CPOにおけるマイクロレンズアレイとFAU(Fiber Array Unit)の役割
― 光結合効率を高める設計ポイント

データセンターにおけるスイッチやプロセッサ周辺の通信帯域は、AIワークロードの拡大などを背景に急速に増大しています。こうした帯域需要に対し、従来の電気配線では伝送距離・消費電力の両面で限界が顕在化しており、光インターコネクトへの置き換えが不可欠となっています。Co-Packaged Optics(CPO)は、光エンジンをスイッチASICのパッケージ上に直接搭載することでこの課題に応える技術ですが、システム全体の性能は、単に電気信号を光信号へ変換するだけでは成立しません。変換後の伝送過程における損失、とりわけ光結合部でのロスが、最終的なリンクバジェットや消費電力に大きく影響するためです。

中でも、シリコンフォトニクスチップとFiber Array Unit(FAU)間の光結合は、CPO構成における主要な損失要因の一つです。この界面では、モードサイズや開口数(NA)、位置合わせ精度といった複数の要因が複雑に関係し、わずかな不整合でも結合効率の低下につながります。その結果、高効率な光源やデバイスを用いても、結合部での損失がシステム全体の性能を制約してしまいます。このような背景から、CPOにおいては光結合効率の最適化が極めて重要な設計課題となっています。

CPOにおけるマイクロレンズアレイとFAUの役割

CPOにおける光結合構成の基本整理

シリコンフォトニクスとFAUのインターフェース

CPOにおける光結合は、シリコンフォトニクスチップとFAUとのインターフェースで成立します。この接続方式には主にグレーティングカプラと端面カプラの2種類があり、それぞれ特性が異なります。グレーティングカプラはチップ表面から垂直方向に光を出射するため実装自由度が高い一方、結合効率や帯域特性に制約があります。これに対して端面カプラは水平方向に光を結合する方式であり、高効率かつ広帯域な伝送が可能ですが、高精度な位置合わせが要求されます。

こうした光インターフェースにおいて、FAUは複数の光ファイバーを高精度に配置し、シリコンフォトニクスチップと多チャネルを同時に接続する役割を担います。特にCPOではチャネル数の増加が前提となるため、FAUによる一括結合がシステム全体の実装効率と性能を大きく左右します。

FAUの構造と特徴

FAUは、複数の光ファイバーを一定の間隔で整列・固定するための光学部品であり、その構造には一般的にV溝基板が用いられます。このV溝によりファイバー位置が高精度に規定され、µmオーダーの位置決め精度が実現されます。こうした機械的精度は、そのまま光結合効率に直結する重要な要素です。

また、FAUのファイバー配列は127µmピッチなどの標準規格に基づくことが多く、他の光学部品や実装プロセスとの互換性を確保しています。さらに、使用されるファイバーの多くはシングルモードファイバーであり、その小さなモードフィールド径により高い結合効率が求められる一方、位置ズレやNA不整合に対して非常に敏感です。このため、FAUは単なる保持構造ではなく、光学性能を左右する重要なインターフェースとして設計する必要があります。

マイクロレンズアレイの役割と導入メリット

マイクロレンズアレイの役割と導入メリット

なぜマイクロレンズが必要か

シリコンフォトニクスチップと光ファイバーを直接結合する場合、最も大きな課題となるのがモードサイズの不一致です。チップ側の導波路モードは非常に小さいのに対し、シングルモードファイバーはより大きなモードフィールド径を持つため、そのままでは効率的に光を受け渡すことができません。

また、チップから出射される光は発散しやすく、距離がわずかに離れるだけでもビーム径が広がり、結合損失が増大します。このようなモード不整合と発散ビームの問題を補正するために、マイクロレンズの導入が不可欠となります。

マイクロレンズの基本動作

マイクロレンズは、出射された光を適切なビーム形状に整形する役割を担います。具体的には、発散したビームを収束またはコリメートすることで、結合先のファイバーや導波路に対して最適なモードフィールド径と波面を形成します。これにより、光のモード重なり効率(overlap integral)が向上し、結合ロスを低減することができます。

また、レンズ設計によりビームの開口数(NA)を制御できるため、ファイバー側のNAと整合させることができ、光の取りこぼしや過度な発散を抑えることができます。

マイクロレンズアレイ導入による効果

マイクロレンズアレイをFAUと組み合わせて用いることで、各チャネルに対して最適化された光結合が可能となり、システム全体の結合効率を大きく向上させることができます。さらに重要な点として、レンズによってビーム形状が制御されることで、位置ズレに対する許容度が拡大します。

これにより、厳しいアライメント精度に依存しすぎない設計が可能となり、実装性や歩留まりの改善にも寄与します。結果として、マイクロレンズアレイは単なる効率向上手段にとどまらず、CPOにおける実用的な光結合設計を支える重要な要素となります。

結合効率に関わる主要パラメータ

ピッチ精度

光結合においては、FAUのファイバー配列ピッチ、マイクロレンズアレイ(MLA)のレンズピッチ、そしてシリコンフォトニクスチップ側の光出射位置のピッチが高精度に一致していることが前提となります。

