1997年09月02日製品リリース

最新鋭のイオン交換膜法複極式電解槽を開発

 旭硝子株式会社(本社:東京、社長:瀬谷博道)は、従来の単極式食塩電解槽に加え、このたび世界最新鋭の複極式電解槽(商品名:AZEC−B1)を開発し、上市しました。

 当社は、1982年にイオン交換膜法(IM法)電解分野において大幅な省エネルギーを実現する「AZEC(アゼック)システム」を他社に先駆けて実用化して以来、一貫して省エネルギーへのアプローチを継続してきました。また、当社の食塩電解用イオン交換膜「フレミオン」は、ユーザーより「最も電圧が低く省エネに適した膜」との評価を得ており、現時点でフレミオン膜を使用したAZECシステムのシェアは、世界のIM法電解プラント市場全体の約25%であり、同市場の約半分を占める単極式電解槽市場で見れば約50%です。

 今回、新たに開発した複極式電解槽AZEC−B1は、当社が蓄積してきたIM法電解技術の粋を組み込んだもので、次のような特徴があります。

【 AZEC−B1電解槽の特徴 】

  1. 陽極・陰極間の構造を最適化し、高電流密度においても電圧損失を極小にした。
  2. 独特な構造の採用で電解槽内の液の流れを促進し、電極液の濃度分布を平均値の±3%以内と極めて少なくし均一性を確保するとともに、電解発生ガスの排出を促進した。
  1. 以上の技術的なブレークスルーを実現したことにより、
  2. 既存の複極式電解槽に比べ、約1.2〜1.5倍の高電流密度(6KA/m2)での効率運転が可能。
  3. この高電流密度においても、
    • 電力原単位は2300KWH/トン・苛性ソーダ と低消費電力を実現。
    • 低抵抗フレミオン膜を長期間安定して使用可能。

 同電解槽は7年前より当社鹿島工場において実証運転を続けており、長期にわたる性能の維持を確認できたため、今回販売に踏み切るものです。
 一方、当社鹿島工場では、現在隔膜法電解槽が苛性ソーダ年産166千トンの規模で稼働していますが、98年6月の定期修理時期に約50億円を投じてAZEC−B1電解槽に転換する予定です。当社は、この大型新設プラントでの運転実績も積み上げ、従来の単極式電解槽に加えIM法電解プラント販売への強力な新製品として世界市場に展開します。

 全世界の苛性ソーダ生産設備能力は、ここ数年以内の新増設予定を含めて約5千万トン/年の規模ですが、その3分の2はいまだに水銀法や隔膜法であり、2000年代には新増設に加えコストダウンや環境を考慮したIM法への転換需要が高まると期待されています。当社は、既設設備を最大限有効利用できる単極法技術に加えて、より高い電流密度設計と低電力消費によるコストダウンが図れる複極法技術を品揃えしたことで、2000年代IM法電解プラントの新増設・転換市場(苛性ソーダ設備能力100〜150万トン/年、130〜200億円/年と推定)で50%のシェアを目指します。

以      上

《 参 考 》
1.イオン交換膜法の原理

 陽極室と陰極室はイオン交換膜によって仕切られており、陽極室には飽和塩水を供給し、陰極室には水を供給して電解を行う。陽極では塩素ガスが発生し、陰極では水素ガスが発生する。ナトリウムイオン(Na+)は膜を透過して陰極室に移行し、陰極で生じた水酸イオン(OH-)と結合して苛性ソーダを生成する。この電解反応はファラデーの法則に従って電気量に比例して物質の消失・生成が起こる。実際の電解では副反応があり、苛性ソーダの生成量は理論値より若干少ない。実生成量と理論生成量の比は効率(電流効率)と呼ばれる。
 食塩電解における消費エネルギーは電力原単位として評価される。電力原単位は苛性ソーダを1トン生産するのに要する電力であり、電圧に比例し電流効率に反比例する。従って、省エネルギーを図るには、低抵抗(低電圧)・高電流効率の膜が使われる。

2.単極式と複極式の違い

 電解槽を構成する最小要素(単位セル)が陽極枠と陰極枠とに分離独立している電解槽を単極槽、陽極枠と陰極枠が背面同士接合されている電解槽を複極槽と一般的に呼称する。電解設備として見た場合の両者の最大の相違点は電気接続法にあり、例えて言えば乾電池を並列に接続した方式が単極式、直列に接続した方式が複極式となる。
 単極槽と複極槽はそれぞれの特質を持っており一概に優位性を比較することは困難である。電解プラントの立地条件、設備能力、新設か転換か、客先の好み等を総合的に判断して選択することとなる。なお、現在世界のイオン交換膜法電解プラントにおいては、単極式と複極式の設備能力はほぼ拮抗している。