2002年03月19日製品リリース

分裂酵母全遺伝子搭載DNAマイクロアレイの開発に成功〜バイオ生産プロセス技術確立の基礎研究加速に寄与〜

 旭硝子(株)(本社:東京、社長:石津進也)は、本年2月、分裂酵母エス・ポンベの全遺伝子(遺伝子数:約5千)を搭載するDNAマイクロアレイの開発に成功しました。分裂酵母は、高等生物由来の複雑な構造を持つ蛋白質を生産できるという優れた特長を持ち、遺伝子機能解析により、有用物質をより効率的に生産させることを期待されている微生物です。DNAマイクロアレイは、現在、遺伝子機能解析の最も有力な手段と言われており、今回の開発により、分裂酵母を用いたバイオ生産プロセス技術確立のための基礎研究が飛躍的に加速するものと期待されます。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、化石資源に大きく依存した現在の化学工業の生産システムを環境調和型循環産業システムに変換すべく、「生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発」プロジェクトを平成12年度から22年度までの予定で実施しています。

 当社は、平成12年4月に事業化した「分裂酵母を用いた蛋白質生産システム(ASPEX)」を通じ、分裂酵母に関する多くの知見と技術を有しています。同プロジェクトの第1期(〜17年度)研究開発項目である「宿主細胞創製技術の開発」については、財団法人バイオインダストリー協会(会長:山田秀明)を中心とする産学共同研究体がNEDOから受託していますが、当社もその一員として参画しており、幅広い物質生産プロセスに利用可能な宿主細胞(MGF:ミニマムゲノムファクトリー)を創り出すことを目的として研究を行っています。本件の開発は、同研究の一環として昨年10月から取り組んできたものです。

 今般、当社が開発した分裂酵母エス・ポンベ全遺伝子搭載DNAマイクロアレイ(以下、同アレイ)には、(株)日立製作所(本社:東京、社長:庄山悦彦)のオリゴDNAプローブ設計手法ならびにマイクロアレイ作製技術を採用しました。これにより、高精度(検出可能な発現量比が従来の2倍以上から1.1倍以上に)と品質の安定性(クロスハイブリダイゼーションがない)を実現することができました。

 今後、当社は、同アレイを利用して遺伝子機能の解析を進め、平成17年度までに、バイオ生産プロセスに応用可能な分裂酵母宿主細胞を獲得する計画です。この研究を通じ、深刻化する地球環境問題を解決する強力な手段であるバイオ生産プロセス技術の発展に貢献していく所存です。

 なお、当社は、3月25日から京都で開催される、分裂酵母研究に関する国際学会「POMBE2002」において、今回の開発の成果を発表することとしています。

以   上

<参考(語句解説)>

  1. 分裂酵母
    子嚢菌類に属する単細胞真核微生物で、動物細胞のように均等に二分裂する。代表的なものとして、シゾサッカロミセス・ポンベ(エス・ポンベ)がある。
  2. DNAマイクロアレイ
    ガラス等の基板上にDNA断片を整列させ固定化したものの総称で、DNAチップとも呼ばれる。遺伝子の種類や機能の解析に最も有効とされている。
  3. 「分裂酵母を用いた蛋白質製造システム(ASPEX)」
    アスペックス(Asahi Glass Schizosaccharomyces pombe Expression System)。当社が独自に開発した、分裂酵母Sポンベを用いた蛋白質生産技術。医薬品原体や産業用酵素を目的とする受託製造を中心に事業展開している。
  4. 宿主細胞
    遺伝子を導入される細胞のことで、大腸菌や枯草菌、酵母、動物細胞などが対象となる。
  5. 財団法人バイオインダストリー協会
    「バイオインダストリーに関する科学技術の進歩発展を通して、バイオインダストリーおよび関連産業の健全な発展を図り、我が国経済の発展と国民生活の向上に寄与すること」を目的とする、我が国唯一の総合的なバイオインダストリー推進機関(ホームページ:www.jba.or.jp)。
  6. ミニマムゲノムファクトリー
    目的物質の生産に有害もしくは不要な遺伝子(群)や染色体領域を大規模に削除・不活性化し、エネルギー系代謝系など有用な遺伝子(群)を導入して有用機能を強化することにより、高効率に物質を生産するために必要十分な遺伝子のみを保持する宿主細胞。
  7. オリゴDNAプローブ
    遺伝子を検出するためDNAマイクロアレイに張り付けられた、遺伝子を検出するための合成オリゴヌクレオチドからなる1本鎖DNA。
  8. 発現量比
    マイクロアレイの精度を示す指標で、基準サンプルと試料との蛍光色素信号強度比で表す。数値が「1」に近づくほど精度が高い。
  9. クロスハイブリダイゼーション
    DNAマイクロアレイ上で、本来のDNAプローブではないDNAプローブにターゲット遺伝子が相補結合すること。

    分裂酵母DNAマイクロアレイ検出原理、DNAマイクロアレイ実例
◎本件に関するお問合せ先
旭硝子(株) 広報室
担当:二瀬(にのせ)
TEL: 03-3218-5915
E-mail: info-pr@om.agc.co.jp