域の創出や競合との差別化に結び付けています。
YTC以外にも、米国クパチーノ(シリコンバレー)、フランクフルト、シンガポール、上海に新事業の機会の探索を目的としたオープンイノベーションハブを開設し、グローバルでのオープンイノベーションを推進する「Globe活動(Global Activity for Creating New Businesses & Entrepreneurs)」も展開しています。

“ 守りの知財”から“ 攻めの知財”へ転換

AGCがこれまで蓄積してきた知的財産は、特定の製品・事業を模倣や侵害から保護する“守りの知財”の役割が中心でした。今後は、現状の製品や事業に限らず、蓄積してきた知的財産の価値を幅広く応用・適用し、収益化する“攻めの知財”へと転換していきます。これまでのように“守りの知財”を前提とするのではなく、“攻めの知財”を実現するために、グローバルで知的財産を積極的に活用していく戦略が求められています。その具体的な取り組みとしては、バリューチェーンや市場を意識した他社への影響度の高い特許群の創出や標準化ルール形成が挙げられます。さらに、知財情報解析を活用し、新規事業や既存事業戦略にも貢献しています。
他社への影響度の高い特許群の創出の取り組みについては、発明評価基準に「他社に及ぼす影響度」で評価する「発明報奨制度」を導入することにより、事業に貢献する特許群の創出を加速してきました。
またAGCでは、グローバルな市場におけるルール形成のための標準化活動を積極的に推進しています。それに加えて、新しい市場の創出に向けた活動を展開しています。そのために日・中・欧のルール形成に向け、JBCE(在欧日系ビジネス協議会)等の在欧団体との協力強化や人財派遣を進めています。
さらに、知財情報解析を活用し、異分野も含めた新規事業の探索や既存事業の新たな価値提供の可能性を抽出することにより、新規事業や既存事業戦略に貢献しています。
こうした取り組みも活用しながら、保有する知的財産を徹底的に使い切ることで、持続的な企業価値向上を実現していきます。

代表取締役 専務執行役員 CTO/技術本部長 倉田 英之

多様なキャリアパスを通じ、次代を担う人財の輩出を目指す

「人財のAGC」を掲げる当社にとって、新卒採用人員の約8割を占める技術系人財の育成と活用が、さらなる企業価値向上のカギを握っていると考えています。コーポレート所属の技術開発部門の約3割が博士号を保有*しています。さらに、毎年数名を海外トップクラスの大学に送り出し、学位取得や最先端の研究を実施する機会を設けています。これらによって、世界最先端の研究ネットワークへの参画による情報収集とグローバルな人脈づくりを進めています。また、人事制度として特別研究員制度(フェロー制度)を設け、一つの技術領域で世界の第一人者となるような技術系人財システムも導入しています。*取得見込み者を含む

新事業創出に向けては、海外「Globe活動」拠点に人財を派遣し、グローバルな新事業の創出機会の探索や国際的な人脈づくりの機会を提供しています。また、ベンチャーキャピタルに人財を派遣し、新しい技術やビジネスがダイナミックに生まれる環境に身を置くことで事業センスを磨きつつ、出資先の社外取締役を務めるなど、貴重な実務経験を積ませています。こうした多様なキャリアパスの提供を通じて、AGCの次代を担う人財を次々と輩出していくことがCTO所管部門の使命だと考えています。
一方で、将来起こりうるリスクを過剰に評価するあまり、あえて困難なことに挑もうとしない現実があることも事実です。また、自分の専門技術領域に閉じこもり、他の領域や他部署と積極的に関わろうとしない研究者も少なくありません。こうした現状を打破し、全ての人財が能力を最大限に発揮するためには、チャレンジを推奨して誉める文化の醸成、グローバルなネットワークへの参画をはじめとする人的交流の活性化、経営層との対話の強化が不可欠で、今後はそのための仕組み、仕掛けづくりにさらに力を入れていきたいと考えています。

企業価値向上に向けた仕込みは着々と進行

技術本部は、AGCの成長をけん引するエンジンであり、イノベーションの原動力でもあります。お客様の期待を超える新技術・新商品を次々と生み出し、革新的な生産技術によって圧倒的なコスト競争力を実現する。そして未来につながる大型の事業テーマを仕込んでインキュベートする。これらは簡単なことではありませんが、有能で多様な人財を擁するAGCにとって、実行すべき目標です。
限界を突破しながら進化を目指す企業カルチャーのもと、ワクワクしながら仕事をし、世の中になくてはならない素材とソリューションを提供していくことが、私たちの喜びであり、願いです。
AGCでは各分野で企業価値向上に向けた仕込みを着々と行っています。ディスプレイやオートモーティブ事業が成長軌道に戻ったように、他の事業領域、戦略事業そして新たな事業領域でも、今後はその成果が次々に現れてくる見込みです。ぜひご期待ください。