圧倒的な存在感を示すフッ素樹脂「Fluon®ETFE」 多機能性にさらに磨きをかけて適用分野を拡大 圧倒的な存在感を示すフッ素樹脂「Fluon®ETFE」 多機能性にさらに磨きをかけて適用分野を拡大

Jun.28 2022

圧倒的な存在感を示すフッ素樹脂「Fluon®ETFE」 多機能性にさらに磨きをかけて適用分野を拡大

工業製品や工場、産業プラントなどの装置・設備の中で、特に高い耐久性が求められる素材として熱可塑性フッ素樹脂のETFEがある。この素材がないと、安全性や信頼性を確保できない用途は多い。AGCは、50年前に世界で初めてETFEを量産化し、「Fluon®(フルオン)ETFE」というブランド名で供給している。現在でもETFEでの事業競争力は圧倒的であり、他社にはない先進的な技術開発体制を背景に、世界トップシェアを誇っている。AGCは現在の高いシェアの維持だけに安住することなく、低温加工性や長期耐久性などさらなる特性を付加して、その適用範囲を拡大しようとしている。

Profile

山本 弘賢

山本 弘賢

化学品カンパニー フロロポリマーズ事業部 メルト樹脂事業グループ マネージャー

世界で初めてETFEの量産に成功 飛び抜けて高い耐熱性と耐薬品性

工業製品を作る素材として、樹脂(いわゆるプラスチック)は、現代の生活・産業・社会を支える重要かつ有用なものである。優れた耐久性を持ちながら、加工しやすいその特性は、高品質な工業製品を大量生産するうえで欠かせない。無数にある樹脂の中でも、成分にフッ素を含む樹脂は、耐熱性、滑り性、非粘着性、耐薬品性、低摩擦性、絶縁性など、数多くの有用な特性を備えている。食材がくっつかないフライパンのフッ素コーティングのように、一般消費者が生活の中でその恩恵を実感できる応用例も多い。

化学品カンパニー フロロポリマーズ事業部 メルト樹脂事業グループ マネージャー 山本 弘賢氏

化学品カンパニー フロロポリマーズ事業部 メルト樹脂事業グループ マネージャー 山本 弘賢氏

そして、高い耐熱性と耐薬品性を兼ね備え、産業用や自動車用などの用途で広く利用されているフッ素樹脂がETFEである。AGCでは「Fluon®ETFE」というブランドで販売しており、「1972年に世界で初めてETFEの量産に成功し、販売を開始してから2022年でちょうど50周年を迎えました。いまでは国内外で多くの素材メーカーが市場に参入していることからも分かるように、ETFEは極めて有用な素材だといえます。競争は激しいのですが、継続的に品質及び技術力の向上に取り組み、AGCは世界トップシェアの地位を占めています」と化学品カンパニー フロロポリマーズ事業部 メルト樹脂事業グループ マネージャーの山本弘賢氏はいう(図1)。

図1 Fluon®ETFEの応用製品例

図1 Fluon®ETFEの応用製品例

加工しやすく、数々の有用な特性を兼ね備えるFluon®ETFE

Fluon®ETFEとは、4フッ化エチレン(C2F4)とエチレン(C2H4)の交互共重合体であり、成形加工性に優れた熱可塑性フッ素樹脂である。押出成形、射出成形、粉体塗装など様々な手段での加工が可能であり、フィルム加工やヒートシール、ゴムとの複合などの二次加工もできる。しかも、工業製品の付加価値を高める数々の有用な特性を備えている。


-200℃から150℃までの温度範囲で使用可能な耐熱性を持ち、その範囲において安定した機械的・電気的特性を維持できる。150℃の環境下での連続使用も可能である。しかも、耐薬品性に優れ、ほとんどすべての化学薬品、溶剤にさらしても劣化しない特性を備えている。これらの特徴から、過酷な温度環境で利用する工場や産業プラント、自動車・鉄道などで利用される機器・設備の部材や、高温または低温の液体や薬品などを通すパイプのライニングなどで利用されている。特に活用例が多いのが、自動車の燃料ホースである。また、無味・無臭・無毒であるため、食品関係の装置・設備にも適用可能だ。