これらのいずれかにミスマッチがある場合、各チャネルで横方向の位置ズレが生じ、ビームの重なりが低下します。特に多チャネル構成ではこのズレが累積的に影響し、全体の結合効率を大きく低下させます。そのため、ピッチ精度は単一部品ではなく、システム全体で整合させることが重要です。

レンズ曲率半径

マイクロレンズの曲率半径は焦点距離を決定する重要なパラメータであり、結合効率に直接影響します。曲率が適切でない場合、ビームがファイバー端面で最適なサイズや位置に収束せず、モードミスマッチが発生します。

過度に収束させるとビーム径が小さくなりすぎて結合効率が低下し、逆に収束が不十分な場合はビームが広がりすぎて光の取りこぼしが増加します。このため、レンズ設計ではファイバーのモードフィールド径と配置位置を考慮した最適な焦点設計が不可欠です。

NA(Numerical Aperture)の整合

ファイバーとレンズのNA整合は、見落とされがちですが非常に重要な要素です。ファイバーのNAに対してレンズから出射されるビームの開口が適切でない場合、光がファイバーに取り込まれず損失となります。

NAが小さすぎると光の一部しか結合されず、大きすぎるとビームが発散して効率が低下します。特にシングルモードファイバーでは許容範囲が狭いため、NA設計は結合効率を左右する支配的なパラメータとなります。

アライメント精度(XY・Z・θ)

光結合では位置合わせ精度も極めて重要であり、横方向(XY)、光軸方向(Z)、および角度(θ)の各ズレがそれぞれ異なる形で結合効率に影響を与えます。XY方向のズレはビーム中心の不一致を引き起こし、Z方向のズレは焦点位置のずれによるビーム径変化を招きます。

また、角度ズレはビームの入射条件を変化させ、特に端面カプラ構成では大きな損失要因となります。これらのズレは単独でも影響を与えますが、複合的に発生することでさらに損失が増大するため、設計段階から許容範囲を考慮したアライメント設計が求められます。

マイクロレンズアレイとFAUの最適設計アプローチ

設計フロー(実務視点)

モード解析

モード解析では、シリコンフォトニクスチップから出射される光のビーム特性を正確に把握します。具体的には、モードフィールド径や発散角、波面形状などを評価し、どのようなビームが外部に出ているのかを定量的に整理します。この段階での理解が不十分だと、その後の設計全体にズレが生じるため、実測や高精度シミュレーションを用いた解析が重要になります。

レンズ解析

次にレンズ設計では、モード解析で得られたビーム特性に基づき、マイクロレンズの曲率半径や焦点距離、配置位置を決定します。ここでは、ファイバーのモードフィールド径やNAとの整合を取りながら、最適なビーム整形を実現することが求められます。単に集光させるだけでなく、アライメント公差も考慮した設計とすることで、実装時のばらつきに強い構成にすることが重要です。

FAU統合

最後にFAU統合では、設計したマイクロレンズとFAUの位置関係やピッチを含めた全体最適化を行います。FAUのファイバー配列とレンズアレイ、さらにチップ側の出射位置との整合を取りながら、各チャネルで安定した結合効率が得られるよう調整します。この工程では、個別要素の最適化ではなく、システム全体としての整合性を重視することが重要になります。

トレードオフ整理

光結合設計では、複数のパラメータが相互に影響し合うため、トレードオフの整理が不可欠です。例えば、結合効率を最大化する設計は一般に許容公差が厳しくなり、製造や実装の難易度が上がります。

また、NAを高く設定すれば光の取り込み効率は向上しますが、その分ビームの発散や位置ズレに対する感度が高まり、アライメント耐性が低下する傾向があります。このように、高効率と実装性のバランスをどのように取るかが、実用設計における重要な判断ポイントとなります。

実装時の注意点

設計段階で最適化された光学特性も、実装工程によって大きく変化する可能性があります。特に接着や封止工程では、材料の収縮や応力によって位置ズレが発生し、結合効率に影響を与えることがあります。

また、温度変動による熱膨張差も無視できず、長期的な信頼性や安定性に関わる要因となります。そのため、光学設計だけでなく、使用材料や構造、プロセス条件まで含めたトータル設計が求められます。実装影響をあらかじめ見込んだ設計とすることで、量産時の性能ばらつきを抑えることが可能になります。

AGCのマイクロレンズアレイは、高精度かつ柔軟な光結合を実現

AGCのマイクロレンズアレイは、複数のマイクロスケールレンズを高精度に集積した光学部品であり、コリメーション、光ファイバーや導波路への結合、光拡散といった機能を実現します。これにより、光学システムの性能向上と集積度の向上に貢献します。

AGCのマイクロレンズアレイ

技術的特徴

サブミクロンレベルの高精度なレンズ形状加工により、優れた光学性能と安定した品質を実現します。さらに、高精度なピッチ制御や数十µmレベルの微細配列に対応し、高密度実装を可能にします。単面・両面構造の選択や反射防止コートにも対応し、光結合効率の向上と設計柔軟性を両立します。

カスタマイズ設計に対応

多列配置やプリズム統合にも対応し、複雑な光学要件や高度なビーム制御を可能にする柔軟なカスタム設計を提供します。