脱炭素社会構築に向けて

基本的な考え方

 AGCグループは、気候変動を企業価値および事業戦略の重要な決定要因と位置付け、リスクと機会の両面から対応を進めています。また、地球環境の変化が社会に及ぼす 影響を踏まえ、技術革新と事業活動を通じた貢献が重要であると認識しています。中期経営計画AGC plus-2026のもと、「Blue planet」「Innovation」「Wellbeing」という3つの社会的価値を軸に、持続可能な社会の実現を目指しています。 特に「Blue planet」では、気候変動対策や資源の有効活用を推進し、環境負荷低減 と事業成長の両立を図っています。

ガバナンス

 AGCグループは、気候変動などの環境課題を経営上の優先テーマと捉え、取締役会 を中核とするガバナンス体制を整備しています。また、CEOを委員長とするサステナ ビリティ委員会で、気候関連リスク・機会を定期的に審議・判断しています。さらに、実務面を担う環境対応会議を通じて、リスク管理と価値創出を推進しています。こう した枠組みにより、持続可能な成長と説明責任の両立を図っています。

取締役会を中心とした監督・管理

 AGCグループは、気候変動を企業価値に関わる重要課題と位置づけ、取締役会を中核とする監督体制を構築しています。気候関連の評価や方針は年2回報告し、戦略判断と連動して検討しています。委員会や会議の審議結果は経営判断に反映し気候対応を競争力に結びつけています。

経営陣・執行の役割

  • サステナビリティ委員会
    サステナビリティ委員会は、環境関連リスク・機会への対応を担う最高責任機関です。CEOを委員長とし、CFO、CTO、監査役、全部門長が出席し、年4回開催します。方針や目標の審議、進捗確認、シナリオ分析などを行い、年2回以上取締役会へ報告し経営と環境の橋渡しを担います。
  • 環境対応会議
    環境対応会議は、サステナビリティ委員会の方針のもと、環境課題の分析と施策を担う実務会議体です。担当役員が主導し、事業部門やコーポレート部門が参加します。年8回の会議とテーマ別プロジェクトを通じてリスク対応を進め、必要に応じて経営層へ提言します。

役員報酬の評価指標

 「サステナビリティ経営の深化」を目指すAGC plus-2026においてScope1, 2GHG排出量売上高原単位を、CEOを含む取締役および執行役員に対する株式報酬算定の指標として追加しました。この指標は、ROE、EBITDA、相対TSRといった財務KPIとともに報酬体系に組み込まれ、経営陣が気候変動対応を含めた持続可能な企業価値向上に取り組むインセンティブを強化しています。

戦略

 AGCグループは、気候変動が事業に及ぼす短期・中期・長期の影響を評価するため、 産業革命以前からの気温上昇を1.5℃以下に抑えるネットゼロ・エミッション2050年 実現シナリオ(Net Zero Emissions by 2050 Scenario、以下「NZEシナリオ」)、有志国が宣言した 野心を反映した表明公約シナリオ(Announced Pledges Scenario)および気温上昇4℃前後のRCP8.5シナリオ等を活用し、炭素価格・規制強化といった移行リスクと自然災害・気温上昇といった物理的リスクを定量・定性の両 面から分析しています。

リスク

  • 移行リスク
    AGCグループは、移行リスクの評価において、NZEシナリオにもとづき、社会経済への影響を分析しました。このシナリオでは、炭素価格の変動やエネルギー・原材料コストの影響を試算し、脱炭素規制の強化や低炭素製品市場の拡大が事業に与える影響を評価しました。また、低炭素技術の進展や市場変化といった脱炭素社会への移行による新たな機会として、GHG排出量削減技術や環境負荷低減に貢献する製品・ソリューションの市場拡大が、当社の成長機会につながる可能性を評価しています。
  • 物理的リスク
    AGCグループは、気候変動に伴う洪水、高潮、渇水等の水リスク、豪雨、台風、落雷等の自 然災害、気温上昇による事業影響を評価しています。これらのリスクは、操業停止や物流機能 の断絶を引き起こし、売上の低下や対策によるコストの増加につながる可能性があります。特に中長期リスクに関しては、シナリオ分析を用いた詳細評価を実施し、産業革命以前か らの気温上昇を基準とした4℃前後の RCP8.5 シナリオをもとに、自然災害が製造拠点へ与える影響を分析しました。

