AGC Research Report 68(2018)

Development of quartz glass lens for UV-C LED

UV-C LED用石英ガラスレンズの開発

貴島美紗子*・西方真美*・谷田正道*・篠崎泰夫*・安齋潤子**・樋口義明***・
松本英俊****・滝川 淳平****・菊川 信也****
Misako Kijima, Mami Nishikata, Masamichi Tanida, Yasuo Shinozaki, Junko Anzai,
Yoshiaki Higuchi, Hidetoshi Matsumoto, Jumpei Takikawa, and Shinya Kikugawa

*AGC株式会社 技術本部 商品開発研究所
**AGC株式会社 化学品C CSR室品質保証第2統括グループ
***AGC株式会社 化学品C 戦略本部 開発部 機能商品開発室
****AGC株式会社 電子C 電子部材/アドバンストマテリアル事業部

 殺菌、消毒、浄水、空気清浄、樹脂硬化、分析などの用途に用いられる紫外光源は、現在水銀灯が多く使用されている。しかし「水銀に関する水俣条約」により2020年以降水銀ランプの生産、使用が制限され、より人体や環境負荷の少ないLED(発光ダイオード)への転換が加速することが予想される。

  紫外LEDのパッケージには、平板もしくはレンズなど形状のついた窓部材が用いられる。レンズ形状の窓部材は、外気から紫外LEDチップを保護するとともに、LEDから発せられた紫外線(Ultraviolet,以下UV)の光線を制御し、効率の良い照射を可能とする。窓部材の材質は、波長280 nm以下のUV-C領域の利用においては、耐久性と透過特性に優れた石英ガラスが好適である。

近年のUV-C LEDの高出力化に伴い、これまで水銀ランプ等で行っていた水殺菌、空気殺菌などの紫外線殺菌の領域へのLED光利用の期待が高まり、光源の更なる高効率化は重要となってきている。しかし、石英ガラスの切削・研磨によるレンズ製造では石英ガラスインゴットからの機械加工となる為、生産性が低く、加工・研磨可能な形状に制限があり、利用は限定的とされる。著者らが独自製法を用いて開発した石英レンズは広い波長範囲において高透過率で、球面、非球面レンズ、LED素子側に凹みを付けた平板(以下キャビティ)、それらのアレイといった自由な形状を作ることができ、UV-C LEDの窓部材として有用である。

Mercury lamps are used as UV-C light sources for sterilization, disinfection, water and air purification, resin curing, and analysis. However, after 2020, their production and use will be restricted according to the Minamata Convention on Mercury. Therefore, it is expected that their replacement with LEDs(light emitting diodes), which minimally affect the human body and environment, will be accelerated.


For UV-C LED packages, a window material is used to form a flat plate or lens. The lensshaped window material protects the UV-C LED chip from the air, controls the flux of UV-C light emitted from the LED, and allows efficient irradiation. Quartz glass has excellent durability and transmits in the short wavelength region; it is therefore an ideal window material for UV-C LEDs. As well as increasing the power output of UV-C LEDs, it is expected that this material will be applied in areas where UV-C LED sterilization has not yet been used, such as water and air sterilization. It is thus important to improve the efficiency of the light source. However, it is difficult and expensive to mass-produce lenses by cutting and polishing quartz glass. Quartz lenses developed through our manufacturing method exhibit high transmittance within a wide wavelength range and can be shaped into spherical and aspherical lenses, lens arrays, and cavities, making them useful window materials for UV-C LEDs.

1. 緒言

 UVはUV-A(320-400 nm)、UV-B(280-320 nm)、UV-C(200-280 nm)、真空紫外(200 nm以下)域に分けられる。UV-Cのうち波長260-265 nmの光は、DNAが波長260-265 nmに吸収帯を持ち、吸収によりDNAが2量体化してウイルスや細菌が増殖できなくなることから、殺菌に最適である。殺菌用途の光源としては、従来、184.9 nm、253.7 nmにピークを持つ低圧水銀ランプが主であった。しかし2013年に採択された「水銀に関する水俣条約」(1)により、2020年から水銀含有の製品(電池や照明用蛍光ランプ、水銀灯など)の製造や輸出入が禁止になる。そのため、低圧水銀ランプの置き換えとして、UV-C LEDへの期待が高まっている(2)。さらに、Table 1に示すようにUV-C LEDは小型軽量化ができ、熱放射が少ないなど様々な利点があり、水、空気、食品などの殺菌、医療やライフサイエンス、UV硬化樹脂向けのアプリケーションなど幅広い分野で応用が期待される(3)。近年の市場規模予測(4)(5)によれば、2025年には世界市場で500億円/年を超えるような急速なUV-LEDの市場規模拡大が見込まれており、UV-C LED市場の形成がこの拡大を牽引すると予想されている(Fig. 1)

