レンズの応用事例

非球面ガラスモールドレンズ

非球面レンズとは、球面や平面ではない曲面からできているレンズで一つの面に異なる複数の曲率半径を持っています。カメラなどのレンズユニットは、複数のレンズを組み合わせて作られますが、球面レンズは周辺部に入射した光ほど手前で結像してしまうため焦点位置に幅ができ像がぼやけるという問題があります。これを収差といい、補正するには何枚かの球面レンズを組み合わせる必要があり、使用するレンズ枚数が増えてレンズユニットが大きくなりコストも上ります。非球面レンズは一枚で収差の補正ができ、焦点距離も短くすることができるため、レンズユニットの小型軽量化とコストダウンが実現できます。また、材料にガラスを使うことで、ガラスの光学特性や耐候性、安定した温度特性などの優れた特徴を生かすことができ、製品のバリエーションや適用できる範囲を大きく広げることができます。

カメラレンズユニットは、複数のレンズを組み合わせて設計されます 球面レンズを用いた場合は、収差があるため像がぼやけます。非球面レンズを導入することで中心と通る光線と外側を通る光線が同じ位置で結像させることができます。
収差とは:「中心(光軸)以外を通る光の影響」のことです。例えばレンズの中央から入ってくる光と、レンズの端から入ってくる光の焦点がずれてしまう、画像で言えばいわゆるピンボケになる状態になる性能を示します(球面収差)。この収差にはいろいろな種類があり、非点収差、球面収差、像面収差、歪曲収差、コマ収差、色収差などがあります。

非球面ガラスレンズの製造方法は球面レンズの製造方法と異なります。球面レンズは、主に研磨で作られていますが、非球面は研磨で形成することが難しい形をしているため、研磨ではなく、非球面の形の金型に、ガラス材料(プリフォーム)を入れ、加熱して軟化させた後、プレスをするという量産性の優れた「ガラスモールド成型技術」を使って製造されます。プリフォームには研磨ボール、ファインゴブ、研磨プリフォームなどの数種類がありますが、それぞれ特徴がありますので、用途に応じて使い分けています。

プリフォームを使ったガラスモールドレンズを量産するには、モールドに使う金型の作製からはじまります。金型材料を加工し、成型に使う面を再現性良く非球面形状に仕上げます。その後、プレス成型にはいっていきます。金型の加熱においては、非常に高度な光学特性が要求される撮像系のレンズ部品では、ガラスと金型の温度が同じ状態で成形する等温プレス法が用いられます。一方で、そこまでの厳密な光学特性が要求されない場合は、高温のガラスを少し温度の低い金型で成型する非等温プレス成型が用いられます。
等温プレス法では金型の温度を徐々に上げていき、型とガラスの温度が同一となった条件下において加圧成型され、そのまま冷却されてから離型して製品が取り出されます。温度管理は非常に重要で、アニール処理とも呼ばれますがレンズ内部の応力が残らないように厳密に制御されます。取り出されたレンズは、外形加工がされ、仕様に応じて反射防止膜などがコーティングされてから商品となります。
モールドプレス成型は、精密金型の加工技術とプロセス技術が非常に重要で、レンズに使われるガラスの組成、仕様やサイズによっても、条件を個別に最適化していく必要があります。量産においては、高価なカメラ1台1台への特性に影響するために、時には数百万以上となる個数の1つ1つのレンズを丁寧に生産していく必要があります。
レンズとひとことにいっても、材料、製法の選定、プロセス開発から量産での品質管理まで考慮することは非常に多岐にわたり開発期間もかかりますが、AGCでは長年培った技術とノウハウで、開発期間の短縮や、お客様からの様々なニーズに応じた製品を提供することが可能となっています。

図. プリフォームを金型でプレスしてレンズ形状へ加工します