ビジネス・戦略・財務計画への影

・移行リスク

1、政策・法規制:炭素規制強化による事業コストの上昇と適応負担の増加

 AGCグループでは、各国・地域のカーボンプライシング政策の影響を評価しています。Scope1, 2GHG排出量が現状維持の場合、2030年時点の炭素価格上昇により、最大で年間1,000百万米ドル(約 1,500億円)の追加コストが発生する可能性があります。この試算は、2023年時点のGHG排出量をもとに、各国の政策動向や炭素価格の見通し(例:EU ETSで 2030年に100ユーロ/t-CO2以上)を反映しています。

▶政策・法規制リスクへの対応策

 こうした移行リスクの影響を緩和するため、AGCグループでは以下の取り組みを進めています。

  • フロートガラス溶解窯における燃料転換・酸素燃焼・電化等
  • クロールアルカリ電解設備における電力原単位削減・再生可能エネルギー導入
  • 投資判断におけるインターナルカーボンプライシング活用
  • シナリオ分析と炭素効率にもとづく事業ポートフォリオ評価

 また、AGC plus-2026では、Scope1, 2GHG排出量削減を目標に500億円以上の投資を計画し、低炭素社会への移行を加速させています。

2、技術:低炭素技術の進展に伴う競争優位性の変化と適応コストの増加

 市場の脱炭素化が進む中、企業にはGHG排出量削減が求められ、設備投資の増加や事業 コスト上昇のリスクが高まっています。エネルギー転換と低炭素技術導入に伴うコスト増を、グループ全体に影響を及ぼす要因として特定しました。これには、化石燃料代替の直接コスト増、 低炭素技術開発への投資負担、再生可能エネルギー・省エネ技術導入コスト増が含まれます。

▶技術関連リスクへの対応策

 こうした移行リスクの影響を最小限に抑えるため、AGCグループでは以下の対策を実施しています。

  • 事業ポートフォリオの見直しによる低炭素事業の拡充
  • Scope1, 2GHG排出量削減投資
  • インターナルカーボンプライシング制度の活用による削減技術開発のインセンティブ強化
  • 再生可能エネルギーの導入と省エネ技術の実装

 また、AGC plus-2026では、Scope1, 2GHG排出量削減に向け500億円以上の投資を計画し、低炭素技術の開発と設備導入を推進しています。

3、評判:ステークホルダーからの評価・訴訟リスク

 気候変動対応に関する情報開示は、解釈の違いによるステークホルダーからの苦情や、それに伴う対応リスクを伴う可能性があります。また、AGCグループの気候変動対応が不十分と 判断された場合、投資家をはじめとしたステークホルダーからの訴訟リスクが発生する可能性も考慮しています。特に、有価証券報告書における気候変動関連リスクの記載については、財務や事業活動への影響が誤解を招く表現と見なされるリスクがあるため、慎重に評価を行っています。

▶評判リスクへの対応策

 AGCグループでは、気候変動対応に関する情報開示の適正化とリスクの最小化を図るとともに、各国の気候変動関連情報開示のルールにも適切に対応しています。

  • TCFD提言に準拠した透明性の高い情報開示
  • 各国の法規制や情報開示基準に準拠した適正なリスク評価と情報精査
  • 開示内容の一貫性確保による誤解の防止
  • ステークホルダーとの対話強化による信頼向上

4、市場:気候変動対応による需要変動

 社会における気候変動対策の進展により、低炭素製品・再生可能エネルギー関連市場の拡大が進む一方で、従来の高炭素製品の需要縮小が予想されます。また、顧客の脱炭素戦略や環境規制の強化により、製品選定基準が変化し、市場競争が激化する可能性があります。さらに、カーボンフットプリントの多い製品や原材料の取引コスト上昇や、炭素規制の影響を受ける市場での競争力低下が懸念されます。これらの要因が、AGCグループの売上や利益に影響を与える可能性があるため、市場リスクを評価し、適切な対応を進めています。

▶市場リスクへの対応策

 AGCグループでは、気候変動に伴う市場リスクに対応し、事業競争力を維持・向上するため、以下の施策を推進しています。

  • 低炭素・環境配慮型製品の開発・販売強化による需要変化への適応
  • カーボンフットプリントの少ない製品ポートフォリオへのシフト
  • 顧客の脱炭素戦略を踏まえたソリューション提案の強化
  • カーボンフットプリント管理の強化と透明性の高い情報開示