Table 1. Comparison of UV-C LED and mercury lamp(2)
Fig. 1 Market size forecast of UV-LED(4)(5)

 一方で、UV-C LEDの製造には、基板、成膜、高出力化、パッケージ封止それぞれに関して非常に高い技術が要求され、製品化のハードルも高いとされてきた。しかし近年の技術の進展により、AlN/AlGaN系UV-C素子の内部量子効率、電子注入効率が向上しつつあり(6)、殺菌用途のUV-C LEDアプリケーション の普及を見据えて波長260~280 nm帯中心、出力数mW~数十mWのUV-C LEDパッケージが次々市場展開されている(Table 2)。

Table 2. Examples of commercially available UV-C LED package(10)-(14)

 低圧水銀ランプの電気・光変換効率は20%程度であり、現状1-2%程度(発熱損失が98%)のUV-C LEDの効率が低圧水銀ランプと同等以上になった際、普及が加速すると考えられ、一素子あたり100 mW以上の高出力UV-C LEDの実現を目指し、素子構成の改良が進められている。

 UV-C LED高出力化に伴い、高エネルギー光に耐久性のあるLEDパッケージの素材が必須となる。現状、放射された光を透過するLEDパッケージの窓材は安価なエポキシ樹脂や耐熱性の高いシリコーン樹脂など有機素材が一般的で、これらはLED素子を空気や水蒸気から保護する封止剤としての機能も兼ねている。しかし、窓材はLED素子の放射光を至近距離で受ける為、樹脂の黄変とそれに伴う透過率低下が課題となる。そこで青色LED以下の短波長素子や、高出力素子においては、樹脂の開発・改良と共にガラス等無機素材の窓材が検討されてきた。シリコーン樹脂の改良により、365 nmにおける高い透過率(>90 %)と耐久性のある窓材が市販されているが、殺菌用途のUV-C LEDの260-280 nm帯においては透過率、耐久性を確保できるシリコーン樹脂はなく、有機素材ではフッ素系樹脂、無機素材では紫外線透過ガラスや石英ガラスが窓材の候補となる。

 著者らはUV-C LEDが今後幅広い分野で応用されるために、LEDチップからの光を効率よく必要な領域へ照射できる窓材が必要となることに着目し、独自製法によるUV-C LED用石英ガラス窓材を開発した。本稿では著者らが開発した石英ガラス窓材の特性とLEDパッケージ設計の自由度を高め、高効率化に寄与する石英ガラス窓材への形状付与について報告する。

2. 透過率

2.1. 開発品の透過特性

 Fig. 2に表面実装型LEDパッケージの模式図を示す。セラミックスパッケージ内にUV-LEDのチップと回路が搭載され、その上にUVを透過する窓部材が取り付けられ、シール材により気密封止されている。なお、無機シール材は一般的に金-スズはんだが用いられる。LEDチップからの発光は窓部材を通過して外部へと取り出される。よって、窓部材の吸収はロスとなり、透過率はLEDの効率に影響を及ぼす。窓部材の素材としてはシリコーン樹脂、ガラスなどが考えられるが、殺菌用の265 nmの光源においては、UV-C領域でも高透過率を確保できる石英ガラスが適している

Fig. 2 Schematic illustration of surface mount type UV-LED package.

 Fig. 3にAGCの合成石英ガラスAQ2と石英ガラス開発品の直線透過率のグラフを示す。測定サンプルの厚みは1 mmであり、表面反射を含んだデータである。このように開発品はUV-C領域を含む広い波長範囲で合成石英ガラスに迫る透過率を実現できる透過率特性を持つ。

Fig. 3 Linear transmittance of our development quartz glass and AQ2

2.2. UV-C透過率向上

 Fig. 3から分かる様に、250 nm付近になると開発品は合成石英ガラスAQ2と比較して透過率が低下する。一般に250 nm付近のUV透過率を低下させる要因として、構造欠陥と金属不純物の存在が考えられる。構造欠陥は≡Si-O-Si≡結合からなるシリカネットワーク構造の乱れであり、250 nm近傍に吸収の中心を持つ構造欠陥としては過酸化ラジカル(POR, ≡ SiOO・)、酸素欠乏結合(ODC(Ⅱ), ≡Si- - -Si≡)非架橋酸素空孔欠陥(NBOHC, ≡SiO・)が挙げられ、それぞれ240nm、247nm、255nmにピーク中心のある吸収帯を持つ(7)(8)(9)。金属不純物としては、238 nmにピーク中心のある吸収帯を持つFeが考えられる。構造欠陥のうち、開発品にNBOHCが存在することが蛍光分光分析およびESRにより確認された。NBOHCは265 nmの透過率にも影響を与えると考え、還元雰囲気下での熱処理を行い、改善を試みた。Fig. 4に還元雰囲気処理前後の蛍光スペクトル、Fig. 5にESRスペクトルを示す。処理後にNBOHCに帰属されている

