世界市場で勝てる企業の「組織と個人の理想的な関係」とは 世界市場で勝てる企業の「組織と個人の理想的な関係」とは

May.30 2022

世界市場で勝てる企業の「組織と個人の理想的な関係」とは

世界中で独自の素材やソリューションを提供し、成長を続けるAGC。グループ従業員の8割を海外で雇用し、新しい事業開発や組織カルチャーの変革にも積極的に取り組んできた。創業114年の老舗大企業は、なぜチャレンジを続けてこられたのか。
「ダイバーシティ」と「人財」をキーワードに、AGCの代表取締役 兼 副社長執行役員 CFO 宮地伸二氏と、アドビのバイスプレジデント 秋田夏実氏の対話から、日本の大企業が進むべき道を探る。
※本記事では、人を財産と考えるAGCの理念に沿い、人材ではなく「人財」という表記で統一しています。

Profile

秋田 夏実

秋田 夏実

アドビ株式会社 マーケティング本部 バイスプレジデント

東京大学経営学部卒業。1994年メガバンク入行後、米・ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA取得。帰国後、新生銀行、HSBC、シティバンク、マスターカードなどを経て2017年アドビ入社。2018年、日本を含むアジア地域では唯一のバイスプレジデントに就任。アドビのマーケティング担当バイスプレジデントとして、日本のマーケティングおよび広報を統括。

宮地 伸二

宮地 伸二

AGC株式会社 代表取締役 兼 副社長執行役員

高知県出身。上智大学理工学部機械工業科卒業。2011年米国ハーバードビジネススクールAMP修了。精密機器メーカーでITエンジニアとして勤務後、90年旭硝子(現AGC)入社。システム部門勤務を経て経営企画部門に配属され、グループビジョンや中期経営計画策定、カンパニー制導入、ガバナンス改革などを担当。その後、国内関係会社社長、新規事業部門長、経営企画部門長、米国関係会社社長、電子部材部門長など幅広い分野での経験を経て、2016年1月CFOに就任。21年11月現在、代表取締役副社長執行役員CFO CCO、経営企画本部長として、グローバル経営の中核で活躍している。

老舗企業が世界で戦うために、必要なのは「リスクを取ること」
秋田 夏実氏

アドビ株式会社 マーケティング本部 バイスプレジデント 秋田 夏実氏

秋田 日本はモノづくりに強い国でありながら、世界の成長市場で力を発揮しきれていないと言われています。宮地さんは、世界市場で「勝てる企業」「勝てない企業」の違いはどこにあると考えていらっしゃいますか。


宮地 これまで日本の企業は、自動車や家電、あるいは漫画やアニメなどのコンテンツ産業で、まだ世界にはなかったユニークな製品やサービスを生み出してきました。
しかし問題なのは、日本の中だけのクローズドなマーケットに留まってきたことです。人口1億2000万人の国ですから、それなりの規模のマーケットがあるため、“世界に打って出る”企業は多くなかったのです。


カメラ付き携帯電話や液晶テレビ、半導体など、日本が強さを発揮している製品は数多くあったのですが、現在でも世界のトップにとどまっているものはそう多くありません。ルールを作るのが得意な欧米企業や、規模の経済で攻める中国企業に押されてしまったのは否めません。
また、海外のマーケットも含めて主導権を取るためには、グローバルで活躍できる人財も重要です。AGCグループは約8割が海外の従業員で、売上高の7割を海外市場から得ています。
小さくなる日本市場を見越して、世界市場を取りに行く決断をしたからこそ、今日のAGCがあると考えています。


