2003年12月24日研究開発リリースその他リリース

次世代向け新型不揮発メモリー素子の開発に成功

旭硝子株式会社(本社:東京、社長:石津進也)と東北大学工学研究科の小柳教授の研究グループは、旭硝子が保有するシナジーセラミックスの基本技術を応用し、高密度金属ナノ粒子を用いた新しい不揮発メモリー"メタルナノドット(以下、MND)メモリー"の開発に成功しました。(図1、2)MNDメモリーは、不揮発メモリーとして一般に最も広く使われているフラッシュメモリーよりも高度な情報保持特性を持つことから、今後フラッシュメモリーの代替として期待されます。

旭硝子は、自社で長年培ってきたガラス、セラミックス、化学品など無機から有機に至る広い範囲の素材・技術を生かし、半導体製造装置用部材の開発・製造・販売を行っていますが、今回の開発は、国家プロジェクトの一環として旭硝子が携わっているシナジーセラミックスの研究開発成果としての金属超微粒子分散膜の技術を応用しています。
一方、小柳教授の研究グループは、極微細半導体素子の試作と特性解析用専用並列処理システムの設計・開発などの研究を行っています。

近年デジタルカメラを始めとする各種デジタル家電市場の爆発的な拡大に伴い、高密度、高特性の不揮発メモリーへのニーズが急速に増しており、それに伴い様々な不揮発メモリーが開発、提案されています。その中でも特にフラッシュメモリーは、高密度、低コスト、安定した使用実績の点で現在最も広く使われている不揮発メモリーの一つになっています。しかしながら、フラッシュメモリーも情報保持特性を決めているトンネル酸化膜の薄膜化が限界に近づきつつあることから、近い将来、セルサイズの縮小も限界に達するものと考えられています。この問題を解決するために、シリコン量子ドットメモリーやMONOSメモリーなどの新型メモリー素子が提案されていますが、十分高い蓄積電荷密度が得られているとは言えません。そこで、小柳教授は、旭硝子の開発した高密度金属ナノ粒子分散膜(MND膜)に着目し、新しいメタルナノドット(MND)メモリーの基本構造を提案するとともに、旭硝子と共同でこのメモリーの試作に取り組んできました。メモリーの試作は、東北大学のベンチャー・ビジネス・ラボラトリーで行いました。
今回開発したMNDメモリーの特徴は次の通りです。

(1) 従来、フラッシュメモリーの場合、電荷を保持するフローティングゲートにはSiが使われていますが、今回開発したMNDメモリーでは、フローティングゲートに電荷保持層として旭硝子の開発した高密度メタルナノドット分散膜(MND膜)を用いています。このMND膜は、直径2ナノメートル程度の金属のナノ粒子が二酸化珪素などの絶縁体中に高密度に分散した構造になっています。(図3)従来より研究が行われているシリコンナノドットに比較し、粒子の大きさは半分以下、面密度は1桁以上高い(約2×1013/cm)ことがMND膜の特徴です。この特徴により、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)のしきい値電圧のシフト幅が大きくなり、また記憶したデータを保持する時間やデータの書換え回数の飛躍的向上が期待でき、将来の素子の微細化にも十分対応が可能となります。
(2) MND膜はスパッタリング法を用いているため、容易にかつ安価に成膜することが可能であるばかりでなく、メタルナノドットは、母材の絶縁体中に自己組織的にその場形成され、金属と絶縁体が相分離を起こしながら堆積しますので、メタルナノドット形成のために必要な特別な処理、例えば成膜後の加熱などは一切不要となります。今回、このような特徴を持つメタルナノドット(MND)メモリーの試作に初めて成功し、12月8日から12月10日の間、米国(Washington DC)で開催された国際電子デバイス会議(International Electron Devices Meeting)で発表して注目を浴びました。

今後、旭硝子は、"MNDメモリー"の基本技術を半導体メーカーにライセンスする予定であり、主として現状のフラッシュメモリー市場(1兆円)およびハードディスク(2.6兆円)など既存磁気記憶媒体市場の一部の置き換えを見込んでいます。

以 上

(ご参考)


図1.MNDメモリ素子
 

図2.MNDメモリ素子 断面概略図
 

図3.Co−SiO2系MND膜 断面TEM写真
<用語解説>
1. シナジーセラミックス
通商産業省(現経済産業省)工業技術院の「産業科学技術研究開発制度」の下、平成6年から発足したプロジェクト名「シナジーセラミックスの研究開発」に由来する名称である。シナジーとは共生関係や共働効果を意味する言葉で、このプロジェクトは材料の構造を複数にまたがって同時制御する「高次構造制御」という概念のもとに、従来は困難であった相反する特性、機能の高度な共生や機能間の相乗効果を実現させた、革新的なセラミック材料の創製を目指している。
2. 不揮発メモリー
電源を切っても記憶内容が失われないLSIメモリー。ROMがこれにあたる。狭義には書き込み消去ができるROM、すなわちフラッシュメモリーを指す。
3. フローティングゲート
フラッシュメモリーの素子構造において、絶縁膜中に埋め込まれた電気的に浮遊しているゲート
4. スパッタリング法
真空中でイオンを加速してターゲットに衝突させ、その衝突ではじき出されたターゲットの原子、分子をウエハーに堆積させる方法
5. 国際電子デバイス会議(International Electron Devices Meeting)
「半導体のワールドカップ」と言われているように、全世界から選別された最先端デバイス開発の成果が発表される学会であり、半導体の世界では最も権威ある学会の一つである。毎年12月に米国で開かれている。

◎本件に関するお問い合わせ先
旭硝子(株)広報室長:川上 真一
担当:斎藤
TEL: 03-3218-5509
E-mail: info-pr@agc.co.jp