Fig. 4 Fluorescence spectrum change before and after reducing atmosphere treatment
Fig. 5 ESR spectral change before and after reducing atmosphere treatment

ピークが不検出となることが分かった。還元処理によりNBOHC(≡SiO・)が波長250~800 nmの領域に吸収を持たない形に変化したと考えられる。Fig. 6に還元雰囲気処理前後の、直線透過率のグラフを示す。265 nmの透過率が89.8 %から90.4%まで向上しており、殺菌に適した波長265 nmで>90 %の優れたUV-C 透過性を確保することが出来た。石英ガラスの構造欠陥は製造条件に依存しており、金属不純物は原料やプロセスから混入すると考えられる。今後は265 nm透過率のさらなる向上と、200-250 nm領域や、200 nm以下の真空紫外域のLEDパッケージ向けに高透過率(>90 %)を確保できる石英ガラスとなるよう製法の改良を進めている。

Fig. 6 Linear transmittance change before and after reducing atmosphere treatment

3. 形状付与

 殺菌など幅広い用途でUV-C LEDが用いられるには更なる電気・光変換効率を高め、1チップあたりから得られる光量を向上させることが課題である。変換 効率向上の為にはUV-C LEDチップの内部量子効率および取り出し効率の改善が必須であり、様々な研究開発が行われている。光量向上のもう一つの方向性として、LEDチップからの光を効率よく必要な領域へ照射するためのパッケージの形状を設計することがある。表面実装型LEDにおいては、LEDの発した光をセラミックスパッケージにより反射させ、窓材としてレンズを搭載することにより外部に出る光の指向性をさらに高める設計が一般的である。

 LEDチップと回路を封入する樹脂をレンズ形状に盛り上げることは光に指向性を持たせる簡便な方法であるが、前述した様にエポキシ樹脂、シリコーン樹脂がUV-Cにより劣化するためUV-C LEDには不適である。石英ガラスは波長265 nmで>90 %の優れたUV-C透過性を有するが、溶融/合成石英ガラスのインゴットからの切削・研磨加工は生産性が低く、プレス成形は石英ガラスの軟化点が約1700 ℃であり困難である。以上のように、UV-C LEDの光の指向性を高め、効率を向上させるための窓材への形状付与には素材からの制限があった。著者らは独自製法を用いて、波長265 nmで高透過率(>90 %)かつ自由な形状付与ができる石英ガラスを開発した。Fig. 7にセラミックスパッケージのサイズと形状に合わせて後述する特殊シール材を付けた3 mm角の球面レンズの外観と形状を示す。

Fig. 7 Appearance and shape of lens

 独自製法では球面、非球面、フライアイレンズなどのレンズ形状だけでなく任意の形状を製造可能で、LEDパッケージ設計の自由度の向上に貢献できる。また生産性向上の為レンズはアレイ化し、ダイシングレーザーカットにより個片化することも可能である。Fig. 8に3.5 mm角の底面にLEDチップを封入できるキャビティ形状を付けた3.5 mm角のレンズアレイの外観を示す。

Fig. 8 Appearance and shape of lens array with cavity

 Fig. 9にレンズを搭載したUV-LED有機パッケージ模式図を示した。現状、平板窓部材の上に透明接着剤を用いて安価なシリコーンレンズを接着する形のパッケージが多い。しかし有機透明接着剤やシリコーンレンズが紫外線で劣化すること、シリコーン樹脂のUV透過率が低いこと、平板窓、透明接着剤、レンズの屈折率がそれぞれ異なるため、反射損失があることなどが課題となる。開発したフランジ付石英ガラスレンズは平板とレンズが波長265 nmで高透過率(>90 %)の同一素材で一体化しているため、これらの課題を解決できる。また、平板にLEDチップを封入するためのキャビティ付きの形状やその上にレンズを一体化した形状などが可能であり、パッケージ設計全体の自由度を高めることも出来る(Fig. 10)。

Fig. 9 Schematic illustration of surface mount type UV-LED package with window lens
Fig. 10 Example of package design with free formed window

