マイクロ流路デバイスは樹脂やガラス、シリコンの微細加工技術を使い、ナノメートルからミリメートルオーダーのスケールで主に平面状に加工がされます。近年ではマイクロ流路デバイスは非常に幅広い用途で利用されています。とくにライフサイエンス、化学、分析などの分野の応用事例が多くなっています。
ここではよく用いられるマイクロ流路のデバイスの用途について広く紹介しています。用途に応じて適している材料はそれぞれあり、ガラスや樹脂が選ばれますが、ガラスマイクロ流路は、新しいアプリケーションの拡がりと、ガラス加工技術の開発によりさらなる発展が期待されます。

マイクロ流路デバイスとは

マイクロ流路デバイスは、µTAS (Micro Total Analysis Systems)、Lab on a chip、フローセルとも呼ばれることもありますが、総称してマイクロ流路デバイスという呼び方が一般的です。樹脂やガラス、シリコンの微細加工技術を使い、ナノメートルからミリメートルオーダーのスケールで主に平面状に加工がされます。マイクロ流路は、内部で色々な機能を持たせるために、平面上で入り組んだ構造に作られます。近年ではソフトウェアの開発により、流路の複雑な構造や、流れ、拡散、毛細管現象なども高精度で予測できるようになっています。

AGCでは長年、光学分野でガラスの微細加工を用いた量産を行ってきました。マイクロ流路デバイスは、ガラスの微細加工という共通点がある他、光学分野とも非常に関連の深い分野です。具体的には、撮像による観察、蛍光やラマン、分光測定といった光学評価が必須のツールとなっており、分析システムに適用な光学部材を多数、取り揃えています。ここでは主に、マイクロ流路デバイスと、AGCで扱っている加工例についてご紹介しています。光学部品の製品はこちらをご参照ください。

AGCのガラスマイクロ流路デバイスの特徴

ご要望に応じて様々なガラス加工が可能です。等方性エッチング形状、異方性エッチング形状どちらにも対応が可能です。量産まで見据えた試作を検討したい、また高アスペクト比、深掘りガラス微細加工が必要といった場合は是非お問合せください。

特徴

  • ガラス材料×微細加工技術を活かした高性能加工
  • ガラス材料の高透過、高信頼性
  • ガラス加工技術の量産実績
  • 独自の加工方法による高アスペクト比、深掘りガラス加工
  • ガラスの直接接合技術
  • 各種のコーティング処理が可能

マイクロ流路デバイスの用途

近年ではマイクロ流路デバイスは非常に幅広い用途で利用されています。とくにライフサイエンス、化学、分析などの分野でよく使われています。用途に応じて適している材料はそれぞれあり、ガラスが用いられるのは一部ですが、ここではよく用いられるマイクロ流路のデバイスの用途について広く紹介しています。

用途

  • セルソーター、フローサイトメトリ―、セルカウンター
  • DNAシーケンス
  • 診断チップ(イムノアッセイ、PCR、CTC)
  • 生体模倣システム
  • ナノ、マイクロ粒子の合成
  • 化学合成
  • 分析用途

セルソーター、フローサイトメトリ―、セルカウンター

流路構造内に、細胞を流して、細胞の分析、分離、計測を行います。細胞を一列に配列させて、レーザー光を用いて、散乱光や蛍光を測定することで検査を行う装置は、フローサイトメーターと呼ばれ、細胞を扱う機関では広くつかわれています。従来は、石英光学フローセルというバルクの石英に矩形の直線流路が形成されたものが用いられていましたが、マイクロ流路デバイスを使い、ワンチップの流路内部で、細胞の流れを制御して、一列に配列することや、分析、細胞の分離なども行えるようになってきています。

セルソーティングの技術は、希少細胞の検出にも応用されます。CTC(Circulating tumor cell)分離技術です。CTCは血液ミリリットルに数個しかない希少な細胞ですが、ガンを検出するには非常に有効です。マイクロ流路を使用して分離する方法などが開発されています。

診断チップ

イムノアッセイ

イムノアッセイは、抗体が特定の抗原に特異的に結合する能力を利用した汎用的なバイオマーカーの検出方法です。身近な例としては、イムノクロマト法とよばれるインフルエンザやコロナなどのウイルス抗原の陽性判定や、抗体を持っているかの抗体検査などがあります。

ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法は、定量性のあるイムノアッセイの評価方法で、溶液内で、標識物質として酵素が結合した抗体を、マイクロウェルなどの底に固相化されたターゲット抗体と結合させて測定をします。マイクロ流路を用いることで、ワンチップでの感度の高い分析が実現されています。

