近年、ADAS/自動運転やAR/MRグラス・スマートフォンなどのコンシューマエレクトロニクスで、LiDARという言葉を耳にすることが増えてきています。ここではLiDARの構造やアプリケーションと、そこで使われるAGCの製品について説明していきます。LiDARで使う光はレーザーです。レーザーは自然光と異なり、光の波の周期が揃ったコヒーレントな光です。そのため、指向性、単色性、可干渉性、制御性、高いエネルギー密度といった自然光にはない性質をもっています。LiDARでは、広範囲と長距離に高い検出感度を実現するためにレーザー光の特徴を活かした様々な方式が提案されており、AGCでも多様化するニーズに対応するため様々な光学部品を扱っています。

LiDARの構造と原理

LiDAR(Light Detection and Ranging)はレーザー光を対象物に照射して、反射して戻る光を検知する測距センサーの一種です。光が出射されてから戻ってくるまでの時間を測定するToF(Time of Flight)方式が主流ですが、この方式では、光が1秒で約30万km進む性質を利用して、レーザー光が対象物で散乱して返ってくるまでの往復時間を測ることで距離を計算します。他にも単純に対象物との距離を測定する三角測距方式などもあります。従来から、建設分野での3D測量や掃除機ロボットなど広く使われていますが、近年はADAS/自動運転やAR/MRグラス・スマートフォンなどで周囲の3Dマッピング計測のニーズが高まり、LiDARが大きく注目を集めています。
LiDARは機械やデバイスの目となるものですが、多くの場合は近赤外線をつかっているために人の目には見えません。光源にはレーザーをつかっています。そのためコリメートされた光が発散せずに真っすぐに飛ぶことができます。太陽光や室内の光がノイズとなってしまうものですが、単色性が高くピーク光強度の大きい光を使っているために必要のない光をフィルターでカットすることで検出感度を高くすることができます。また、検出に使う光に変調をかけておくことで、反射して戻ってきた光を識別できるようになります。このようにLiDARはレーザー光の指向性、単色性、可干渉性、制御性、高いエネルギー密度といった基本的な性質を利用したデバイスとなっています。

LiDARの構成。エミッター側から人の目には見えない近赤外線の半導体レーザー(NIR-LD)を照射し、レシーバー側で反射光として戻ってきた光をセンサーで検出します。検出エリアを広げるためにレーザー光を空間的に拡げる方法が種々提案されています。AGCではLiDARに使われるレンズやDOE・拡散板、光学フィルターといった光学部品、半導体レーザーパッケージ基板、赤外線透過率の高いカバーガラスなどの製品を取り扱っています。

図はLiDARの方式を光の照射方式で分類したものです。LiDARではレーザーの照射と、反射光の検出を繰り返して空間的に周囲をスキャンしながら3Dマッピングを作成しますが、そのためにはレーザー光を広い角度範囲に照射する必要があります。
大きく分けるとコリメートされた直進光を走査するスキャン方式と、広い範囲に一度に光を照射する非スキャン方式に分類されます。スキャン方式では、内部に駆動部が設けられており、筐体ごと回転する方式や、内部でポリゴンミラーが回転する方式があります。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式では、微細加工技術によって作製された微小ミラーを電磁力で駆動し、入射した光の進行方向を制御してスキャンします。光の位相を変調して進行方向を制御するオプティカルフェーズドアレイ方式も提案されています。非スキャン方式は、レーザー光源からの光を光学素子で広げて、大きな角度範囲を一度に照射するフラッシュ方式があります。もちろんこれらの方式で厳密に分類されるものではなく、複数の方式を組み合わせることや、新しい方式も提案され続けています。
測定をする角度範囲は、筐体ごと回転する方式では周囲を360度計測することができます。それ以外のポリゴンミラーや、MEMS、オプティカルフェーズドアレイ、フラッシュなどの方式の場合は光が照射される角度範囲は光学系によりますが、180度よりは小さくなりますので目的に応じて方式は選択されます。測定対象となる距離は数センチメートルから数百メートルと測定対象によって異なります。いずれの方式でも可動部を極力減らして、効率よく広範囲に光を走査することがLiDARでは重要となります。