急性の物理的リスク

 AGCグループでは、洪水・高潮・渇水による物理的リスクを長期的な経営課題として評価しています。特に、アジア地域にリスクが集中しており、以下の財務影響を推定しています。

洪水リスク 高リスク拠点の数:アジア 15拠点、欧州 2拠点、米州 1拠点
2050年時点の最大想定被害額:200億円
年平均想定被害額(100年に 1度の発生確率を前提とした試算):2億円

高潮リスク 高リスク拠点の数:アジア 3拠点
2050年時点の最大想定被害額:20億円
年平均想定被害額:0.2億円

渇水リスク 高リスク拠点の数:アジア 17拠点、欧州 3拠点、米州 1拠点
生産プロセスや原材料調達への影響に懸念がある。

 また、サプライチェーンにおける物理的リスクも重要な課題として評価しています。具体的には、一部の原材料が偏在資源に依存していることや、当社の拠点位置によっては輸送距離 の制約からリードタイムが長期化すること、さらには水リスクが懸念される地域のサプライ ヤーから調達しているケースが挙げられます。また、紛争などの地政学的リスクを考慮すべき調達アイテムも存在しており、これらが供給網の脆弱性を高める要因であると認識しています。

▶急性の物理的リスクへの対応策

 AGCグループでは、物理的リスク評価結果を踏まえ、以下の対応策を推進しています。

  • 自社拠点に対する対策
    事業継続計画の整備:風水害に備えた標準対応策の策定
    ハード対策の強化:防水壁・排水ポンプの導入、浸水防止策の実施
    保険の活用:風水害による損害を補償する保険の加入
  • サプライチェーンに対する対策
    サプライチェーンの複線化:調達先の分散化・代替調達ルートの確保
    在庫戦略の最適化:製品・原材料の在庫積み増しによる供給リスクの低減
  • 長期的なリスク管理の強化
    現在、グループ全体として長期的な物理的リスク対応のPDCAを回す仕組みや運用ルールの整備を進め、統合的なリスク管理の強化を図っています。

慢性の物理的リスク

 AGCグループは、気温上昇、降水量の変化、水資源の確保といった慢性の物理的リスクが、 ガラスおよび化学品事業の製造プロセスや原材料調達に一定の影響を及ぼす可能性があると 認識しています。しかし、これらのリスクは適切な管理を通じて抑制可能であり、事業の安定性 を維持できると判断しています。

▶慢性の物理的リスクへの対応策

 当社は、製造拠点の管理、エネルギー効率の向上、原材料供給の多様化を進めることで、慢性の物理的リスクへの対応力を強化しています。また、水資源の持続的活用や生産体制の最適化を通じて、リスク対応の柔軟性を確保しています。

機会

 AGCグループは、NZEシナリオにおいても事業機会が拡大すると考え、信頼性の高い第三者機関の市場予測を活用しながら、製品市場の変化を分析し、事業計画に反映しています。NZEシ ナリオにおいては、脱炭素市場の拡大が加速すると予測しています。例えば、リノベーション比率は2倍に増加し、水電解装置の累積設置容量は5.2GWから558GWへと大幅に拡大します。さらに、低GWP冷媒の市場規模は2030年までに現在の2.2倍へと成長し、EVの販売台数も3.2倍に増加すると見込まれています。これらの動向は、建築、自動車、化学品分野における次世代低炭素技術の普及を加速させ、AGCグループの製品競争力を高める要因となります。

▶機会実現のための施策

 AGCグループは、AGC plus-2026 においてGHG排出量削減貢献製品の拡販に向けた300億円以上の投資を計画しています。特に、建築、自動車、化学品分野における低炭素技術の開発を加速し、脱炭素社会の実現に貢献する製品ポートフォリオの強化を進めています。
 さらに、エネルギー効率の向上を実現する技術開発や低炭素技術の適用拡大を進め、グローバルな供給網の強化を通じて、安定した製品供給と市場の変化に対応する柔軟な事業基盤を構築しています。