PCR

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法は、DNAを増幅する手法です。微量なDNAでも増幅が可能で、研究や医療に幅広く使われています。近年ではウイルスのDNAまたはRNAをPCR法により増幅してウイルスを検出することもされています。PCR法は、2本鎖DNAが、水溶液中で高温になると1本鎖DNAに分かれることと、冷却していくと相補的なDNAが互いに結合し再び2本鎖となることを利用しており、これを繰り返すことで増幅されます。サイクル中の反応液の混合、調整、加熱・冷却などの温度管理、繰り返し回数、反応生成物の検査などが必要で、マイクロ流路を使ったワンチッププロセスで簡易化が実現できます。

DNAシーケンス

DNAの二重らせんはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4塩基から構成されますが、この配列を決定することをDNAシーケンスと呼びます。基本的な原理は、まずターゲットのDNAをPCRの原理で増幅させ、様々な長さのDNA断片を作製します。このDNA断片を長さごとに並べかえて末端の塩基についている蛍光色素を検出することで配列を決定します。この手法では一つずつしか解析ができず、時間もかかってしまいますが、次世代型シークエンサーと呼ばれる手法では、マイクロ流路デバイスを利用して同時並行で一気に複数のDNA 配列を決定することができます。

生体模倣システム(MPS)

生体模倣チップはOrgan-on-a-chipとも呼ばれています。流路に構造を作り、細胞を吸着させて応答を評価しますが、流路構造で臓器での三次元構造、界面での液の交換などに加えて、引っ張りや押圧などの物理刺激などを模擬することでより、実際の人体に近い環境がチップ上で実現されます。開発されている臓器の種類も増えており、主に創薬分野で、人体実験をしないでも臓器からの応答を予測することで開発スピードの加速や毒性のリスクを減らすことが期待されています。

ナノ、マイクロ粒子の合成

2本のマイクロ流路から溶液を合流することで、ナノ、マイクロサイズの粒子(ドロプレット)が合成されます。例えば、水と油を合流させた場合に、液滴や油滴が作製されるような原理で、流路を使うことで従来の乳化法などにくらべてサイズが揃ったものができる特徴があります。また、個別のドロプレットの中に、一つの分析対象のRNAやDNAを導入することで、閉じたドロプレットのなかで、解析を行うこともでき、デジタルPCRやシングルセル解析と呼ばれる分野で、近年非常に大きな注目を集めています。

化学合成

また、マイクロ流路を使うことで、バルクの系では実現のできないような化学反応を起こすことができます。例えば、拡散を非常に早くすることができることや、反応の順番を制御して混合系での合成収率を高くすることができるようにもなります。このような化学反応をメインとしたµTASはマイクロリアクタとも呼ばれています。

マイクロ流路チップ

分析用途

非常に微小な量での分析が可能になるために、化学量のモニタリングなどを行うことができます。水質の検査などに使われます。また、分光やクロマトグラフィーといった分析機器にも使用されます。

マイクロ流路デバイスに使われる材料

材料としては、加工のしやすさからPDMSが用いられることは多くなっています。PDMSは、通常のフォトリソグラフィプロセスで試作が用意であることや、伸縮性があるため、流路に圧力などの力学的な力を加えることができるために使われることが多くあります。また、エンボス成型、射出成型といった量産性を考慮して、ポリカーボネート(PC),ポリスチレン(PS), PMMA, COC, COP,ポリマー材料も用いられます。

ガラスとしては、石英やホウ珪酸ガラスが用いられます。ガラスを用いるメリットは、高い透過率、高い加工精度、量産性に優れた加工方法があることです。化学的に安定であるため、様々な試薬や有機溶媒を用いることができます。樹脂の場合は、薬剤が流路内壁から内部へ浸透してしまうことや、有機溶剤によって溶けてしまうリスクがありますが、ガラスの場合は多くの場合でその心配がありません。

また、自家蛍光が少なく、またレーザーによる劣化やダメージなどもないため、ハイエンドな蛍光分析ではよく用いられます。シリコン(Si)も材料の耐久性や加工性は優れた材料ですが、透過性がないため、光学的な評価には向きません。LTCC(Low-temperature co-fired ceramics)は、シート積層で形成されるセラミック基板で、物理的・化学的耐久性が高く、流路構造や内部配線が形成しやすいために面白い素材です。