LiDARの応用

LiDARの注目されるアプリケーションの例としてADAS/自動運転や、AR/MRグラス・スマートフォンなどのコンシューマエレクトロニクスがあります。ここでは、それぞれの分野においてのLiDARや関連するAGC製品について紹介しています。DOE・拡散板と半導体レーザーパッケージ基板(GCHP®)についてさらに詳細を後述しています。

ADAS/自動運転

LiDARは測距されたデータ(点群)を3Dマッピングすることで周囲の状況を高分解能で把握することができます。ADASにおいては、前方の車間距離計測や、障害物の検知に使われます。
自動運転においては、車は道路(実際はあらかじめ測定された3Dマップ内の道路)を走行しています。この3Dマップ内で車自身が現在走行している位置を正確に把握するには、360°回転式のLiDARが用いられています。道路や周辺建物などを含む全周囲の既知の3D情報と、取得した情報を照合して、3Dマップ内の道路において正確な位置を推定することができます。
太陽光や他のセンサーとの干渉、雨や霧などの影響など課題もありますが、新しい方式の開発や、Radar、カメラなどの他のセンサーとの組み合わせにより、様々な状況においても対応できるように多くのセンサーを搭載することが多くなっています。AGCではLiDAR部材やADASに使われる様々な製品をラインナップしています。

ADAS/自動運転で適用されるAGC製品。LiDAR・インキャビンセンシング(ドライバーの状況などのモニタ):レーザー光を空間的に集光、拡散、多分岐させるためのDOE・拡散板やレンズ、赤外線透過率の高いIRパスカバーガラス、光学フィルター、半導体レーザー用パッケージ基板(GCHP®)が適用されます。周辺環境認識には、可視光カメラも高解像度化や、ナイトビジョンカメラの採用が進むことも期待されていますが、非球面ガラスモールドレンズ、IRカットフィルタ―、カルコゲナイドガラスモールドレンズ、などを扱っています。

コンシューマエレクトロニクス

LiDARのもう一つの注目されるアプリケーションはAR/MRグラスです。ARやMRはそれぞれAugmented Reality(拡張現実)、Mixed Reality(複合現実)の略であり、現実世界に、デジタル情報の映像を重ね合わせて表示します。通常のカメラで撮られた写真や動画は2次元情報しかもっていないのですが、3次元空間の映像中にデジタル情報を重ね合わせるためには周囲の3Dデータが必要となってきます。スマートグラス、スマートフォンやタブレットPCでは、ユーザーが自然なAR/MR体験をするには、瞬時に周囲の3Dデータを得ることが求められ、測距デバイスが使われています。
測距デバイスの方式はステレオカメラ、ストラクチャードライト、ToF、LiDARなどが使われています。ステレオカメラは2つのカメラを使い、2枚の映像の視差から距離を測定します。ストラクチャードライトは光源から、予め設計されたパターンを物体に投影し、それを別のカメラで撮影します。投影されたパターンは物体の形状をなぞってゆがむため、物体の3D形状を計算により求めることができます。ToFは光が物体に当たってから戻ってくるまでの時間を計測する測距方法のことで、LiDARと区別されないこともありますが、ToFセンサーは近距離の近接センサーを指すこともあるのに対して、LiDARはより長距離、広いエリアを測定するセンサーを指すことが多いため少なからずニュアンスの違いはあります。測距方式はそれぞれ得意な計測が異なってきますので適材適所で使われています。
カメラ機能をもつコンシューマエレクトロニクスでは、AR/MR体験の向上という目的以外にも、映像の撮影時にLiDARやToFセンサーが、被写体の距離情報を把握し、オートフォーカスや、画像処理で疑似的に被写界深度を浅くするなどの映像修正にも使われるようになると、ますます普及が進んでいくと見込まれています。

現実世界の3次元形状の認識をして、その上に仮想現実のキャラクターと映像を重ねた例。3Dセンシングデバイスで空間を認識して、黄色線で示されるような空間マッピングを行いその上にデジタル画像が合成されます。3Dセンシング方式はステレオカメラ、ストラクチャードライト、TOF(LiDAR)などがあります。カメラで撮影した映像をディスプレイモニタで合成する場合もありますが、AR/MRグラスのようなウェアラブルデバイスをかけることで、より臨場感のあるアプリケーションが拡がることが期待されています。AR/MRグラス用基板ついてはこちらで紹介しています。