また電気的特性として、薄い被膜でも高い絶縁強度を実現可能であり、広い周波数領域で低い誘電率、誘電正接を示す。この特徴は電線の被覆材として適している。特に耐熱性の高さと併せて、自動車の中で電装品をつなぐハーネス(電線)の被覆材として多く利用されている。


さらに他のフッ素樹脂に比べて機械的強度が高く、紫外線に強いため長期の屋外での使用に耐えることができる。この点を生かせば、建築物や施設園芸用の屋根や外装として使われるフィルムなどにも利用可能である。フィルム状に加工したものは全光線透過率が95%と高く、採光の面からも適性が高い。既に2006年のサッカーワールドカップ ドイツ大会の開幕戦に使われたスタジアム「Allianza Arena」や、東京国際空港(羽田空港)第2ターミナル国際線施設などの側面および屋根部分に採用されている(図2)。


図2 建築用資材としての採用例
(左)ドイツのAllianza Arena、(右)東京国際空港(羽田空港)第2ターミナル国際線施設

図2 建築用資材としての採用例
(左)ドイツのAllianza Arena、(右)東京国際空港(羽田空港)第2ターミナル国際線施設

加えて表面特性として、非摩擦性、非粘着性、撥水・撥油性に優れている。フィルム状に加工したETFEは、これらの表面特性を利用して、金型から成型した後のものを取り出しやすくするために金型との間に挟んでおく離型フィルムや半導体モールド工程でのクッション/リリースフィルムとして利用されている。


こうしたETFEが潜在的に持つ多様な特徴の中から、どの部分を際立たせて、応用市場が求める有用な素材を作るのかはAGCの腕の見せどころである。技術的には、Fluon®ETFEの基本骨格である4フッ化エチレンとエチレンの共重合体に、何らかの別のパーツを加えることで、特定の特性を伸ばすことになる。ただしどのようなパーツを加えれば、ETFE本来の特徴を損ねることなく、狙った特性を伸ばせるかは難しい判断だ。フッ素樹脂に関する深い理解と、相応の高度な知見とスキルが必要になってくる。


ただし、AGCならではの技術開発のインフラがある。同社の化学品カンパニーでは、1917年に事業化した板ガラス生産の原料であるソーダ灰の自給を起点として、現在に至るまで技術を継承しながら、より付加価値の高い物質を作り上げる方向へと発展させてきた。そして「VACC(Value Added Chemical Chain)」と呼ぶ製品開発の連鎖を進め、その過程で技術、知見、ノウハウを蓄積してきた。Fluon®ETFEもまた、VACCが発展していく中で生まれた製品であり、応用に適した特性を引き出す際には、VACCの中で体系化、データベース化されてきた知識が強力な武器になる。


さらにAGCでは、社員一人ひとりが保有する専門的知識を登録し、マッピングした「CNA(Cross-divisional Network Activity)」と呼ぶ、社内人材スキルのデータベースを構築している。市場で求められているニーズを把握したら、それを実現するための手段を知っている人材を部門横断的に見つけることができる。つまり、CNAはこれまで取得し、社内で分散保有しているVACCによる知識の連鎖を、有機的につなげて新しい素材やサービスを作り出す仕組みである。これによって、市場のニーズに素早く対応することが可能だ。

圧倒的トップシェアを獲得 そこにある明確な理由

ETFEのビジネスでは、AGCは圧倒的な高いシェアを得ているが、それにはいくつかの理由がある。まず、50年間技術開発を継続してきたことで、品ぞろえが豊富であり、より多くの用途に適用できること。


ベースとして、様々な加工技術で作る部材やパイプなどのライニング、電線の被覆などに応用する高機能で汎用性が高いFluon®ETFEがある。さらに融点が225℃と低く、240℃付近まで低粘度を保ち、Fluon®ETFEよりも約50℃低い温度での加工を可能にした「Fluon®LM-ETFE」を用意している(図3)。より低い温度での加工が可能になることで、他の素材との複合積層の組み合わせの幅が広がり、より汎用的な設備での加工も可能になる。Fluon®LM-ETFEでは、可視域から紫外域まで従来のETFEよりも高い透明性も実現している。