4. 石英レンズ窓部材搭載による光指向性

 照明設計解析ソフトウェアlight tools(Synopsys社製)を用いて、UV-C LEDパッケージにおいてレンズ搭載によりUV光の指向性がどのように変化するかを確認した。レンズ窓部材は外形3.5 mm角、平板部厚み0.3 mm、レンズ部半径1.0 mmの球面レンズとし、比較の平板窓部材は外形3.5 mm角、平板部厚みを0.3 mmとした。その他のシミュレーション条件はTable 3に記載した。

Table 3. Parameters used in this study

 得られた光線追跡と配光曲線の結果をFig. 11、Fig. 12に示した。平板窓部材においてはLEDパッケージより出射された光の配光角は約±60°と広く拡散しているが、球面レンズを搭載した窓部材では約±10°と狭く、狙った領域に高い照度でUV-C光を照射できる。

Fig. 11 Simulated light angle with flat window member
Fig. 12 Simulated light angle with aspherical lens

5. 特殊シール材との複合化

 前述した様に、窓部材はUV-LEDのチップと回路を搭載したセラミックスキャビティにシール材により気密封止される。無機シール材は一般的に金-スズはんだが用いられ、接合時に無酸素環境が必要になる。また、はんだを溶かす為、約300 ℃以上の加熱をするとLEDチップの損傷が発生する。ガラスとセラミックスキャビティの熱膨張率の差により発生する応力によって、接合部のガラスが割れる、もしくはガラスとシール材が剥離することで、リークが発生してしまうことも問題となっている。AGCではこれら問題の解決のために、大気中封止でき、低融点で、熱膨張差を緩和できる、メタライズと独自組成のはんだを組み合わせた特殊シール材を開発した。開発品の石英ガラスにこの特殊シール材を複合化することも可能である。Fig. 13に3 mm角の石英レンズ窓材へ特殊シール材を付与した複合体の外観を示す。特殊シール材は290 ℃以下の大気下はんだリフロー工程でセラミックスキャビティと接合可能である。

Fig. 13 Lens window member combined with our sealing material

6. 結言

 殺菌用途などに期待されるUV-C LEDパッケージの窓材に適した、球面、非球面レンズや任意の形状を製造可能で、波長265 nmで>90 %の優れたUV-C透過性を有する石英ガラスを開発した。シミュレーションの結果により、フランジ付き石英レンズはUV-LEDパッケージの出射光の指向性を高めることが期待される。

 今後、UV-C LEDの内部量子効率の向上、光取り出し効率の向上に伴い、水殺菌、空気殺菌などへの展開が進行し、様々なパッケージ設計、窓材の配光特性要望が出てくると考えられる。開発品はそれらの自由度を高めることができ、UV-C LEDの普及に貢献できる材料である。

7. 謝辞

 本論文作成に際し、株式会社IBLCの杉浦富弥様に多大なご協力を頂きました。ここに謝意を表します。

参考文献

  1. 外務省HP , https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000070111.pdf(2018年6月22日)
  2. 平山秀樹ほか, ”OPTRONICS 2015年11月号”, P. 90 (2015),(株)オプトロニクス, 東京
  3. 越智鉄美,”光アライアンス 2015年8月号”, P.42 (2015), 日本工業出版(株), 東京
  4. (株)富士キメラ総研 第一研究開発部門, ”2017 LED関連市場総調査”, P.27 (2017), (株)富士キメラ総研, 東京
  5. (株)富士経済 大阪マーケティング本部, ”光源/照明市場 実態・技術・予測 2016年度版“, P.224 (2016), (株)富士経済,東京
  6. 平山秀樹ほか, ”OPTRONICS 2014年2月号”, P. 56 (2014),(株)オプトロニクス, 東京
  7. Linards Skuja, Hideo Hosono, Laser-Induced Damage inOptical Materials: 2000, 4347 (2001)
  8. David L. Griscom, 日本セラミックス協会学術論文誌 創立100周年号, 99 [10] 923 (1991)
  9. Linards Skuja, journal of Non-crystalline solids, 239 16(1998)
  10. 日機装技研社HP, https://www.nikkiso.co.jp/products/duv-led/ (2018年6月22日)
  11. 旭化成社HP,http://www.cisuvc.com/content/documents/files/CIS. KlaranWD.DS.0201518.pdf(2018年6月22日)
  12. DOWAエレクトロニクス社HP,http://www.ultraviolet-led.com/wave/CD-7-2-11-409-XA0F001%20Rev0.7.pdf(2018年6月22日)
  13. LG Innotek社HP,http://led.lginnotek.com/(2018年6月22日)
  14. SEOUL VIOSYS社HP,http://www.seoulviosys.com/jp/ (2018年6月22日)