シナリオにもとづく戦略のレジリエンス

 AGCグループは、異なる気候シナリオのもとでも持続可能な成長を確保するため、事業戦略の適応力(レジリエンス)を強化しています。移行リスク・物理的リスクの双方に対応し、事業の 競争力と財務の安定性を維持するため、以下の戦略を推進しています。

1.ポートフォリオの適応力強化

 ガラスおよび化学品事業において、脱炭素社会の進展に対応した低炭素技術の開発と製品ラ インアップの拡充を進めています。特に、高断熱ガラス、ZEV(排出ゼロ車)向け部材、グリーン冷媒・溶剤といった低炭素製品の市場成長ポテンシャルを活用し、気候変動問題解決への貢献と事業ポートフォリオ強化の両立を図ります。

2.財務の耐久性確保

 各国・地域における炭素価格の上昇に対応するため、省エネ技術の導入やエネルギーコスト低減策を推進しています。それに向け、AGC Plus-2026 では、GHG排出量削減貢献製品の拡販に向けた 300億円以上の投資を計画しています。

3.技術革新による適応力の向上

 長期的な気候変動リスクに備え、水素関連技術やエネルギー効率の高い製品の開発を推進し、市場競争力を強化しています。これにより、どのようなシナリオにおいても事業の継続性と成長を確保できる体制を整えています。

4.ルール形成の取り組み

 AGCグループは、低炭素社会の実現に貢献する製品の開発と並行し、国際的なルール形成にも積極的に参画しています。標準化の主導を通じて市場拡大を促進し、規制対応を先行することで競争優位を確立することを目指しています。

5.技術投資

 AGCグループは、マイルストーン達成に向けて、ガラス溶解プロセスの技術革新、クロールアルカリ事業の電力源の再生可能エネルギーへの転換等を進めています。また、フロートガラス溶解窯からの GHG 排出量削減に向けた技術実装戦略を推進しています。2050年までのエネルギー価格・炭素コストシミュレーションを活用し、低炭素技術の経済合理性を評価するとともに、グローバルな技術展開とリソース最適配分を進めることで、長期的な競争力強化を図っています。

大分類 リスク・機会 シナリオ 財務インパクト 対応策
移行リスク 炭素価格の上昇 先進国:140米ドル/t-CO2
新興国:90米ドル/t-CO2
(2030年/NZE(1.5℃)*1)*2
最大1,041百万米ドル/年
※2023年排出量レベル(Scope1+2)が不変の場合
※各国・地域のカーボンプライシング導入可能性を勘案(連結/20303年/NZE(1.5℃))3
●フロートガラス溶解窯における燃焼てんかん・酸素燃焼・電化等
●クロール・アルカリ電解設備における電力原単位削減・再生可能エネルギー導入
●投資判断におけるインターナルカーボンプライシング活用
●シナリオ分析と炭素効率に基づく事業ポートフォリオ評価と転換
物理的リスク 突発災害
(洪水)
2050/RCP8.5(4℃)*3 3.6億円/年(国内外18拠点) ●洪水対策設備の導入
機会 建築物リノベーション市場 2030年/APS(2℃未満)*4 リノベーション比率が2倍に増加(欧州/2030年) ●高断熱・リサイクル性に優れた窓ガラスの販売
●建材一体型太陽光発電ガラスの販売
次世代冷媒・溶剤市場 2030年/APS(2℃未満) 低GWP冷媒の市場規模が2030年頃には現在の2.2倍に拡大 ●環境対応型次世代冷媒・溶剤の販売
水素市場 2030年/NZE(1.5℃) 水電解装置設置容量(累計)が増加(5.2GW→558GW) ●水素製造・使用に関する素材の販売

リスク管理

 AGCグループは、気候関連リスクを経営の重要課題とし、統合的な管理体制のもとで評価・対応しています。シナリオ分析を活用し、経営レベルで監督・管理を行い、PDCAサイクルを通じて継続的に改善しています。 AGCグループは、「AGCグループリスク管理実施規程」にもとづき、短期・中期・長 期の視点で気候関連リスクを特定・評価しています。環境部門、リスク管理部門、事業部門が連携し、サプライチェーンおよびバリューチェーン全体を対象に、発生可能 性や影響度を評価しています。