LiDARへ適用されるAGCの製品

LiDARは、レーザー光源から信号光を出射するエミッター、反射光をセンサーで検出するレシーバー、筐体、制御系や駆動機構を含む内部部品に分けることができますが、エミッター側、レシーバー側、筐体のそれぞれで適用される部材について紹介します。

エミッター側: DOE・拡散板、非球面モールドレンズ、ガラスセラミックス基板(GCHP®
レシーバー側:光学フィルター、非球面モールドレンズ
筐体:カバーガラス

DOE・拡散板

エミッター側からと近赤外線の半導体レーザー(NIR-LD)を出射しますが、その際、光を狙ったスキャンエリアに拡げることや強度分布を持たせるための光学部品です。LiDARだけでなく、上述したストラクチャードライト方式やTOFなどの3Dセンシングでも使われる光学部品です。
DOE(Diffractive Optical Element)は、レーザー光の回折を利用してレーザー光を任意のパターンに変換します。拡散板は光の屈折を利用してレーザー光を照射したいエリアへ拡散させます。AGCでは無機材料のみで光学素子を作製することができるので、高い耐光性をもたせることができます。例えば、LiDARは日中の太陽光下で長距離の検出が必要とされ、高いピーク光強度をもつレーザー光を扱う場合でも高い信頼性を発揮します。また、独自設計と製造プロセスで高拡散角、高効率などの特性を実現します。

DOE・拡散板素子

半導体レーザーパッケージ用ガラスセラミックス基板(GCHP®

エミッター側の光源に使われる半導体レーザー用のパッケージ基板として使用されます。GCHP®(Glass Ceramics Hybrid Package)は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)の技術と、AGCのガラス材料技術を組み合わせて開発された新しいガラスセラミックスハイブリットパッケージ基板です。LiDARでは長距離を感度よく計測するために、高出力化が必要となりますが、独自のヒートシンク構造により、素子から発生する熱を効率よく逃がすことができます。GCHP®は、端面発光レーザー(EEL)、面発光レーザー(SEL)、垂直面発光レーザー(VCSEL)などの半導体レーザーでも高出力化に対応して高い放熱性を持たせた設計が可能となっています。

GCHP®(Glass Ceramics Hybrid Package)基板

非球面ガラスモールドレンズ

エミッター側とレシーバー側の両方で使われます。LiDARの設計のよって実現したいレーザー光の制御は変わりますが、レンズはレーザー光を直進光で長距離飛ばすためのコリメートや、広いスキャンエリアへ光を照射するための発散、反射して戻ってきたレーザー光をセンサーへ集める集光など、様々な役割を持っています。AGCではレンズをモールドプレス法によって加工します。この方法は精密加工された金型に、ガラス材料を入れ、加熱して軟化させた後、 プレスをするため、ガラスモールドレンズと呼ばれています。量産性に優れている製法のため、量産時のコスト低減に寄与します。金型とガラス硝材、成型プロセスの選択によって対応できる形状は異なりますので詳細はお問い合わせください。

モールドプレスで作製されたレンズ

光学フィルター

レシーバー側で使われます。LiDARでは反射光以外の光(太陽光や照明光など)はノイズとなりますので、光学フィルターでカットする必要があります。半導体レーザーから出射した近赤外線のみの波長を透過させることで、検出感度を高めることができます。
光学フィルターは屈折率の異なる誘電体多層膜を積層し、薄膜の界面で発生する反射光の干渉現象を利用し、特定の波長を任意に選択透過させることができます。そのため、透過する帯域を狭く限定でき、コントラストの明瞭なフィルターが得ることができます。幅広い波長、透過率、阻止帯域等に対応しております。

