2021年01月26日研究開発リリース

メタサーフェス技術により窓ガラスの電波レンズ化に世界で初めて成功

~屋外から屋内へ効率的にミリ波を誘導~

株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)とAGC株式会社(以下、AGC)は、第5世代移動通信方式のさらなる高度化(5G evolution)と第6世代移動通信方式(6G)に向けて、メタサーフェス技術※1によりミリ波帯(28 GHz帯)の電波を屋外から屋内に効率的に誘導する「メタサーフェスレンズ」のプロトタイプを開発しました。2020年12月18日(金)にドコモR&Dセンタ(神奈川県横須賀市)にて、メタサーフェスレンズを用いることで窓ガラスを通るミリ波を屋内の特定の場所に集め、屋内での受信電力を向上させる実証実験に世界で初めて※2成功しました。
 
<メタサーフェスレンズについて>
5G evolutionや6Gでの利用が想定される高い周波数帯の電波は、現在使用されているLTE、sub-6帯の電波と比較し、直進性が高く、減衰しやすいという特徴があります。そのため屋外基地局アンテナから発信された電波は建物の窓ガラスに到達するまでに減衰し、さらに減衰した微弱な電波は広がることなく屋内に入り込むため、屋外基地局アンテナによる建物のエリア化は困難でした。

今回開発した28 GHz帯向けメタサーフェスレンズは、メタサーフェス基板上の小さな素子に複数の形状を持たせ、適切に配置することで窓ガラスを通るミリ波を屋内の特定の場所(以下、焦点)に集めることができるレンズです。窓ガラス全面を通る微弱な電波を焦点に集めることで電力を高めることができるため、焦点位置にリピーターやリフレクター等のエリア改善ツールを置くことで、屋外の基地局アンテナによる建物内のエリア化が実現できると考えています。さらにフィルム形状のため、屋内側から窓ガラスに貼り付け、屋外基地局アンテナからの電波を屋内に簡単に引き込むことが可能です。
またこのメタサーフェスレンズは、LTEやsub-6帯等の他の周波数に影響を与えないように設計されており、他の帯域と並行してミリ波のエリア改善が可能となります。

<実証実験の内容>
本実証実験では、メタサーフェスレンズによって窓ガラスを通るミリ波を屋内の焦点に集めることで、屋内での受信電力が向上することを確認しました。また屋内で複数のリピーターやリフレクターを使うこと、および将来は端末の移動に追従することも視野に焦点位置の制御機能も検証し、単焦点から2焦点へ切り替えられることを実証しました。
さらに、AGCのガラス電波透過構造設計技術により、遮熱性を損なわずにミリ波が透過するように設計した遮熱機能を持ったガラスとメタサーフェスレンズとを組み合わせることにより、本来は電波を通さない遮熱ガラス※3でも屋内でのミリ波の受信電力を向上できることを実証しました。
(本実証実験の詳細については、別紙1をご参照ください。)
これまでドコモとAGCはミリ波帯の柔軟なエリア構築に向けて、透明で景観に影響を与えない透明メタサーフェス技術を検討してきました※4。今回開発したメタサーフェスレンズは、ドコモのメタサーフェス設計技術とAGCのガラス電波透過構造設計技術・微細加工技術により実現しました。

本実証実験で使用したメタサーフェスレンズは、2021年2月4日(木)から2月7日(日)までオンラインで開催するドコモのイベント「docomo Open HouseTM 2021」で、ご覧いただけます。

ドコモとAGCは今後も5G evolutionや6Gの効率的かつ柔軟なエリア構築手法の確立をめざし研究・開発に取り組んでまいります。

※1 メタサーフェスとは、波長に対して小さい構造体を周期配置して任意の誘電率・透磁率を実現する人工媒質(メタマテリアル)の一種で、構造体の周期配置を2次元とした人工表面です
※2 ドコモ調べ(2021年1月26日現在)
※3 ガラスに塗布されている遮熱膜は、電波を反射する性質があります
※4 報道発表資料:(お知らせ)世界初、28GHz帯5G電波の透過・反射を動的制御する透明メタサーフェス技術の実証実験に成功<2020年1月17日>


* 「docomo Open House」は、株式会社NTTドコモの商標です。

別紙1

メタサーフェスレンズを用いた実証実験の詳細

1. 実験概要
ドコモとAGCは神奈川県横須賀市のドコモR&Dセンタにおいて、メタサーフェスレンズのプロトタイプに対して垂直に電波(28 GHz帯)を入射し、焦点近傍における受信電力を測定しました。

2. 使用したメタサーフェスレンズ
・静的メタサーフェスレンズ: 窓ガラスを通るミリ波を一つの焦点に集めるメタサーフェスレンズ。焦点1箇所(焦点1)における受信電力を測定。
・動的メタサーフェスレンズ: 焦点位置の制御機能を持つメタサーフェスレンズ。単焦点モード(メタサーフェスレンズと可動透明基板が離れた状態)では一つの焦点(焦点2)に、2焦点モード(メタサーフェス基板と可動透明基板が接した状態)では二つの焦点(焦点2および焦点3)にミリ波を集める。焦点2および焦点3における受信電力を測定。
3. 実証実験成果
静的メタサーフェスレンズにより、焦点1における受信電力が通常の透過ガラスに対して24 dB以上向上することを確認しました。

表1:フロートガラスに対する静的メタサーフェスレンズ測定結果(@27.6 GHz)

①フロートガラス ② ①+メタサーフェスレンズ
焦点1における受信電力 0dB >24dB
※フロートガラスのみの場合の焦点1における受信電力を基準とした値

更に、遮熱機能を持ったガラスに対して、ミリ波が透過するように設計し、メタサーフェスレンズと組み合わせて追加実験を行ったところ、焦点1の受信電力が24B付近まで向上し、表1の②メタサーフェスレンズと同等の結果が得られました。

表2:遮熱ガラスに対する静的メタサーフェスレンズ測定結果(@27.6 GHz)

③ ①+遮熱(透明)金属膜 ④ ③+電波透過構造 ⑤ ④+メタサーフェスレンズ
焦点1における受信電力 -29dB 約0dB 約24dB
※フロートガラスのみの場合の焦点1における受信電力を基準とした値

動的メタサーフェスレンズにおいては、単焦点モードの場合は主に焦点2で受信電力が向上していることを確認し、また2焦点モードでは焦点2および焦点3の両方において受信電力が向上することを確認しました。

表3:動的メタサーフェスレンズ測定結果(@29.5 GHz)

焦点2 焦点3
単焦点モード 11dB 0dB
2焦点モード 6dB 6dB
※単焦点モードでの焦点3における受信電力を基準とした値
<動的メタサーフェスレンズについて>
従来、電波の透過/反射波方向を制御する際は、同一の素子を均一に配列することでメタサーフェスを構成し、素子毎に異なる制御信号を与えることで実施していました。今回検証した動的メタサーフェスレンズでは、4種類の構造の異なる素子を適切に配置することで、全素子に同一の制御信号を与えたとしても、焦点位置を切り替えられる(今回は単焦点⇔2焦点の切り替え)ことを実証しました。制御が簡単にできることで、大きな面積のメタサーフェスレンズでも焦点を変えることを可能としました。
4. 実験期間
2020年12月14日(月)~2020年12月18日(金)
本件に関する報道機関からのお問い合わせ先
AGC 広報・IR部
担当:北野
TEL: 03-3218-5603
E-mail: info-pr@agc.com
NTTドコモ 広報部
担当:高山・久松
TEL: 03-5156-1366