秋田 おっしゃるとおり、海外マーケットを取りに行く際は「リスクを取れるか」は肝だと思います。
VUCAと言われるように、少し先の未来も見通すのが難しい時代。大きな意思決定のためのプロセスを社内で積み重ねている間に、外部環境が変わってしまうこともあります。
ビジネスの現場で何が起きているかを敏感に捉えて経営層に伝え、経営層はそれをきちんと受け止めて素早く判断し、行動することが求められていると思います。
アドビも2012年に、大きなビジネスモデルの転換をしました。パッケージソフトからサブスクリプションの「Adobe Creative Cloud」への移行です。
当時はクラウドがまだ十分に普及しておらず、理解も得られにくい状況でした。またサブスクリプションに移行することで、短期的には財務が悪化することから、当然リスクと考える向きもあったでしょう。
しかし、2011年には30ドル前後だったアドビの株価は、2021年には600ドル台で推移しています。リスクを取ったことは、正しい判断だったと思います。
アドビは創業40周年を迎えます。アメリカのIT企業としては老舗ですが、老舗企業でも「次の成長ステージをどう作るか」を考えて実行することは可能であり、アドビはその好事例であると自負しています。


変革は常に辺境から起きる。組織にダイバーシティが必要な理由
宮地 伸二氏

AGC株式会社 代表取締役 兼 副社長執行役員 宮地 伸二氏

宮地 現在、大きく伸びている大企業は創業者が強いパッションを持って引っ張っている会社が多いですよね。逆に、後を継いだ社長が在任期間中に強いリーダーシップを発揮し、大胆な改革に着手した例はあまり見かけません。
日本の大企業は通常5~6年で社長が変わるので、社運をかけた大きなチャレンジはなかなかできないのが実情なのです。


秋田 そんな中、AGCでは「両利きの経営」に取り組み、組織カルチャーの変革も大胆に進めていらっしゃいますね。後を継ぐ社長でも、思い切った変革ができたのはなぜでしょうか。


宮地 AGCの最近の社長は、大きな事業部出身からではなく、比較的傍流育ちが多いということもひとつの要因かもしれません。
大きな事業部の幹の中で育つと、その中にとどまり続け、動けなくなってしまいます。しがらみが生まれ、大きな変革ができなくなるのです。変革は、常に辺境から起きます。傍流の人だからこそ、思い切った決断ができてきた面はあると思います。

秋田 夏実氏

アドビ株式会社 マーケティング本部 バイスプレジデント 秋田 夏実氏

秋田 たしかに、同質的なバックグラウンドを持つ人財だけで意思決定をしていると、「新しいことをやってみよう、挑戦しよう」というマインドセットにはなり難いですね。
日本企業の「新卒一括採用で同じ釜の飯を食べて……」という結束力は良い部分もありますが、中途採用で入社した人が外様扱いされたり、退職を申し出たら裏切り者のようにみなされたり。
一度辞めた人が復職を希望する場合もあるわけですし、さまざまな人財を柔軟に受け入れていかなくては、もったいないと思います。 企業成長には、多様な人財の知見を取り入れるオープンな組織への変革が必要ですね。

宮地 AGCは「いつも世界の大事な一部」という使命を掲げ、世界中のお客様から最初に声をかけていただける存在でありたいと思っています。
そのためにも、さまざまな国のさまざまなバックグラウンドを持つ優秀な人財を大事にしています。スペインの医薬品受託製造会社の社長や次世代高速通信材料を扱う事業部の部長も、一度AGCを辞めた後、戻ってきてくれた方です。
「人財の引き抜き」を恐れる企業は多いですが、引き抜かれるのは優秀だからこそ。引き抜きを恐れて教育を受けさせないのは、本末転倒だと思います。
また、優秀な人財が辞めないためには「教育を受けさせるタイミングで、成長後のポジションをセットで提示する」ことが大事だと思います。
例えば、海外の大学でMBAを受けて帰国したのに、そこで学んだことを生かせる部署ではなく、国内の営業をさせたら、当然モチベーションは下がってしまいますよね。
ですから、成長した先に、どのポジションを担ってもらうか。成長し続ける人財が輝ける場所を作ることが必要だと思います。


異質人財が出会い「交配の土壌」を作るのが会社の役割

秋田 人財教育は惜しんではいけませんね。個々人のエンプロイアビリティ(雇用され得る能力)を高めるような教育を行うからこそ、多様な人財が集まり、ダイバーシティ&インクルージョンが実現します。
そのうえで、現場も経営層も、自分の意見を言い合えることが大事ですね。