光学多層膜によるフィルター

カバーガラス

筐体部分に使われます。LiDARの内部構造を飛び石などの衝撃などから保護するカバーとしての機能と、センシングに使う近赤外線の高い透過率が要求されます。
車載LiDARにおいてその設置場所として車内は、好適な場所のひとつです。これは車内の方が、急激な温度変化や雨風などの厳しい環境にさらされるリスクが少ないことや、ウィンドシールドなどの窓越しにセンシングする場合、窓部分のクリーニングが行いやすい、などの理由のためです。AGCでは、ウィンドシールドに赤外線高透過ガラスを用いるWideyeプロジェクトを扱っています。
LiDARの設計思想や、設置場所などによっては必ずしも車内だけがオプションではなく、その場合、カバーガラスへの要求特性も様々です。窓ガラスと共用しない場合は、可視光は通す必要がありませんので例えば黒色のカバーガラスというものもあります。AGCではガラスの強度評価ノウハウ、各種加工や製膜技術があります。また、カバーガラスに霜取りや融雪機能を持たせるためにヒーターを付与することもできます。LiDARあるいはカメラのカバーガラスについてもお問い合わせよりご要望をご連絡いただければ検討いたします。

IR透過カバーガラス(黒タイプ)

適用領域1:DOE、拡散板

適用される製品

LiDARはエミッターから出射される光を精度よくかつ広域にスキャンすることが必要です。図はLiDARのスキャン方式による違いをまとめています。レーザー光をコリメートして長距離飛ばして、スキャンをする方式や、レーザー光を、空間的に拡げて測定対象を照射することで、一度に広いエリアの情報を得ることができるフラッシュなど方式があります。DOEや拡散板といった光学素子は、レンズなどの光学系を組み合わせて使われ、光の任意のパターンや強度分布にするために使われる光学素子となります。光の照射パターンは、測定時間や感度にも影響するため、角度範囲の大小や、ドットパターンであれば個数や分布などいろいろなパターンが検討されています。

■ Scanning LiDAR

 

■ Flash LiDAR

LiDARがレーザー光で周囲をスキャンしている様子。スキャン方式では、平行光をスキャンしながら点群で3次元データを取得します。中央のラインスキャンは、縦方向か横方向に点群を形成するか、光学系で拡がりをもたせるかレーザーを振ってスキャンします。フラッシュでは、一度に全方位を照射することでデータを取得します。

AGCでは光学設計技術とガラスの微細加工技術を組み合わせて、DOE(Diffractive Optical Element:回折光学素子)やガラス拡散板を製造しています。DOEや拡散板はレーザー光を制御するのに適した光学素子で、特に長距離を飛ばす必要のあるLiDAR向けのレーザーに対する耐久性や、車載用途など厳しい環境でも安定的に使うにはガラスのような無機材料が適しています。

適用領域2:半導体レーザー用セラミックパッケージ基板

適用される製品

LiDARではレーザー光を日中の太陽光や、室内の照明などの外部光がある環境下で長距離飛ばすことが必要です。十分な信号光強度を確保するために時に高い電力が投入されますが、そのために放熱性といった特性もパッケージ基板に要求されています。AGCで開発したGCHP®は、AGCのガラス技術とセラミックス技術の融合により生まれた新しい基板です。元来はハイパワーの高輝度LEDや厳しい環境試験をクリアする必要のある車載用LEDヘッドランプなどのパッケージ基板に使われている材料でしたが、高い放熱性や耐久性、気密性などの特長は、高度な信頼性が要求されるLiDAR光源の半導体レーザーパッケージ基板としても利用価値の高いものとなっています。

GCHP®基板の適用例。半導体レーザーチップを搭載するパッケージ基板に使われます。導電性の高い銀(Ag)をヒートシンクに用いる構造になっているため、外部へ放熱されます。またGCHP®は、LTCCプロセスで形成されるために、内層配線が可能であり、設計の柔軟性や高集積性に寄与します。

AGCではガラスセラミックス基板(GCHP®)をガラス素材から最終基板まで一貫生産しています。自動運転システム等での3Dセンシングでの採用により脚光が当たっている垂直面発光レーザー (VCSEL)は高い放熱特性や高い信頼性が要求されるため、GCHP®が適する応用例の一つです。材料のもつ放熱性や信頼性の優れた特性やLTCCの技術を適用しているため内装配線が可能なことなどを紹介しています。