図3 Fluon®ETFEの豊富な品ぞろえ
(左)Fluon®LM-ETFEの応用例、(中)Fluon®LM-ETFE AH Seriesの応用例、(右)Fluon®ETFE FILM

図3 Fluon®ETFEの豊富な品ぞろえ
(左)Fluon®LM-ETFEの応用例、(中)Fluon®LM-ETFE AH Seriesの応用例、(右)Fluon®ETFE FILM

また、フッ素樹脂が持つ非粘着性を維持しながら、接着する能力を付加し、ナイロンなど他素材との溶融接着を可能にした「Fluon®LM-ETFE AH Series」と呼ぶ製品もある。特殊な接着剤や表面処理が不要で、強固な積層成形が可能となる。工程の簡素化による生産性の向上や、樹脂層の薄型化によるコストダウンなど様々なメリットが得られる。


さらに、フィルム状に加工済みの製品「Fluon®ETFE FILM」も提供している。産業用や建築用としては「アフレックス®」、施設農業用としては「エフクリーン®」というブランドで提供している(図4)。

図4 「エフクリーン®」の採用例

図4 「エフクリーン®」の採用例

このほか、シェアを高めている要因としては、50年にわたるETFEビジネスの経験の中で、他社よりも多くの応用事例に携わってきた蓄積があることが大きいという。ユーザーにとっては、ETFEの応用を考えた際に、適用先に最も合ったソリューションと利用法を提示してくれる期待感があるため、真っ先に声をかけるサプライヤーになっている。「AGCは、ETFE以外の樹脂やゴムの製品も保有していますから、適用先をお聞きして、より適した製品があれば代替案を提示することもできます」(山本氏)。


さらに、求められる量の高品質な製品を安定供給できる生産体制を構築し、自動車産業やプラント産業、建設産業といった巨大産業を支える役割を担っている点も見逃せない。AGCは、Fluon®ETFEを日本および英国にて生産している。Fluon®ETFEの用途の中には、自動車のように人命を預かるに足る高い安全性を確保するため、素材の品質の高レベルでの安定が求められる応用がある。このため、生産時には徹底的な高品質化を追求している。

応用市場のパイ拡大に向けてさらに特性改善を目指す

これまでAGCでは、Fluon®ETFEの成形加工性を高めてお客様の使い勝手を改善する方向へと技術開発を進め、豊富な品ぞろえを持つに至っている。これによって現時点での高いシェアを得たFluon®ETFEだが、今後はより多くの応用で利用できる特徴を磨き、応用市場のパイを拡大していく方向に向かう。


既に低い温度での加工を可能にしたFluon®LM-ETFEという製品を販売していることを紹介したが、「さらに低い温度での加工を可能にしてほしいという要望が出ています。現在最も低いもので、180℃での加工が可能な素材を提供できるようになっています。これはとてつもない進歩です。ETFEよりも汎用性が高い樹脂であるポリエチレンと同様の使い勝手で加工できるため、さらに多くの用途でFluon®ETFEを適用しやすくなるでしょう」と山本氏は語る。


また、より長期間にわたる耐久性を実現することも、大きなニーズがある。「Fluon®ETFEを適用することによって、機器や設備などの部品交換のようなメンテナンスが、従来3カ月に1回だったものが、1年もしくは2年に1回に減れば、部品コストや人件費などを低減できます。これは時代の要請だと考えています。いままでFluon®ETFEが使われていなかったところにも適用を広げるとともに、Fluon®ETFE自体の特性もより応用が広がる方向へと改善していく必要があると考えています」(山本氏)。


一般にフッ素樹脂は、原料価格が高価なことから、汎用的に使われている樹脂よりも高コストになる傾向にある。しかしFluon®ETFEは、さらなる特性改善によって機能性を高め、むしろ低コスト化の実現を目指している。近い将来、より身近な場所でFluon®ETFEの貢献を多く目にする日が来るに違いない。

日経クロステック Special 掲載記事

※部署名・肩書は取材当時のものです

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