宮地 そうですね。AGCでも、若手と経営層の対話会や、タウンホールミーティングを重ねています。すべては良き風土、良きカルチャー醸成のためです。
我々が求めるのは、「単なる異質な人財」ではなく、「異質を持った強い人財」です。強く、異質な人財同士の出会いが、新しいものを生み出すからです。
ただ、全員が最初から強いわけではありませんので、強い人財になるように育てていく。そのための「交配の土壌」を作るのが会社の役割だと思います。これは種の保存の法則とも同じですね。
良きカルチャーは、交配の土壌を育てるために必要だと考えています。

宮地 伸二氏

AGC株式会社 代表取締役 兼 副社長執行役員 宮地 伸二氏

秋田 会社の本気度はトップの言動を見ればわかりますし、従業員はそれを一番感じ取っていますよね。借り物の言葉や表面的な説明だけでは、魂には全く響かない。経営層が本気でコミットし、粘り強くそれを繰り返し伝え、自ら取り組む姿勢を見せることが重要ですね。


宮地 私は投資効率を考えると、人への投資は一番効率が良いと思います。
例えば、従業員に教育プログラムを受けさせる場合、1年で数十億円単位の予算が必要になることはありません。
AGCでは毎年2名ずつ、ハーバード大学のエグゼクティブ教育プログラムAMP(Advanced Management Program)に人を送っています。1人送り出すのにおよそ1千万円のコストがかかりますが、20年続けても4億円。

そこで学んだ人財が素晴らしいパフォーマンスを発揮すれば、効果は何倍にもなって返ってくるのです。
90年代には、日本の製造業でも多くの企業が、ハーバードのAMPに人を送り込んでいました。しかし、残念ながら景気の悪化とともに、ほとんどの会社がやめてしまったようです。苦しくても、人財への投資だけは続けなくてはいけないと思いますね。

成長のサイクルを作る「組織と個人の理想的な関係」とは

宮地 近年、チャールズ・A・オライリー教授の「両利きの経営」のケーススタディとしてAGCが注目をいただいています。これは大変ありがたいことですが、戦略事業を成長させてきた背景には「事業の見極め」と「我慢」のカルチャーがあったことはあまり語られていません。
今伸びているライフサイエンス事業や電子部品などは、70年代から新規事業として投資を始め、最近ようやく花開いたものです。事業を作ってきた方は、社内からの理解も得られず、チーム解体の危機に追い込まれたこともありました。
それでも強い使命感と情熱を持ち、事業成功のために挑戦し続けてきたのです。
AGCの創業者である岩崎俊彌は「易きになじまず難きにつく」という言葉を唱えましたが、まさにこれを体現する人財がいたからこそ、今のAGCがあるのだと思います。

秋田 夏実氏

アドビ株式会社 マーケティング本部 バイスプレジデント 秋田 夏実氏

秋田 会社が人財にしっかりと投資することで、多様な人財がイノベーションを生み出し、さらに会社は成長する。良いサイクルを一緒に作り、個人は会社の成長や未来を、他人事ではなく、自分事として喜べると良いですよね。
会社に依存するのではなく、その一員として誇りを持って働けるのが、会社と個人の理想的な関係だと思います。


宮地 私の願いは、従業員には楽しく働いてほしい。言われるままに働くのではなく、自分で考えて実現し、達成感を得てほしいのです。
AGCが掲げるブランドステートメント”Your Dreams, Our Challenge”も、チェコで働くグループ従業員の一人が考えたものです。いつの時代も人々の生活を豊かにするために挑戦していく。
昨日より少しでも良くなるために、チャレンジする。

そんな人財を育成し、チャレンジを許容するカルチャーをこれからも大切にしていきたいと思います。

NewsPicks Brand Design 掲載記事

※部署名・肩書は取材当時のものです

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