マイクロ流路は、使い捨てを想定して使う場合と、洗浄・滅菌処理などをして繰り返し用いることが想定されます。UV照射やオートクレーブなどの滅菌処理においても、劣化がないために、繰り返し用いることができます。リユースについては、コスト面でもメリットがありますが、製造ばらつきによる精度を揃えたい場合にも有効です。

AGCではガラス加工技術に長年の実績があり、試作から量産まで対応をしております。特に、高アスペクトや、超深掘りの流路加工、接着剤を用いない直接接合といった技術も開発しています。従来からあるドライエッチングやウェットエッチング加工ではこれまで実現が困難であった領域にもご相談が可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

ガラス その他無機材料 ポリマー
ホウ珪酸ガラス
石英
Si
LTCC
PDMS, PC, PS, PMMA, COC, COP, etc.
光学特性 高い透過率 光透過性がない 材料・波長によるが透過率が下がる
耐光性 非常に高い 材料・波長によるが光劣化が起きる
耐薬品性 非常に高い 薬剤の浸透や、強力な有機溶剤によりダメージを受けやすい
耐熱性 非常に高い 高温処理には適さない
自家蛍光 非常に低い 材料によるが発生する
チップの再利用 必要に応じて、洗浄や滅菌処理での再利用も可能 基本的には使い捨てを前提

マイクロ流路デバイスの加工例

ガラスに直接加工をして流路を形成しています。ここで挙げているのは、マイクロ流路でよく利用される代表的な構造の例となります。実際には、用途に応じた形状の設計をして、さらに複数の流路構造を組み合わせて使用されます。

直線流路:
液や細胞、微粒子を輸送しながら観察を行う基本的な構造です。流路長、深さ、幅や断面形状はカスタマイズ可能です。

チャンバー付き流路:
流路内にチャンバーを設けた構造です。細胞の観察や、化学反応の制御、パーティクルの回収などができます。

ドロプレット生成器:
2本の流路から水性と油性の溶液を合流させて表面張力の効果により液滴(ドロプレット)が合成されます。

微細加工付き流路:
流路内に微細加工を設け、液と液の拡散や界面での化学反応を制御します。

Y字ミキサー:
2液が流路内部で混合しながら反応が進んでいきます。流路長で反応時間を変えることができます。

スパイラルセルソーター:
中央の導入口から液が導入され、遠心力により微粒子や細胞を分離させて収集します。

微細加工部の拡大画像:
ご要望に応じて様々なガラス加工が可能です。等方性エッチング、異方性エッチングどちらにも対応が可能です。量産まで見据えた試作を検討したい、高アスペクト比、深掘りガラス微細加工が必要といった場合は是非お問合せください。

マイクロピラー マイクロウェル 分岐 ミキサー

直接接合

流路の接合には、樹脂の接着剤を介した接合を用いらえますが、使う溶剤や、マイクロ流路デバイスの処理によって、樹脂の溶出や劣化といった問題がある場合、ガラスのオプティカルボンディングもご相談可能です。また、オプティカルボンディングは通常900度程度に加熱をして、接合がなされますが、低温での接合プロセスもご相談ください。

マイクロ流路デバイス関連の製品

マイクロ流路デバイス受託加工

ご要望に応じて様々なガラス加工が加工です。等方性エッチング、異方性エッチングどちらにも対応が可能です。量産まで見据えた試作を検討したい、高アスペクト比、深掘りガラス微細加工が必要といった場合は是非お問合せください。マイクロ流路デバイスは、観察、蛍光やラマン、分光測定といった光学評価が重要ですが、光学コンポーネンツ(光学薄膜、光学微細加工など)との組み合わせたような加工についてもご相談ください。

撥水性コートサイトップ

サイトップはアモルファス(非晶質)構造のため、極めて高い透明性を実現します。専用のフッ素系溶媒に溶解するため薄膜コーティングが可能です。また「透明性」「低屈折率性」「電気絶縁性」「撥水・撥油性」「耐薬品性」「水との屈折率類似性」「非蛍光性」などの特性を同時に有します。

アサヒクリンシリーズ

液滴(ドロプレット)生成には界面活性特性の高いHFC(ハイドロフルオロカーボン)のフッ素系溶剤が使われます。アサヒクリンシリーズは幅広い温度領域で液体あり、熱的・化学的に安定なため、さまざまな温度範囲でお使いいただけます。

細胞非接着コート

ガラスや樹脂表面に細胞非接着コートを施すことで、未処理のガラスや樹脂と比べて、細胞やタンパク質を含むサンプルを使用した際の非特異接着を抑制する効果が期待できます。