リスク管理プロセス

 気候関連リスクの評価は、移行リスクと物理的リスクの両面から実施しています。移行リスクに ついては、SBTiの排出削減基準を参照し、各国のカーボンプライシング政策や規制動向を考慮した複数のシナリオを用いて分析しています。2030年および 2050年の炭素価格の変動を想定し、事業コストへの影響を定量的に評価することで、リスクの大きさを測定しています。また、外部市場データやエネルギー価格シミュレーションを活用し、低炭素技術の普及が事業に与える影響を検討しています。 物理的リスクの評価では、RCP8.5 シナリオを活用し、洪水・高潮・渇水等のリスクを自社拠点ごとに分析しています。リスクの高さを 5段階で定性的に評価し、特に洪水・高潮については、拠点立地情報や「Aqueduct Floods*」のデータをもとに2050年時点の浸水リスクを試算し、被災時の操業停止日数を考慮した財務影響を定量化しています。これらのリスク評価にもとづき、重大な移行リスクに対しては、製品ポートフォリオの見直しや再生可能エネルギーの導入を推進しています。物理リスクに対しては、調達先・生産拠点の見直し、事業継続計画(BCP)の更新、保険の活用など、リスク低減および移転策を検討しています。評価結果は毎年見直し、必要に応じて評価手法や対象範囲の拡充を進めています。リスクの特定・分析結果は、サステナビリティ委員会で議論され、経営会議に報告の上、意思決定に反映します。各事業部門は拠点ごとにリスク評価を行い、統合リスクマネジメントの枠組みのもとで継続的なモニタリングを実施しています。 * Aqueduct Floods: WRI(世界資源研究所)が提供する、現在および将来の気候条件下における洪水・高潮の浸水深データベース

全社リスクマネジメントへの統合

 AGCグループでは、統合リスクマネジメントの枠組みのもと、3年ごとに気候変動関連リスクを評価し、重要なリスク要因を選定しています。特定されたリスクは、「AGCグループ統合リスクマネジメント基本方針」に則り、経営会議および取締役会で監督・審議され、全社的に対応しています。また、「AGCグループリスク管理実施規程」にもとづき、コーポレート部門、社内カンパニー、戦略事業ユニット(SBU)が環境関連の重要リスクに対する管理計画を策定・実行しています。各組織は、年度末にリスク管理レベルの自己点検を行い、結果を経営陣がモニタリングすることで、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを確立し、継続的な改善を推進しています。 加えて、内部監査部門が独立したモニタリングを実施し、リスク評価プロセスの妥当性や管理状況を定期的に検証しています。これにより、リスク管理の透明性と実効性を確保しています。さらに、リスク評価の精度向上を目的として、リスク評価ツールの更新や評価結果の見直しを毎年実施しています。

指標・目標

 AGCグループは、「サステナビリティ経営の深化」を目指すAGC plus-2026 の開始に伴い、気候変動対応を含むサステナビリティKPIを新たに設定し、戦略的な進捗管理を強化しています。リスクと機会の評価指標として、従来取り組んでいるGHG排出量の削減目標と、環境・エネルギー分野における貢献製品の成長指標を管理し、経営の意思決定に反映しています。

リスクと機会の評価指標

・リスク

 AGCグループはScope1, 2, 3GHG排出量をKPIとして管理し、脱炭素社会の実現に向け た取り組みを進めています。当社の2030年のGHG排出量削減目標は、SBTiから「Science Based Targets(SBT)」の2℃を十分に下回る水準(Well-below 2℃)」と認定されています。

Scope1, 2
 AGC グループは、2050年カーボン・ネットゼロ*1 を目指し、2030年に 2019年比で 30%削減*2 をマイルストーンとしています。
また、2030年にScope1, 2 のGHG排出量を2019年比で売上高原単位50%削減する目標を掲げ、持 続可能な事業運営の実現に取り組んでいます。
*1 Scope1+2 *2 2030年の電力排出係数は、IEA(International Energy Agency)が公表したSustainable Development Scenario をもとに設定
Scope3
 Scope3GHG排出量の約 7割を占めるカテゴリ1(購入した製品・サービス)、カテゴリ10(販 売した製品の加工)、カテゴリ11(販売した製品の使用)、カテゴリ12(販売した製品の廃棄) について、2030年に 2019年比で 30%削減を目標としています。また、2027年にカテゴリ1, 3 のGHG排出量の30%を占めるサプライヤーにSBT認定の取得を促すエンゲージメント目標を設定し、バリューチェーン全体での排出削減を推進しています。

