素材開発では、研究者の知識と経験に基づき実験を繰り返して新規材料を見出す方法が一般的であり、開発に10年以上を要することもあります。近年計算科学や情報科学を用いて、素材開発を大幅に効率化するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)が注目されていますが、これまでは実験データの保管形式が統一されていなかったため、MIの本格活用が難しい状況でした。

ＡＧＣは統合化された実験データ保管プラットフォームをMI活用の重要な基盤と捉え、研究開発業務向けに電子実験ノートの機能を併せ持つMIデータベースシステムARDISを独自開発しました。日々の実験計画や結果をARDISにノートの様に繰り返し記録することで、MIに活用可能なデータが自動的に蓄積される仕組みとなっています。ARDISを使用することで研究開発データの品質が向上するとともに、研究者間、組織間でのデータの共有化が進み、データに基づいた効率的な研究開発が可能となります。

またARDISに蓄積される実験データの迅速な活用を目的として、独自のMI分析ツールAMIBAを開発しました。これにより、データ入力からデータ分析までを一貫して実行できる開発環境を研究者に提供し、あらゆる開発ステージで現象の理解や特性予測が進み、研究開発の効率化が加速しています。

2020年より開始した試験導入では、スマートフォンなどに用いられる化学強化ガラスの開発において、強度が最大になるようなガラス組成の発見や、自動車用ガラスの開発における多様なニーズを満たす高機能コーティング材料設計のスピードアップなど、様々な効果が実証されています。また燃料電池用ポリマーの分子構造設計にも本システムを活用することで、AIが提案する構造を参考にしながら、新たな視点に基づき新材料構造の探索に取り組んでいます。今後は社内MIコンサルティングなどの取り組みによりデータを活用できる人財を育成し、MIによる新規素材開発をさらに加速させていきます。