・機会

 AGCグループは、気候変動問題の解決を新たな成長機会とも捉え、環境・エネルギー分野の関連製品の拡大を推進しています。現在、環境・エネルギー分野の関連製品の売上はグループ 全体の約 10%を占めており、今後もAGCグループの技術力を生かしてGHG排出量削減に貢献する領域を拡大していきます。
 AGC plus-2026 におけるサステナビリティKPIの一部として以下を設定し、気候変動対応による価値創出を可視化しています。これらの指数は、2022年を基準(100)とし、2023年以降 の成長を継続的にモニタリングすることで、製品を通じた社会的価値の創出を加速しています。

  • 建築用ガラス製品:「製品の出荷数量指数」をKPIとし、エネルギー効率の高い高断熱ガラ スの普及を加速
  • 化学品の低GWP製品:「GHG排出削減貢献」をKPIとし、低GWP冷媒・溶剤の市場成長 を推進

Scope1, 2 およびScope3GHG 排出量の状況と削減方針

Scope1, 2
 AGCグループのScope1, 2GHG排出量の約 99%は、ガラス事業(建築・自動車)、電子事 業、化学品事業に由来しており、ガラスおよび電子事業と化学品事業の排出割合はおよそ50%ずつとなっています。

ガラス事業および電子事業
 ガラスおよび電子事業で運転するガラス溶解窯が Scope1, 2GHG 排出量の約70%を 占め、その電化・クリーン燃料化が最重要課題です。AGCグループは、各国の電力GHG排出係数の予測をもとに戦略を策定し、地域ごとに最適な施策を実施しています。

  • 欧米地域:電力の脱炭素化が進むため、電気ブースター(通電補助加熱)の導入を優先
  • アジア地域:電力脱炭素化の進展が比較的遅いため、省エネ技術の導入を先行
 長期的には、ガラス溶解窯における排出削減のために、低炭素燃料の導入を拡大し、廃ガラスのリサイクルを強化することで、原材料由来の排出を低減します。また、ガラス溶解窯 の運転に伴い発生するCO2可能性を積極的に検討していきます。

化学品事業
 化学品事業では、Scope1, 2GHG排出量の大半がクロールアルカリ電解設備の運転によるもので、排出量の約40%は自家発電設備に、残りの約 60%は外部から購入する電力 に由来しています。これに対し、化学品製造拠点では市場における再生可能エネルギー供給 の拡大を見据えながら、複数の施策を展開しています。また、外部からの電力購入におい ては、再生可能エネルギー由来の電力調達を拡大し、契約の長期化による安定確保を進めています。さらに、省エネ型電解槽への転換を進め、エネルギー効率の向上を目指します。

Scope3
 AGCグループのScope3GHG排出量の約7割は、カテゴリ1(購入した製品・サービス)およびカテゴリ 10~12(販売した製品の加工・使用・廃棄)によるものです。これらの排出削減 には、バリューチェーン全体での協力が不可欠であり、取引先企業との連携強化を重視しています。

バリューチェーン全体での排出削減戦略
 Scope3GHG排出量の削減に向けて、サプライヤーとのエンゲージメントを推進し、主要な排出源削減努力を促進しています。具体的には、以下の取り組みを進めています。

  • サプライヤーのSBT取得支援:取引先企業に対し、排出削減目標のSBT認定取得を促し、サ プライチェーン全体の脱炭素化を推進
  • 原材料のGHG排出量データ収集:アンケート調査を通じて各原材料の一次データを収集し、 材料供給元の削減努力を定量的に評価
  • サプライチェーン全体での排出量の可視化:より正確なScope3GHG排出量測定を行い、 製品ごとの環境影響評価を強化

カテゴリ別の重点施策

カテゴリ1(購入した製品・サービス)
 原材料調達におけるGHG排出量削減を促進するため、低炭素素材の活用やリサイクル材の導入を進めています。

カテゴリ10~12(販売した製品の加工・使用・廃棄)
 製品の使用段階におけるGHG排出削減のため、高断熱ガラス、ZEV向け材料、低GWP冷媒・ 溶剤等の環境配慮
 型製品の開発と市場投入を強化しています。さらに、製品のリサイクル技術 開発を推進し、ライフサイクル全体での環境負荷低減を目指しています。